弁護士の知識

行為能力

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
自ら単独で法律行為をすることができる能力を行為能力といいます。民法は、一般に行為能力がないか、または不十分な者を未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人に分類し、これらの者の行為能力を制限する制限行為能力者制度を設けています。

制限行為能力者の詐術 (最判昭44.2.13)
■事件の概要
被保佐人Xは、その所有する本件土地を抵当に設定してから金銭を借り受けたが、利息を支払わなかったことから、本件土地にYに先順位、Aに後順位の抵当権が設定された。その後、Xは、妻である保佐人Zの同意を得られなかったことを理由に本件売買契約を取り消し、所有権移転本登記の抹消登記手続を請求した。

判例ナビ
Xは、本件土地をYに売却するに当たり、自分が制限行為能力者であることを黙っていた。さらに、Yに対し、「自分のものを自分が売るのに何故妻に遠慮がいるか」と言い、登記関係書類の作成についても積極的に行動していました。そこで、Yは、Xの一連の言行・行動は、民法21条の詐術に当たると主張し、売買契約の取消しは認められないと主張しました。控訴審はXの請求を認容したため、Yが上告しました。

■裁判所の判断
民法21条にいう「詐術を用いた」とは、制限行為能力者が行為能力者であることを誤信させるため、または、制限行為能力者であることを黙秘していた場合において、その者の言動などと相まって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときは、これに当たると解するのが相当である。

過去問
制限行為能力者が、相手方に制限行為能力者であることを黙秘して法律行為を行った場合であっても、それが他の言動と相まって相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときは、詐術にあたる。

被保佐人Aは、保佐人の同意を得ずに、Aが所有する土地Cに売却する契約をCとの間で締結したが、その際、Aは、自分が被保佐人であることをCに告げなかった。この場合、被保佐人であることを黙秘することをもって直ちに民法21条の「詐術を用いた」といえるため、Aは、その契約を取り消すことができないとするのが判例である。