地方自治
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
地方自治とは、地方における政治と行政を、地方住民の意思に基づいて (住民自治)、国から独立した地方公共団体がその権限と責任において自主的に処理する (団体自治) ことをいいます。憲法92条は、「地方自治の本旨」と規定していますが、これは、住民自治と団体自治という地方自治の基本精神を表現したものです。
徳島市公安条例事件 (最大判昭50.9.10)
■事件の概要
Xは、徳島市内でデモ行進に参加した際、車道上で、自ら「だるま返し」と称する動作をし、他のデモ参加者もだるま返しをするようあおったため、道路交通を妨げたとして徳島市公安条例に違反するとして起訴された。
判例ナビ
第1審および控訴審は、本条例は憲法31条に違反するとして道路交通違反の点のみを有罪とし、条例違反の点は無罪とした。そこで、検察官が上告しました。
■裁判所の判断
1 地方公共団体は1項、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができる、と規定しているから、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば、条例が国の法令よりも厳しい基準を定める条例 (上乗せ条例) や、条例が国の法律の対象外としている事項を規制する条例 (横出し条例) を定めることも可能です。
2 本条例では、憲法31条との関係で、集団行進等の遵守事項として挙げている「交通秩序を維持すること」の意義が問題となりました。本判決は、これを、「道路における交通の安全を確保し、交通の円滑と静穏を保持すること」と解した上で、「他人の妨害となるような著しく交通秩序を乱す行為」を「殊更に交通秩序の阻害をもたらすような行為」と解釈し、通常予測し得なかった「かえりうち」のような行為は、交通秩序の維持という見地からは、本条例に違反しないとしました。
◆この分野の重要判例
◆大阪市屋外広告物条例事件 (最大判昭37.5.30)
憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものではなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることができると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によっても明らかである。ただ、法律の授権が不特定な一般的一の紙委任的なものであってはならないことは、いうまでもない。…法律の授権は、限定された目的をもって、…公の福祉を害するもの等を内容とする特質に鑑み、法律によって罰則を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。
特別区長公選廃止事件 (最大判昭38.3.27)
■事件の概要
東京都特別区議会議員Xは、区議会で行われた区長の選任に関し、金銭を収受したとして収賄罪で起訴された。
判例ナビ
第1審は、「特別区の区長は…特別区の議会が都知事の同意を得てこれを選任する」とする地方自治法の規定 (当時) は違憲無効であり、Xには収賄罪の成立要件である職務権限が認められないとして無罪を言い渡しました。そこで、検察官は、跳躍上告をしました。
*検察官が第一審判決に不服がある場合に、控訴をせず直接、最高裁判所に上告をすること。
■裁判所の判断
憲法は、93条2項において「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と規定している。何がここにいう地方公共団体であるかについては、何ら明示するところはないが、憲法が1章を設けて地方自治を保障するにいたったゆえんのものは、新憲法の基調とする政治の民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手にその住民の団体が主体となって処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものである。
解説
本件当時、特別区の区長は、1952年 (昭和27年) の地方自治法改正によって住民による直接選挙 (公選制) が廃止され、都知事の同意を得て区議会が選任するという間接選挙に改められていました。そのため、特別区が憲法92条2項の地方公共団体に当たるかという問題が生じました。当たるとすれば、区長は住民の直接選挙によって選任されなければならず、改正地方自治法の規定は憲法93条2項に違反するからです。本判決は、憲法上の地方公共団体に当たるための要件を明らかにした上で、特別区は憲法92条2項の地方公共団体に当たらず、改正地方自治法の規定も同条項に違反しないとしました。その後、1974年の地方自治法改正により区長公選制は復活しました。
地方自治とは、地方における政治と行政を、地方住民の意思に基づいて (住民自治)、国から独立した地方公共団体がその権限と責任において自主的に処理する (団体自治) ことをいいます。憲法92条は、「地方自治の本旨」と規定していますが、これは、住民自治と団体自治という地方自治の基本精神を表現したものです。
徳島市公安条例事件 (最大判昭50.9.10)
■事件の概要
Xは、徳島市内でデモ行進に参加した際、車道上で、自ら「だるま返し」と称する動作をし、他のデモ参加者もだるま返しをするようあおったため、道路交通を妨げたとして徳島市公安条例に違反するとして起訴された。
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第1審および控訴審は、本条例は憲法31条に違反するとして道路交通違反の点のみを有罪とし、条例違反の点は無罪とした。そこで、検察官が上告しました。
■裁判所の判断
1 地方公共団体は1項、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができる、と規定しているから、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば、条例が国の法令よりも厳しい基準を定める条例 (上乗せ条例) や、条例が国の法律の対象外としている事項を規制する条例 (横出し条例) を定めることも可能です。
2 本条例では、憲法31条との関係で、集団行進等の遵守事項として挙げている「交通秩序を維持すること」の意義が問題となりました。本判決は、これを、「道路における交通の安全を確保し、交通の円滑と静穏を保持すること」と解した上で、「他人の妨害となるような著しく交通秩序を乱す行為」を「殊更に交通秩序の阻害をもたらすような行為」と解釈し、通常予測し得なかった「かえりうち」のような行為は、交通秩序の維持という見地からは、本条例に違反しないとしました。
◆この分野の重要判例
◆大阪市屋外広告物条例事件 (最大判昭37.5.30)
憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものではなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることができると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によっても明らかである。ただ、法律の授権が不特定な一般的一の紙委任的なものであってはならないことは、いうまでもない。…法律の授権は、限定された目的をもって、…公の福祉を害するもの等を内容とする特質に鑑み、法律によって罰則を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。
特別区長公選廃止事件 (最大判昭38.3.27)
■事件の概要
東京都特別区議会議員Xは、区議会で行われた区長の選任に関し、金銭を収受したとして収賄罪で起訴された。
判例ナビ
第1審は、「特別区の区長は…特別区の議会が都知事の同意を得てこれを選任する」とする地方自治法の規定 (当時) は違憲無効であり、Xには収賄罪の成立要件である職務権限が認められないとして無罪を言い渡しました。そこで、検察官は、跳躍上告をしました。
*検察官が第一審判決に不服がある場合に、控訴をせず直接、最高裁判所に上告をすること。
■裁判所の判断
憲法は、93条2項において「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と規定している。何がここにいう地方公共団体であるかについては、何ら明示するところはないが、憲法が1章を設けて地方自治を保障するにいたったゆえんのものは、新憲法の基調とする政治の民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手にその住民の団体が主体となって処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものである。
解説
本件当時、特別区の区長は、1952年 (昭和27年) の地方自治法改正によって住民による直接選挙 (公選制) が廃止され、都知事の同意を得て区議会が選任するという間接選挙に改められていました。そのため、特別区が憲法92条2項の地方公共団体に当たるかという問題が生じました。当たるとすれば、区長は住民の直接選挙によって選任されなければならず、改正地方自治法の規定は憲法93条2項に違反するからです。本判決は、憲法上の地方公共団体に当たるための要件を明らかにした上で、特別区は憲法92条2項の地方公共団体に当たらず、改正地方自治法の規定も同条項に違反しないとしました。その後、1974年の地方自治法改正により区長公選制は復活しました。