信義則・権利濫用の禁止
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
信義則 (信義誠実の原則) とは、社会生活の一員として、相手方の信頼を裏切らないように誠実に行動しなければならないとする原則をいいます。民法は、信義則を私権に関する基本原則の1つに位置づけ、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と規定しています (1条2項)。信義則は、権利の行使と義務の履行全般にわたる指導理念であり、この原則から、権利失効の原則、事情変更の原則、信頼関係破壊の法理 (信頼関係破壊理論) 等の原則が導かれます。
権利濫用の禁止とは、権利の行使といえども、それが濫用と評価される場合には違法となり、権利行使が禁止されることをいいます。民法は、権利濫用の禁止を私権に関する基本原則の1つに位置づけ、「権利の濫用は、これを許さない」と規定しています (1条3項)。
賃貸借契約の期間満了と転借人への対抗 (最判平14.3.28)
■事件の概要
Xは、自己の所有する土地にビルを建築し、同ビルにテナントを入居させて安定的な収入を得るため、ビル管理をAに一任することとした (本件賃貸借)。そこで、Aは、本件ビルの一部をBに転貸 (本件転貸借) し、さらに、BはこれをYに転貸 (本件再転貸借) した。その後、Aは、本件転貸借が採算に合わないことから、Xに対し、本件賃貸借を更新しない旨を通知し、これを受けて、Xは、AおよびYに対し、本件賃貸借が期間満了により終了する旨を通知した。しかし、Yが期間満了に伴い立退きを拒否したため、Xは、Yに対し、転貸部分の明渡しを求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は、Xの請求を棄却しましたが、控訴審は、Xのした転貸および再転貸の承諾は、Aの有する賃借権の範囲内で本件転貸部分を使用収益する権限を付与したものにすぎないから、転貸および再転貸がされたことを理由に本件賃貸借を更新することができないという意義を有するともに、それが期間満了後も本件転貸借がなお存続しYが転借権を有するという意義を有しないこと等を理由にXの請求を認容しました。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
ビルの賃貸、管理を業とする会社を賃借人とする事業用ビル1棟の賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了した場合において、賃貸人が、賃借人の債務不履行を理由に賃貸借契約を解除するのではなく、賃借人の更新拒絶を理由として賃貸借契約が期間満了により終了したことを理由として、その旨を転借人に通知したときは、賃貸人は、信頼関係を破壊するような著しく不誠実な事情がある場合を除き、賃貸借契約の終了をもって再転借人に対抗することができない。
解説
転貸借は、賃貸借の存在を前提としているので、賃貸借が終了すると、転貸借も賃貸人に対抗することができないのが原則です。このことは、再転貸借においても同様です。しかし、転貸借の目的物が土地・建物等の不動産の場合、それが転借人の生活基盤であることが多いため、転借人の保護をはかる必要があります。この点、賃貸借が合意解除された場合は、転借人に対抗できないが賃貸人の債務不履行による賃貸借解除は対抗できるとされています (民法613条3項本文)。ただし、賃貸借が更新拒絶によって終了する場合は、信頼関係を破壊するような著しく不誠実な事情がある場合を除き対抗できないというのが判例です (同項ただし書)。また、賃貸借が賃借人の更新拒絶によって終了する場合は、信頼関係を破壊するような著しく不誠実な事情がある場合を除き対抗できないというのが判例です。
宇奈月温泉事件 (大判昭10.10.5)
■事件の概要
Xは、宇奈月温泉 (富山県) で温泉旅館を経営するYが源泉から引湯管を使って湯を引いていることを知り、引湯管の一部がわずかにかかっている甲土地 (約100坪) をその所有者Zから譲り受けた。そして、Yに対し、甲土地の不法占拠を理由に引湯管の撤去を求め、撤去しないのであれば、甲土地とその周辺にXが所有する荒地を合わせて約3000坪を買い取るよう求めた。
判例ナビ
甲土地のうち、引湯管がかかっている部分は、約2坪にすぎません。それにもかかわらず、Xは、約3000坪の土地を買い取れというのですから、Yは、当然、これを拒否しました。そこで、Xは、Yを被告として、所有権に基づく妨害排除 (引湯管の撤去) を求める訴えを提起しました。第1審、控訴審ともに、Xの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■裁判所の判断
所有権の侵害があっても、それによる損失の程度がいうに足りないほど軽微であり、しかもこれを除去するのに莫大な費用を要する場合に、第三者が不当な利得を得る目的で、別段の必要がないのに侵害に係る物件を買収し、所有者として侵害の除去を請求することは、社会観念上所有権の目的に反し、その、機能として許されるべき範囲を超越するものであって、権利の濫用となる。
解説
本件は、宇奈月温泉事件と呼ばれ、権利の濫用が認められた判例として極めて有名な事件です。ただし、権利濫用が認められたからといって、Yは無償で甲土地を利用できるわけではありませんから、Xに対し甲土地の使用利益を不当利得として返還する義務を負います。
信義則 (信義誠実の原則) とは、社会生活の一員として、相手方の信頼を裏切らないように誠実に行動しなければならないとする原則をいいます。民法は、信義則を私権に関する基本原則の1つに位置づけ、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と規定しています (1条2項)。信義則は、権利の行使と義務の履行全般にわたる指導理念であり、この原則から、権利失効の原則、事情変更の原則、信頼関係破壊の法理 (信頼関係破壊理論) 等の原則が導かれます。
権利濫用の禁止とは、権利の行使といえども、それが濫用と評価される場合には違法となり、権利行使が禁止されることをいいます。民法は、権利濫用の禁止を私権に関する基本原則の1つに位置づけ、「権利の濫用は、これを許さない」と規定しています (1条3項)。
賃貸借契約の期間満了と転借人への対抗 (最判平14.3.28)
■事件の概要
Xは、自己の所有する土地にビルを建築し、同ビルにテナントを入居させて安定的な収入を得るため、ビル管理をAに一任することとした (本件賃貸借)。そこで、Aは、本件ビルの一部をBに転貸 (本件転貸借) し、さらに、BはこれをYに転貸 (本件再転貸借) した。その後、Aは、本件転貸借が採算に合わないことから、Xに対し、本件賃貸借を更新しない旨を通知し、これを受けて、Xは、AおよびYに対し、本件賃貸借が期間満了により終了する旨を通知した。しかし、Yが期間満了に伴い立退きを拒否したため、Xは、Yに対し、転貸部分の明渡しを求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は、Xの請求を棄却しましたが、控訴審は、Xのした転貸および再転貸の承諾は、Aの有する賃借権の範囲内で本件転貸部分を使用収益する権限を付与したものにすぎないから、転貸および再転貸がされたことを理由に本件賃貸借を更新することができないという意義を有するともに、それが期間満了後も本件転貸借がなお存続しYが転借権を有するという意義を有しないこと等を理由にXの請求を認容しました。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
ビルの賃貸、管理を業とする会社を賃借人とする事業用ビル1棟の賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了した場合において、賃貸人が、賃借人の債務不履行を理由に賃貸借契約を解除するのではなく、賃借人の更新拒絶を理由として賃貸借契約が期間満了により終了したことを理由として、その旨を転借人に通知したときは、賃貸人は、信頼関係を破壊するような著しく不誠実な事情がある場合を除き、賃貸借契約の終了をもって再転借人に対抗することができない。
解説
転貸借は、賃貸借の存在を前提としているので、賃貸借が終了すると、転貸借も賃貸人に対抗することができないのが原則です。このことは、再転貸借においても同様です。しかし、転貸借の目的物が土地・建物等の不動産の場合、それが転借人の生活基盤であることが多いため、転借人の保護をはかる必要があります。この点、賃貸借が合意解除された場合は、転借人に対抗できないが賃貸人の債務不履行による賃貸借解除は対抗できるとされています (民法613条3項本文)。ただし、賃貸借が更新拒絶によって終了する場合は、信頼関係を破壊するような著しく不誠実な事情がある場合を除き対抗できないというのが判例です (同項ただし書)。また、賃貸借が賃借人の更新拒絶によって終了する場合は、信頼関係を破壊するような著しく不誠実な事情がある場合を除き対抗できないというのが判例です。
宇奈月温泉事件 (大判昭10.10.5)
■事件の概要
Xは、宇奈月温泉 (富山県) で温泉旅館を経営するYが源泉から引湯管を使って湯を引いていることを知り、引湯管の一部がわずかにかかっている甲土地 (約100坪) をその所有者Zから譲り受けた。そして、Yに対し、甲土地の不法占拠を理由に引湯管の撤去を求め、撤去しないのであれば、甲土地とその周辺にXが所有する荒地を合わせて約3000坪を買い取るよう求めた。
判例ナビ
甲土地のうち、引湯管がかかっている部分は、約2坪にすぎません。それにもかかわらず、Xは、約3000坪の土地を買い取れというのですから、Yは、当然、これを拒否しました。そこで、Xは、Yを被告として、所有権に基づく妨害排除 (引湯管の撤去) を求める訴えを提起しました。第1審、控訴審ともに、Xの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■裁判所の判断
所有権の侵害があっても、それによる損失の程度がいうに足りないほど軽微であり、しかもこれを除去するのに莫大な費用を要する場合に、第三者が不当な利得を得る目的で、別段の必要がないのに侵害に係る物件を買収し、所有者として侵害の除去を請求することは、社会観念上所有権の目的に反し、その、機能として許されるべき範囲を超越するものであって、権利の濫用となる。
解説
本件は、宇奈月温泉事件と呼ばれ、権利の濫用が認められた判例として極めて有名な事件です。ただし、権利濫用が認められたからといって、Yは無償で甲土地を利用できるわけではありませんから、Xに対し甲土地の使用利益を不当利得として返還する義務を負います。