財政
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
国の任務を行うために必要な財産を管理・運営・使用する作用を財政といいます。憲法は、財政の基本原則として、財政民主主義 (83条、85条) と租税法律主義 (84条) を定めています。財政民主主義とは、財政を国民の代表機関である国会のコントロールの下に置かなければならないとする主義をいいます。租税法律主義とは、租税の賦課徴収は法律に基づかなければならないとする主義をいいます。
旭川市国民健康保険条例事件 (最大平18.3.1)
■事件の概要
旭川市では、国民健康保険事業に要する経費を旭川市国民健康保険条例に基づいて国民健康保険税として徴収する方式を採用していた。しかし、同条例には、具体的な保険料率が定率・定額で定められておらず、市長が定める告示に委任されていた。国民健康保険の加入者Xは、国民健康保険税の賦課処分を受けたが、収入が生活保護基準を下回っていたため、旭川市に対し保険料の減免を申請したが、減免事由に該当しないとして認められなかった。そこで、Xは、旭川市とYを被告として賦課処分の取消しを求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審はXの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■裁判所の判断
1 国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たる。市町村が行う国民健康保険の保険料は、これと異なり、被保険者において保険給付を受け得るに対応する反対給付の関係に立つものであり、金銭給付の目的及び性質において、これを租税ということはできない。
2 もっとも、国民健康保険が、被保険者から徴収される保険料をもって、その事業に要する経費に充てることを基本とするもので、その意味で、国民健康保険事業の財政的な基礎を構成するものであるから、その保険料の徴収に関しては、被保険者間に実質的な公平が保たれるように配慮されるべきであることは当然である。
3 本件条例は、保険料率の算定の基礎となる総賦課額の算定基準を明確に規定した上で、その算定に必要な上の費用の見込額及び収入の見込額並びに予定収納率の決定を議会の予算審議に委ねたものにほかならないから、保険料率の算定を市長の告示に委ねたものであり、上記の見込額等の計数が、国民健康保険事業における予算及び決算の審議を通じて国民の代表より成る議会の民主的コントロールが及ぶものということができる。そうすると、本件において保険料率の算定の基礎となる総賦課額を決定し、決定した保険料率を告示の方式により公示することとして、被保険者に対する予測可能性及び法的安定性が損なわれるとみることはできず、保険料の賦課要件が明確に定められていないということはできない。
解説
本件は、憲法84条の租税法律主義が国民健康保険の保険料にも及ぶかどうかについて、最高裁が初めて判断を示した判決です。本判決は、国民健康保険の保険料は同条の「租税」に当たらないとして、同条の直接適用を否定しましたが、国民健康保険は強制加入であり、保険料が強制徴収されることを理由に、同条の趣旨が及ぶとしました。また、本条例が保険料率の決定を市長の告示に委ねている点については、市長に委ねられているのは専門的技術的な細目事項にすぎないこと、議会による民主的コントロールが及んでいること等を理由に、憲法84条の趣旨に反しないとしました。
過去問
1 市町村が行う国民健康保険の保険料は、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有し、憲法84条の趣旨が及ぶ。(司法書士2023年)
2 国または地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たる。(公務員2022年)
1 ○ 市町村が行う国民健康保険については、強制加入とされ、保険料が強制徴収される等賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであることを理由に、憲法84条の趣旨が及ぶとしています (最大判平18.3.1)。
国の任務を行うために必要な財産を管理・運営・使用する作用を財政といいます。憲法は、財政の基本原則として、財政民主主義 (83条、85条) と租税法律主義 (84条) を定めています。財政民主主義とは、財政を国民の代表機関である国会のコントロールの下に置かなければならないとする主義をいいます。租税法律主義とは、租税の賦課徴収は法律に基づかなければならないとする主義をいいます。
旭川市国民健康保険条例事件 (最大平18.3.1)
■事件の概要
旭川市では、国民健康保険事業に要する経費を旭川市国民健康保険条例に基づいて国民健康保険税として徴収する方式を採用していた。しかし、同条例には、具体的な保険料率が定率・定額で定められておらず、市長が定める告示に委任されていた。国民健康保険の加入者Xは、国民健康保険税の賦課処分を受けたが、収入が生活保護基準を下回っていたため、旭川市に対し保険料の減免を申請したが、減免事由に該当しないとして認められなかった。そこで、Xは、旭川市とYを被告として賦課処分の取消しを求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審はXの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■裁判所の判断
1 国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たる。市町村が行う国民健康保険の保険料は、これと異なり、被保険者において保険給付を受け得るに対応する反対給付の関係に立つものであり、金銭給付の目的及び性質において、これを租税ということはできない。
2 もっとも、国民健康保険が、被保険者から徴収される保険料をもって、その事業に要する経費に充てることを基本とするもので、その意味で、国民健康保険事業の財政的な基礎を構成するものであるから、その保険料の徴収に関しては、被保険者間に実質的な公平が保たれるように配慮されるべきであることは当然である。
3 本件条例は、保険料率の算定の基礎となる総賦課額の算定基準を明確に規定した上で、その算定に必要な上の費用の見込額及び収入の見込額並びに予定収納率の決定を議会の予算審議に委ねたものにほかならないから、保険料率の算定を市長の告示に委ねたものであり、上記の見込額等の計数が、国民健康保険事業における予算及び決算の審議を通じて国民の代表より成る議会の民主的コントロールが及ぶものということができる。そうすると、本件において保険料率の算定の基礎となる総賦課額を決定し、決定した保険料率を告示の方式により公示することとして、被保険者に対する予測可能性及び法的安定性が損なわれるとみることはできず、保険料の賦課要件が明確に定められていないということはできない。
解説
本件は、憲法84条の租税法律主義が国民健康保険の保険料にも及ぶかどうかについて、最高裁が初めて判断を示した判決です。本判決は、国民健康保険の保険料は同条の「租税」に当たらないとして、同条の直接適用を否定しましたが、国民健康保険は強制加入であり、保険料が強制徴収されることを理由に、同条の趣旨が及ぶとしました。また、本条例が保険料率の決定を市長の告示に委ねている点については、市長に委ねられているのは専門的技術的な細目事項にすぎないこと、議会による民主的コントロールが及んでいること等を理由に、憲法84条の趣旨に反しないとしました。
過去問
1 市町村が行う国民健康保険の保険料は、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有し、憲法84条の趣旨が及ぶ。(司法書士2023年)
2 国または地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たる。(公務員2022年)
1 ○ 市町村が行う国民健康保険については、強制加入とされ、保険料が強制徴収される等賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであることを理由に、憲法84条の趣旨が及ぶとしています (最大判平18.3.1)。