裁判所
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
裁判所には、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の5種類がありまず (裁判所法1条、2条1項)。このうち、最高裁判所の裁判官の任命については、国民審査が行われます (憲法79条2項、3項)。
寺西判事補事件 (最大決平10.12.1)
■事件の概要
仙台地方裁判所の判事補Xは、通信傍受法案 (本件法案) に反対する市民集会 (本件集会) にパネリストとして参加する予定であったが、裁判所長Yから、裁判所法52条1号が禁止する 「積極的に政治運動をすること」 に当たるおそれがあるから、出席を見合わせるよう警告を受けた。 そこで、Xは、仙台地方裁判所判事補であることを明らかにした上で本件集会に参加、「当初、この集会において、傍聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加するのは罷免処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場を表明しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」との趣旨の発言 (本件言動) をした。
判例ナビ
Xの本件言動に対して、Yが高等裁判所に分限裁判を申立て、Xを戒告処分とする決定がされたため、Xは、これを不服として最高裁判所に即時抗告をしました。
■裁判所の判断
1 「積極的に政治運動をすること」 の禁止の合憲性
裁判官は、独立して中立・公正な立場に立ってその職務を行わなければならないのであるが、裁判官も、外見上、中立・公正な職務を遂行するよう要請される。裁判官の具体的な職務の内容の公正、裁判の運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官によって支えられて初めて、したがって、裁判官は、いかなる勢力からも影響を受けることがあってはならず、とりわけ政治的な勢力との間にみだりに癒着をみだすような行動・態度をとることは厳に慎まなければならない。裁判官が政治的な勢力にみだりに与することは、当該裁判官が人心を失うおそれなしとしない。
これらのことからすると、裁判所法52条1号が裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止しているのは、裁判所の独立及び中立・公正を確保し、これに対する国民の信頼を維持するために、三権分立主義の下における司法権の独立、行政とのあるべき関係を維持することにその目的があるものと解される。
なお、国家公務員法に違反及びこれを受けた人事院規則14-7は、行政庁に属する一般職の国家公務員の政治的行為を一定の範囲で禁止している。これは、行政の分野における公務が、憲法の定める議院内閣制の構造に照らし、議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し、専ら国民全体に対する奉仕者とし、政治的偏向を排することを求めなければならず、そのためには、個々の公務員が政治的に、一定の範囲で中立でなく、これに中立の立場を堅持して、その職務の遂行に当たることが必要となることを考慮したことによるものと解される…。これに対し、裁判所法52条1号が裁判官の積極的政治運動を禁止しているのは、右に述べたとおり、右に述べたとは別に、裁判官が司法権を担うという特質に基づき、裁判所の独立及び中立・公正を確保し、これに対する国民の信頼を維持することにその目的があるところにある。裁判官が選挙権及び被選挙権の行使又は組合体の一員として法規を制定させる目的で活動することが許されない理由はない。
以上のような国家公務員に対する政治的行為禁止の要請よりも強いものというべきである...。
2 憲法21条1項の表現の自由は絶対的なものではなく、その性質上内在的な制約を受けるものである。右に述べたように、裁判所法52条1号が裁判官に対し、「積極的に政治運動をすること」を禁止したのは、裁判所の独立及び中立・公正を確保し、これに対する国民の信頼を維持するという司法権の独立の根幹にかかわる極めて重要な目的を達成するために、裁判官に対してその身分に由来する制約を課したものというべきである。
◆この分野の重要判例
裁判所の木造裁判官が、市民の表現の自由を有する事を当然の前提とした上で、公務員の政治活動は一般的市民と異なった規律に服する事を肯認し、最高裁がした免職処分を合憲とした判例で、裁判官が「積極的に政治運動をすること」を禁止する裁判所法52条1号を合憲とし、Xの即時抗告を棄却しました。
◆裁判官のツイッター投稿と表現の自由 (最大決平30.10.17)
1 裁判所の独立、中立は、裁判ないしは裁判所に対する国民の信頼の基礎をなすものであり、裁判官は、公正、中庸な判断者としても裁判を行うことを職責とする者である。したがって、裁判官は、職務を遂行するに際してはもとより、職務を離れた私人としての生活においても、その職責と相いれないような行動を行ってはならず、また、裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように、慎重に行動すべき品位保持の義務を負っていると解するべきである…。裁判所法49条は、裁判官がその義務を負っていることを踏まえ、品位を辱めるべき行為をしたときは、懲戒に付されるものと解するから、問題となる行為が、職務上の行為であると否とを問わず、裁判官の職責または職務を離れた私人としての行動であるとを問わず、およそ裁判官としてその品位を辱めるものと評価されるものであるか否かという観点から判断されるべきものである。
2 Xは、裁判官の職にあることを前提として行われている下で、判決が確定した担当外の民事事件である本件民事訴訟に対し、その当事者の感情を傷つける表現を用いて、一方的な意見を表明し、しかも、多数の閲覧者にこれを拡散したものである。Xのこのような行為は、裁判官が、その職責もしくはその職責との関連性またはそれが司法に及ぼす影響に対する配慮を欠き、公正な裁判を行うとの国民の信頼を損ないかねないもので、品位を辱めるものというべきである。
解説
本件は、東京高等裁判所判事Xがツイッター (現Xエックス) の自己のアカウントにおいて、自己の担当外の事件の当事者の送還請求等に関する民事訴訟 (原告Y) について投稿を行い、Yの感情を傷つけたことから、東京高等裁判所がXの投稿が裁判所法49条の「品位を辱める行為」 に当たるとして、裁判官分限法に基づき最高裁判所に対し懲戒申立てを行ったという事案です。 本決定は、裁判官も一市民として表現の自由を有することを認めた上で、裁判官を裁判官に対する国民の信頼を傷つけないよう慎重に行動する義務を負っているとしました。 そして、裁判所法49条の「品位を辱める行為」 とは、職務上の行為であるか否かを問わず、およそ裁判官としてその品位を辱めるものと評価される行為であるか否かを問い、裁判官に対する国民の信頼を損ね、または裁判の公正を疑わせるような言動をいい、Xの本件投稿はこれに当たるとしました。
過去問
1 裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するもので、そこで意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎないとみるべきである (行政書士2020年)。
1 ○ 判例は、裁判官が積極的に政治運動をすることを、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するもので、意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎないと解しています (最大決平10.12.1)。
在外日本人の国民審査権 (最大判令4.5.25)
■事件の概要
国外に居住していて国内の市区町村の区域内に住所を有していない日本国民 (在外邦人) Xは、Y (国) に対し、主位的に、①次回の最高裁判所裁判官の国民審査に関する法律 (国民審査法) において審査権を行使することができる地位にあることの確認を求め (本件地位確認の訴え)、予備的に、②YがXに対して憲法15条1項、79条2項、3項等に違反して違法であることの確認を求める訴えを提起した (本件違法確認の訴え)。 また、Xは、Yに対し、③国会において在外邦人の国民審査権の行使を認める制度 (在外審査制度) を創設する立法措置がとられなかったこと (本件立法不作為) により、2017 (平成29) 年10月22日に施行された国民審査 (平成29年国民審査) において審査権を行使することができず精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。
■裁判所の判断
1 国民審査法4条は、衆議院議員の選挙権を有する者は、審査権を有すると規定しているが、これとは別に、同法8条は、国民審査の審査権を有する者の名簿について規定していることからすると、同法は、飽くまで上記選挙権を有する者のうち同法に登録されている者でなければ審査権を現実に行使することができないこととしているものと解される。そして、国民審査法8条は、上記審査人名簿の記載について、公職選挙法に規定する選挙人名簿を用いており、在外選挙人名簿に登録されている者の用いる在外選挙人名簿に記載されている在外邦人の審査権行使については何ら規定していない。
2 国民審査の制度は、国民が最高裁判所の裁判官を罷免するか否かを決定する罷免の制度であるところ…、憲法は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を、最終的に有する裁判所に属するものとしている。この制度を設け、主権者である国民の意思に基づいて審査権を保障しているのである。そして、このように、審査権が国民の主権の行使に属する参政権の一内容である点において選挙権と同様の性質を有することに加え、審査は、衆議院議員総選挙の際に行われることとしていることにも照らせば、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。
3 国民審査法は、衆議院議員の選挙の期日の公示の日に、国民審査に付される裁判官について、その氏名が公示されるとともに、都道府県の選挙管理委員会が、国民審査に付される裁判官の氏名を印刷した投票用紙を調製することとして、それぞれの裁判官に対する×の記号を記載する欄を設けた投票用紙を調製することとした上で、投票用紙の配布につき、上記投票用紙を用いた投票による国民審査を原則とする。 平成29年国民審査期日の投票について…、衆議院議員の選挙の期日の公示から期日前投票の期間の開始まで11日間、在外選挙人名簿に登録されている在外邦人が投票を行うことができる期間を十分に確保し難い。しかし、在外選挙制度の下で、現に期日前投票制度が実施されていることにも鑑みると、上記のような技術的な困難は、在外審査制度を創設するについて具体的な制度的制約の根拠となるものではなく、上記のような技術的な困難を回避するためには、現在の取扱いとは異なる投票用紙の調製や投票の方式等を採用する余地がないとは断じ難いところであり、具体的な方策等のいかんを問わず、審査の公正を確保しつつ在外邦人に国民審査権の行使の機会を保障することは、単に事実上不可能ないし著しく困難であったとしても、在外審査制度を創設するための立法措置が何らとられていないことについて、やむを得ない事由があったとはいうことはできない。したがって、国民審査法が在外邦人に審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反するものである。
解説
本判決は、国民審査法が在外邦人に国民審査権の行使を認めていないことを違憲としました。本判決を受けて国民審査法が改正され (2022 (令和4) 年11月18日公布、2023 (令和5) 年2月17日施行)、在外邦人も国民審査を行使できるようになりました。
この分野の重要判例
◆最高裁判所判事たるの任命 (最大判昭27.2.20)
国民審査投票方式の合憲性が問題となった事案です。原告は、①国民審査は裁判官の任命の可否を国民に問う制度であり、罷免の可否を問う制度ではないこと、②最高裁判所裁判官国民審査法が、罷免を可否が分からない審査人に黙秘の投票方法を認めておらず、また、裁判官全員の名が連記されているため、特定の裁判官のみ罷免を可とする投票をしようとする審査人は、他の裁判官についても投票を余儀なくされ、しかも、罷免の可否が分からないため何も記入せずにした投票に「罷免を可としない」という効果を付していることは憲法19条に違反すること等を理由に国民審査は無効であると主張しましたが、本判決は、いずれの主張も退けました。
過去問
1 最高裁判所の裁判官の国民審査は、現行法上、罷免を可とすべき裁判官及び不可とすべき裁判官にそれぞれ印を付すという投票方法によっているが、これは、同制度の趣旨が、内閣による裁判官の恣意的な任命を防止し、その任命を確定させるための事後審査を行う権利を国民に保障するものであると一般に解されていることを踏まえたものである。 (公務員2018年)
1 × 判例は、国民審査の制度は実質的に解職の制度であり、任命そのものを完成させるか否かを審査するものではないとしています (最大判昭27.2.20)。
裁判所には、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の5種類がありまず (裁判所法1条、2条1項)。このうち、最高裁判所の裁判官の任命については、国民審査が行われます (憲法79条2項、3項)。
寺西判事補事件 (最大決平10.12.1)
■事件の概要
仙台地方裁判所の判事補Xは、通信傍受法案 (本件法案) に反対する市民集会 (本件集会) にパネリストとして参加する予定であったが、裁判所長Yから、裁判所法52条1号が禁止する 「積極的に政治運動をすること」 に当たるおそれがあるから、出席を見合わせるよう警告を受けた。 そこで、Xは、仙台地方裁判所判事補であることを明らかにした上で本件集会に参加、「当初、この集会において、傍聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加するのは罷免処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場を表明しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」との趣旨の発言 (本件言動) をした。
判例ナビ
Xの本件言動に対して、Yが高等裁判所に分限裁判を申立て、Xを戒告処分とする決定がされたため、Xは、これを不服として最高裁判所に即時抗告をしました。
■裁判所の判断
1 「積極的に政治運動をすること」 の禁止の合憲性
裁判官は、独立して中立・公正な立場に立ってその職務を行わなければならないのであるが、裁判官も、外見上、中立・公正な職務を遂行するよう要請される。裁判官の具体的な職務の内容の公正、裁判の運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官によって支えられて初めて、したがって、裁判官は、いかなる勢力からも影響を受けることがあってはならず、とりわけ政治的な勢力との間にみだりに癒着をみだすような行動・態度をとることは厳に慎まなければならない。裁判官が政治的な勢力にみだりに与することは、当該裁判官が人心を失うおそれなしとしない。
これらのことからすると、裁判所法52条1号が裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止しているのは、裁判所の独立及び中立・公正を確保し、これに対する国民の信頼を維持するために、三権分立主義の下における司法権の独立、行政とのあるべき関係を維持することにその目的があるものと解される。
なお、国家公務員法に違反及びこれを受けた人事院規則14-7は、行政庁に属する一般職の国家公務員の政治的行為を一定の範囲で禁止している。これは、行政の分野における公務が、憲法の定める議院内閣制の構造に照らし、議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し、専ら国民全体に対する奉仕者とし、政治的偏向を排することを求めなければならず、そのためには、個々の公務員が政治的に、一定の範囲で中立でなく、これに中立の立場を堅持して、その職務の遂行に当たることが必要となることを考慮したことによるものと解される…。これに対し、裁判所法52条1号が裁判官の積極的政治運動を禁止しているのは、右に述べたとおり、右に述べたとは別に、裁判官が司法権を担うという特質に基づき、裁判所の独立及び中立・公正を確保し、これに対する国民の信頼を維持することにその目的があるところにある。裁判官が選挙権及び被選挙権の行使又は組合体の一員として法規を制定させる目的で活動することが許されない理由はない。
以上のような国家公務員に対する政治的行為禁止の要請よりも強いものというべきである...。
2 憲法21条1項の表現の自由は絶対的なものではなく、その性質上内在的な制約を受けるものである。右に述べたように、裁判所法52条1号が裁判官に対し、「積極的に政治運動をすること」を禁止したのは、裁判所の独立及び中立・公正を確保し、これに対する国民の信頼を維持するという司法権の独立の根幹にかかわる極めて重要な目的を達成するために、裁判官に対してその身分に由来する制約を課したものというべきである。
◆この分野の重要判例
裁判所の木造裁判官が、市民の表現の自由を有する事を当然の前提とした上で、公務員の政治活動は一般的市民と異なった規律に服する事を肯認し、最高裁がした免職処分を合憲とした判例で、裁判官が「積極的に政治運動をすること」を禁止する裁判所法52条1号を合憲とし、Xの即時抗告を棄却しました。
◆裁判官のツイッター投稿と表現の自由 (最大決平30.10.17)
1 裁判所の独立、中立は、裁判ないしは裁判所に対する国民の信頼の基礎をなすものであり、裁判官は、公正、中庸な判断者としても裁判を行うことを職責とする者である。したがって、裁判官は、職務を遂行するに際してはもとより、職務を離れた私人としての生活においても、その職責と相いれないような行動を行ってはならず、また、裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように、慎重に行動すべき品位保持の義務を負っていると解するべきである…。裁判所法49条は、裁判官がその義務を負っていることを踏まえ、品位を辱めるべき行為をしたときは、懲戒に付されるものと解するから、問題となる行為が、職務上の行為であると否とを問わず、裁判官の職責または職務を離れた私人としての行動であるとを問わず、およそ裁判官としてその品位を辱めるものと評価されるものであるか否かという観点から判断されるべきものである。
2 Xは、裁判官の職にあることを前提として行われている下で、判決が確定した担当外の民事事件である本件民事訴訟に対し、その当事者の感情を傷つける表現を用いて、一方的な意見を表明し、しかも、多数の閲覧者にこれを拡散したものである。Xのこのような行為は、裁判官が、その職責もしくはその職責との関連性またはそれが司法に及ぼす影響に対する配慮を欠き、公正な裁判を行うとの国民の信頼を損ないかねないもので、品位を辱めるものというべきである。
解説
本件は、東京高等裁判所判事Xがツイッター (現Xエックス) の自己のアカウントにおいて、自己の担当外の事件の当事者の送還請求等に関する民事訴訟 (原告Y) について投稿を行い、Yの感情を傷つけたことから、東京高等裁判所がXの投稿が裁判所法49条の「品位を辱める行為」 に当たるとして、裁判官分限法に基づき最高裁判所に対し懲戒申立てを行ったという事案です。 本決定は、裁判官も一市民として表現の自由を有することを認めた上で、裁判官を裁判官に対する国民の信頼を傷つけないよう慎重に行動する義務を負っているとしました。 そして、裁判所法49条の「品位を辱める行為」 とは、職務上の行為であるか否かを問わず、およそ裁判官としてその品位を辱めるものと評価される行為であるか否かを問い、裁判官に対する国民の信頼を損ね、または裁判の公正を疑わせるような言動をいい、Xの本件投稿はこれに当たるとしました。
過去問
1 裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するもので、そこで意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎないとみるべきである (行政書士2020年)。
1 ○ 判例は、裁判官が積極的に政治運動をすることを、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するもので、意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎないと解しています (最大決平10.12.1)。
在外日本人の国民審査権 (最大判令4.5.25)
■事件の概要
国外に居住していて国内の市区町村の区域内に住所を有していない日本国民 (在外邦人) Xは、Y (国) に対し、主位的に、①次回の最高裁判所裁判官の国民審査に関する法律 (国民審査法) において審査権を行使することができる地位にあることの確認を求め (本件地位確認の訴え)、予備的に、②YがXに対して憲法15条1項、79条2項、3項等に違反して違法であることの確認を求める訴えを提起した (本件違法確認の訴え)。 また、Xは、Yに対し、③国会において在外邦人の国民審査権の行使を認める制度 (在外審査制度) を創設する立法措置がとられなかったこと (本件立法不作為) により、2017 (平成29) 年10月22日に施行された国民審査 (平成29年国民審査) において審査権を行使することができず精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。
■裁判所の判断
1 国民審査法4条は、衆議院議員の選挙権を有する者は、審査権を有すると規定しているが、これとは別に、同法8条は、国民審査の審査権を有する者の名簿について規定していることからすると、同法は、飽くまで上記選挙権を有する者のうち同法に登録されている者でなければ審査権を現実に行使することができないこととしているものと解される。そして、国民審査法8条は、上記審査人名簿の記載について、公職選挙法に規定する選挙人名簿を用いており、在外選挙人名簿に登録されている者の用いる在外選挙人名簿に記載されている在外邦人の審査権行使については何ら規定していない。
2 国民審査の制度は、国民が最高裁判所の裁判官を罷免するか否かを決定する罷免の制度であるところ…、憲法は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を、最終的に有する裁判所に属するものとしている。この制度を設け、主権者である国民の意思に基づいて審査権を保障しているのである。そして、このように、審査権が国民の主権の行使に属する参政権の一内容である点において選挙権と同様の性質を有することに加え、審査は、衆議院議員総選挙の際に行われることとしていることにも照らせば、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。
3 国民審査法は、衆議院議員の選挙の期日の公示の日に、国民審査に付される裁判官について、その氏名が公示されるとともに、都道府県の選挙管理委員会が、国民審査に付される裁判官の氏名を印刷した投票用紙を調製することとして、それぞれの裁判官に対する×の記号を記載する欄を設けた投票用紙を調製することとした上で、投票用紙の配布につき、上記投票用紙を用いた投票による国民審査を原則とする。 平成29年国民審査期日の投票について…、衆議院議員の選挙の期日の公示から期日前投票の期間の開始まで11日間、在外選挙人名簿に登録されている在外邦人が投票を行うことができる期間を十分に確保し難い。しかし、在外選挙制度の下で、現に期日前投票制度が実施されていることにも鑑みると、上記のような技術的な困難は、在外審査制度を創設するについて具体的な制度的制約の根拠となるものではなく、上記のような技術的な困難を回避するためには、現在の取扱いとは異なる投票用紙の調製や投票の方式等を採用する余地がないとは断じ難いところであり、具体的な方策等のいかんを問わず、審査の公正を確保しつつ在外邦人に国民審査権の行使の機会を保障することは、単に事実上不可能ないし著しく困難であったとしても、在外審査制度を創設するための立法措置が何らとられていないことについて、やむを得ない事由があったとはいうことはできない。したがって、国民審査法が在外邦人に審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反するものである。
解説
本判決は、国民審査法が在外邦人に国民審査権の行使を認めていないことを違憲としました。本判決を受けて国民審査法が改正され (2022 (令和4) 年11月18日公布、2023 (令和5) 年2月17日施行)、在外邦人も国民審査を行使できるようになりました。
この分野の重要判例
◆最高裁判所判事たるの任命 (最大判昭27.2.20)
国民審査投票方式の合憲性が問題となった事案です。原告は、①国民審査は裁判官の任命の可否を国民に問う制度であり、罷免の可否を問う制度ではないこと、②最高裁判所裁判官国民審査法が、罷免を可否が分からない審査人に黙秘の投票方法を認めておらず、また、裁判官全員の名が連記されているため、特定の裁判官のみ罷免を可とする投票をしようとする審査人は、他の裁判官についても投票を余儀なくされ、しかも、罷免の可否が分からないため何も記入せずにした投票に「罷免を可としない」という効果を付していることは憲法19条に違反すること等を理由に国民審査は無効であると主張しましたが、本判決は、いずれの主張も退けました。
過去問
1 最高裁判所の裁判官の国民審査は、現行法上、罷免を可とすべき裁判官及び不可とすべき裁判官にそれぞれ印を付すという投票方法によっているが、これは、同制度の趣旨が、内閣による裁判官の恣意的な任命を防止し、その任命を確定させるための事後審査を行う権利を国民に保障するものであると一般に解されていることを踏まえたものである。 (公務員2018年)
1 × 判例は、国民審査の制度は実質的に解職の制度であり、任命そのものを完成させるか否かを審査するものではないとしています (最大判昭27.2.20)。