被疑者の権利|弁護人の援助を受ける権利|接見交通権
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 身体の拘束を受けている被告人または被疑者は、弁護人または弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という)と立会人なしに接見し、または書類もしくは物の授受をすることができる(法39条1項)。これを被疑者・被告人と弁護人等との「接見交通権」という。身体拘束を受けた者に対する感法34条前段の保障の趣意を踏まえた規定である。
最高裁判所は、被疑者と弁護人との接見交通権について、「身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上取る重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の放る重要なものの一つである」と述べ(最判昭和53・7・10民集32巻5号820頁),法39条1項の規定は、「身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で・・・・・憲法の保障に由来するものであるということができる」と位置付けている(前記最大判平成 11・3・24)。
他方で法は、検察官,検察事務官または司法察職員が、「捜査のため必要があるとき」、公訴の提起前すなわち被疑者に限り、接見交通権の行使に関し、「その日時、場所及び時間を指定することができる」と定めて、捜査機関の判断で接見交通権の行使に一定の制約を加えることを認めている。これを「接見
指定」という(注39条3項本文)。ただし接見指定は、被疑者が防票の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない(法39条3項但書)。
接見指定は弁護人等からの接見の申出に対して具体的な日時と時間帯を指定するものであり(例.〇月〇日、甲察署留置施設において、午後1時から 30分間),接見を全面的に禁止することはできない(弁護人等以外の者との接見禁止について法 81条〔後記(8))。後記のとおり,憲法の保障に由来する接見交通権と接見指定制度の趣旨から、指定のない時間帯の接見をおよそ認めない趣意ではない。
「法 39条3項本文の予定している接見等の制限は、弁護人等からされた接見等の申出を全面的に拒むことを許すものではなく、単に接見等の日時を弁護人等の申出とは別の日時とするか、接見等の時間を申出より短縮させることができるものにすぎ[ない]」(前記最大判平成11・3・24)。なお、捜査機関による接見指定に対しては、迅速な不服申立方法として、その取消し・変更を請求する準抗告の途が設けられている(法 430条)。
* かつての実務では、接見指定権者である検察官(身柄送致前は察の捜査主任官)が、指定を必要と認める事件につき、被疑者が収容されている響察署留置施設等刑事施設の長及び被疑者に対しいわゆる「一般的指定書」(「捜査のため必要があるので、右の者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見又は書類若しくは物の授受に閉し、その日時・場所及び時間を別に発すべき指定書のとおり指定する」旨を記載した書面)を発し、弁護人等から接見申出があると具体的な日時等を指定した書面(具体的指定書」を弁護人等に交付し、これを持参した者についてのみ接見を認めるという運用(「面会切制」と呼ばれた)が行われてきた。この運用では、一般的指定書が発せられた事件では接見が一律に禁じられ具体的指定によりはじめて接見が可能となるという倒錯した事態となることから、一般的指定の適法性がしばしば手われ、下級者の中には、一般的指定は接見交通の原則禁止にほかならぬとしてその処分性を認め、これを準抗告で取り消すものもあった。このような運用ではなく、その後の一連の最高裁判例が指示するように、弁護人等が具体的指定書なしに直接被疑者が収容されている刑事施設に赴いて接見を申し出た場合に、刑事施設の留置担当者から指定権者への連絡とこれを受けた指定権者による指定要件の有無判断や具体的指定が迅速的確に行われるということであれば、指定権者があらかじめ刑事施設の長に対し接見指定を行う必要があり弁護人等から接見申出があればそれを直ちに連絡するよう伝達しておくことは、それ自体が直ちに接見交通権を一般的に禁止する効果を持たない。最高裁判所がこのような趣旨の一般的指定書は行政機関内部の事務連絡文書であり、それ自体は弁護人・被疑者に対して何ら法的効力を有するものではないと説示しているのは、このような運用実態を踏まえた判断である(例えば、最判平成3・5・31時1390号 33頁等)。
1988(昭和63)年には一般的指定書が廃止され、刑事施設の長のみを対象とした事務連絡文書たる「通知書」(「捜査のため必要があるときは・・・・・[接見の日時等を]指定することがあるので通知する」旨の書面)が用いられるようになり、通知書が発せられた事件でも、常に指定するのではなく、弁護人等から接見申出のある都度、刑事施設から連絡を受けた指定権者ができるだけ速やかにその必要性の有無を判断し具体的指定をするか否かを決定することとされ、接見指定する場合も、口頭、書面,ファクシミリ送信など具体的指定書の持参にこだわらない弾力的運用が進展した。このような運用を前提とすれば、接申出を受けた刑事施設の留置担当者が指定権者にその旨を連絡し、その具体的措置について指示を受ける等の手続をとる間。
弁護人等が待機することになり、またそれだけ接見等が遅れることがあったとしても,それが合理的範囲にとどまる限りは許されることになろう(例えば、最判平成12・3・17集民 197号 397頁)。
このような状況の下で、接見指定に関する現在の主たる問題は具体的指定の適法性であり、その第一は、法39条3項本文の定める指定要件「捜査のため必要があるとき」の意味内容、第二は、具体的指定の内容が、当該事茶において不合理でなく・さらに、法39条3項但書にいう被疑者が防興の準備をする権利を不当に制限するものでないか否かである。
(2)接見指定とその要件を定めた法39条3項の基本的な制度趣意は、法の保障に由来する接見交通権をできる限り尊重保除することを前提に、この接見交通権の行と身体拘中の被疑者を対象とした時間的制約のある金を実施するやむを得ない必要性との間で合理的調整をはかることにある。最高裁判所大法廷は法 39条3項の合憲性を説示するに際して、この制度を次のように位置付けている(前記最大判平成11・3・24)。
「憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから。・・・・・接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。憲法34条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に・・・・調繋の規定を設けることを否定するものではないというべきである」。
問題は、「捜査のため必要があるとき」(法39条3項本文)の文言解釈を通じて行われる「合理的な調整」の具体的内容・指針である。この説示は、直接には法 39条3項の規定自体が違憲であるとの主張に応答したものであるが、捜査権行使の具体的場面として「身体を拘束して被疑者を取り調べる必要」に言及し、また。被疑者の身体拘束に厳格な時間的制約があること等に鑑み、この規定が「被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものである」旨説示することからも、最高裁判所が、「捜査のため必要があるとき」の文言解釈について、広く一般的な捜査の必要性(接見交通を通じた罪証隠滅や共犯者との通謀のおそれ等を防ぐことを含む捜査全般の必要)ではなく、厳格な時間的制約のある被疑者の身体の利用を巡る調整、すなわち基本的には被疑者の「身体」を利用しなければ実行不可能な性質の捜査活動の具体的必要性を想定しているとみられる。
(3)「捜査のため必要があるとき」の解釈適用に関する一連の最高裁判例を集大成した前記大法廷判例は、次のように説示する(前記最大判平成 11・3・24)。
第一.「捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならない」。
第二「【法3約3項本文にいう『捜査のため必要があるとき」とは、接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られいる。]・・・・右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、装査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防間の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである」。
第三、「弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として・・・・・取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである」。
これらの説示から、最高裁判所が、接見指定を「必要やむを得ない例外的措置」と位置付けたうえ、その「必要」については、被疑者の身体の利用を巡る調整の必要を想定していることは明らかであろう。
(4) 判例によれば、接見指定は、弁護人の申出に沿った接見を認めると「捜査に顕著な支障が生ずる場合」に限り許される。例示された現に被疑者を取調べ中であったりその間近い確実な予定があることは、「顕著な支障」の判断要素にすぎず、そのような場合は「原則として」これに当たるにとどまり、当然にこれに当たるとされているわけではない。
したがって、弁護人の接見申出と被疑者の身体を利用する捜査とが時間的に競合した場合でも、捜査の中断による支障が顕著とはいえない具体的状況が認められるときは(例。弁護人の接見申出をそのまま受け入れ取調べ等を中断したり取調べ等の開始予定を変更して申出に沿った接見が行われたとしても「捜査に顕著な支障」が生じないと認められる場合)、指定要件をくというべきである。捜査機関が指定要件の有無を判断するに際しては捜査に顕著な支障があるか具体的状況にして判断しなければならない(最判平成3・5・10民集45巻5号919頁における坂上壽夫裁判官の補足意見参照)。
(5)法39条3項但書は、指定要件(捜査に顕著な支障が生ずる場合)が認められ,接見指定が可能な場合でも、「その指定は、被疑者が防票の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない」と定めている。事案の具体的状況のもとで、申出のあった接見が被疑者の防準備にとってとくに重要性が高く、これに対して、捜査機関が適切・可能な措置(指定要件が認められ、接見指定をする場合には、前記のとおり「捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防街の準備をすることができるような指徴を探らなければならない」を諦じていれば接見を認めた場合の捜査に対する支際を回選できたはずであるのに、そうした措置をせずに行われた接見指定は、この規定に反することになり得るであろう。
最高裁判所は、弁護人となろうとする者による逮捕直後の初回の接見申出に対して捜査機関のした接見指定の具体的内容が法 39条3項但書に違反するとの判断を示している(最判平成12・6・13民集54巻5号 1635頁)。
*逮捕直後の初回の接見の重要性について、最高裁判所は次のように説示している
(前記最判平成 12・6・13)。
「とりわけ・・・・弁護人となろうとする者と被疑者との連捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である」。
このような観点から、捜査機関は、接見指定の要件が具備された場合であっても、接見指定にあたり弁護人となろうとする者と協議し、適時の指定により捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かを検討し、可能であるときには、比較的短時間であっても、時間を指定した上で接見申出後即時または近接した時点での接見を認めるようにすべきであり、このような場合に被疑者取調べを理由に初回接見の機会を遅らせる指定をすることは、法39条3項但書に違反すると判断されている。
この説示の趣意は、逮捕直後でなくとも弁護人となろうとする者との初回の接見に妥当するであろう。他方。指定要件が具備されている場合であるから、初回の接見申出であっても当然に即時または近接時点での接見を認めなければならないとしているわけではない。被疑者の身体を利用する捜査に顕著な支障が生じることが避けがたい場合で、当該捜査を実行するためその後の時間帯に接見指定するのがやむを得ないと認められる余地は残されているだろう。
**以上のように判例は、厳格な時間的制約のある身体拘束中に取調べを実施・糖続する必要性を前提に、被疑者取調べの中断を「捜査に顕著な支障が生ずる場合」の典型的な考慮要茶としている。他方で判例は、前記のとおり身体拘束中の被疑者が弁護人等から捜査機関の取調べを受けるにあたっての助言を得ることが悪法34条の保障の出発点として、被疑者の防準備のために特に重要であるとする。
そこで、被疑者を現に取調べ中またはその確実な予定があり、その取調べにより被疑者から決定的に重要な供述が得られる見込みが生じている局面を想定すると、教見による取調べ等の中断は、捜査機関からは「捜査に顕著な支障が生ずる場合」に当たるようにみえる。しかし、被疑者と面会し取調べに際して供述をする必要はない旨を教示するのは、弁護人の法的助言の典型であり、このような助言を受けることは被疑者が防禦の準備をする正当な権利というべきであろう。そうすると、一面からは、接見により被験者が助言を受けた結果の獲得が困難となる場合には捜査に顕著な支障が生じるとして接見指定ができるということになるが(法39条3項本文)、他面では、そのような場面こそ弁護人の助言がとくに必要であり、接見指定でこれを制限するのは被疑者が防票の準備をする権利を不当に制限することになる(法39条3項但書)ともみられる。
被疑者の身体を利用する捜査の必要と弁護人の援助を受けるための接見交通権の行使とが競合する場合の時間的調整という観点から示された判例からは、このような考え方のどちらが優先するかについて一義的な結論を導くことはできない。
身体拘束中の被疑者にとって弁護人から取調べを受けるに際しての正当な助言を得ることが憲法に由来する基本的な権利であり,これを捜査の「支障」と考えること自体に疑問があるという立場を仮に採るとすれば、弁護人の正当な助言が「支障」とならないような被疑者取調べが行われるのが筋ということになろう(弁護人との接見が支障となる「取調べ」という想定自体がはたして健全正常か翻って考えてみる価値はあるように思われる)。また,接見交通権と被疑者の取調べとの時間的調整
自体が不要となる運用(多くの文明諸国に実例のある被疑者取調べに弁護人が立会い
適宜助言すること)もあり得よう。
これに対して,現行法の接見指定制度の存在そのものが、身体拘束を受けていない被疑者とは異なり、合憲的調整として、捜査機関に対し、弁護人からの接見申出があることを現に取調べ中等の被疑者に伝達することなく接見指定を行い,出頭・滞留を義務付けた取調べ (法198条1項但書参照)等の捜査を継続することを優先・許容しているとみれば、被疑者が接見申出を知って弁護人の助言の方を選択できる機会があるとの前提自体が想定外ということになる。仮にそうであるとしても、前記のような弁護人立会いのもとでの被疑者取調べという運用を現行法が否定しているわけではない。
***情報通信技術の進展・普及に対応して、刑事手続において対面で行われる手続を映像・音声の送受備により行うこと等の法整備に関して法制審議会が答申した法改正要網には、被疑者・被告人と弁護人等との接見をオンラインで行うことに係る事項は含まれていない。要網案を審議した刑事法(情報通信技術関係)部会では、これを被疑者・被告人の「権利」として位置付ける規定を設けるべきとの意見も述べられたが、仮にこれを被疑者・被告人の権利として位置付けると、身体を拘束されている被疑者・被告人はそれを留置されている刑事施設側に水めることができることとなり、全国に多数ある刑事施設の全てにおいて実施可能とすることは短期的には到底難であり。それが散わないまま権利化すれば、大部分の和事施設等において被疑者・被告人から求められても実施できず、被疑者・被告人から見れば法律上認められた権利を行使できないというような、法の趣旨に反する状態が長期にわたって続くこととなるといった指摘がなされ、「要酒(特子)」に記載されるには送今るかた。実施可能な技術・施設備に伴う運用上の進をあげる感ではない。
(6)法は「公訴の提起前に限り」すなわち身体拘束を受けている「被疑者」に限り、捜査機関による接見指定を認めている(法39条3項本文)。これは、刑事訴訟の当事者たる法的地位にある「被告人」の防票準備にとって重要な弁護人との自由な接見交通を、捜査機関限りの判断で制約するのは適切でない上。
公訴提起後は捜査が一応完了して、もはや「捜査のため必要があるとき」という接見指定の前提自体が著しく減退した状況が形成されたとみられるからである。
このような制度趣旨から、身体拘束中に公訴提起され被告人となった者が起訴されていない別の余罪被疑事実で捜査の対象となっている場合については、次のように考えることができる。
第一、余罪被疑事実について当人が身体拘束処分(逮捕・勾留)を受けていない場合には、そもそも当人は余罪被疑事実について「身体の拘束を受けている・・・・・被疑者」に当たらないから、捜査機関には当該被疑事実についての捜査の必要性を理由に、当人の選任した弁護人との接見に際して、接見指定することはおよそできないはずである(最決昭和41・7・26刑集20巻6号 728頁はこのような事案である)。
第二、これに対して、勾留中の被告人が余罪被疑事実についても逮捕・勾留されている場合には、事情が異なる面がある。被告人が刑事訴訟の当事者たる地位にあることは変わりないが、同一人に余罪被疑事実がある場合には、制度の想定する捜査が一応完了しその必要が著しく減退している状況に変化が生じ。
余罪捜査の必要性が生じているので、余罪について当人の身体を利用する捜査の必要から法 39条3項本文の指定要件が認められ、接見交通権の行使を制約することになってもやむを得ない事態が想定される。最高裁判所は、「同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の逮捕、勾留とが競合している場合、検察官等は、被告事件について防郷権の不当な制限にわたらない限り。
•••••・接見等の指定権を行使することができるものと解すべきであ[る]」と説示している(最決昭和55・4・28刑集34巻3号178頁)。然ながら、身体拘束処分の理由とされた余罪被疑事実に関する接見指定の要件は、弁護人からの申出に沿った接見を認めると被疑事実に関する取調べ等の中断により「捜査に顕著な支障が生ずる場合」に限られる。他方で、前記のとおり当人は被告事件について当事者たる地位にあり、それ故同人が弁護人の援助を受ける権利は被告事件についての防準備にとって核心を成す重要な権利である点は動かない。したがって、これを制約する効果をもつ接見指定ができるのは、被告事件が競合していない場合に比して一層限定されるはずであろう。前記判例が「被告事件について防権の不当な制限にわたらない限り」と述べるのは、このような趣旨と理解される。当該接見の目的が、被告事件についてその防禦準備のため弁護人と相談し助言を受ける必要性が高い場合には、原則として、これを制約するのは「被告事件について防権の不当な制限にわたる」とみられよう。
*前記昭和55年決定の事案では、弁護人が被告事件と余罪被疑事件の両者について選任されていた。被告事件についてのみ選任された弁護人に対して、余罪被疑事実の捜査の必要を理由に接見指定できるかが問題となり得るが、接見指定制度の趣旨が、弁護人との接見交通権と被疑事件の捜査の必要との時間的調整を図ることにあるとすれば、被告事件の弁護人が余罪被疑事件の弁護人を兼ねているかどうかで、調整の必要において異なる点はないであろう。最高裁判所は、被告事件と被疑事件の各勾留が競合している場合、検察官は、「被告事件についてだけ弁護人に選任された者に対しても」接見指定権を行使できる旨説示している(最決平成 13・2・7判
時1737号 148頁)。
(7) 弁護人等との接見または書類・物の授受については、法令で、被告人・被疑者の逃亡,罪証隠滅または戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる(法 39条2項)。法令による措置として、例えば、逃亡・罪証隠滅その他事故の防止のための、関係があると認められる物の授受の禁止措置(刑事収容施設法46条・50条・136条等),そのような物であるか判断するための授受される物や書面の検査・閲読(刑事収容施設法44条・135条等)がある。もとよりこれは捜査上の必要から行われるものではない。接見に立会人を置くことができないのは、法39条1項の定めるとおりである。
* 身体拘束を受けている被疑者が刑事施設以外の施設に現在する場合において、弁護人等から接見の申出があった場合に、立会人なしの接見を認めても罪証隠滅及び戒護上の支障が生じないと容易に判断できるような適切な場所がその施設内にないときは、捜査機関は、接見申出を拒否することができる。ただし、弁護人等が即時の接見を求め、その必要性が認められるときは、捜査に顕著な支障が生じる場合でない限り、弁護人が秘密交通権が十分保障されないような態様の短時間の「面会接見」でも差し支えないとの意向を示したときは、面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務があるとした判例がある(最判平成17・4・19民集59巻3号563頁)。
これは法 39条3項の接見指定の問題ではない。
(8)勾留されている被疑者は、弁護人等以外の者と「法の範囲内で」接見し、または書類・物の授受をすることができる(法207条1項・80条)。例えば、刑事施設職員の立会い,面会状況の録音・録画等の法令上の制限がある(刑事
収容施設法116条・117条・218条・219条等)。逮捕され留置中の被疑者については、弁護人等以外の者との接見に関する明文の規定がない。
裁判官は、被疑者が逃亡しまたは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により、または職権で,勾留されている被疑者と弁護人等以外の者との接見を禁止し,またはこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁止し、もしくはこれを差し押えることができる(法
207条1項・81条)。逃亡・罪証隠滅は勾留により防止されているから、接見交通によって生じ得る、勾留によっては防止できない程度の相当な理由が必要であろう。
実務上行われている接見等禁止のほとんどは、罪証隠滅のおそれを理由とするものであり、例えば、組織的犯罪集団が関与する事件、会社罪、汚職事件等関係者に本人が影響を及ほし得る者が居て、自由な接見を許すとその機会を利用して罪証を隠滅するおそれがある場合などが考えられる。
最高裁判所は、被疑者と弁護人との接見交通権について、「身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上取る重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の放る重要なものの一つである」と述べ(最判昭和53・7・10民集32巻5号820頁),法39条1項の規定は、「身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で・・・・・憲法の保障に由来するものであるということができる」と位置付けている(前記最大判平成 11・3・24)。
他方で法は、検察官,検察事務官または司法察職員が、「捜査のため必要があるとき」、公訴の提起前すなわち被疑者に限り、接見交通権の行使に関し、「その日時、場所及び時間を指定することができる」と定めて、捜査機関の判断で接見交通権の行使に一定の制約を加えることを認めている。これを「接見
指定」という(注39条3項本文)。ただし接見指定は、被疑者が防票の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない(法39条3項但書)。
接見指定は弁護人等からの接見の申出に対して具体的な日時と時間帯を指定するものであり(例.〇月〇日、甲察署留置施設において、午後1時から 30分間),接見を全面的に禁止することはできない(弁護人等以外の者との接見禁止について法 81条〔後記(8))。後記のとおり,憲法の保障に由来する接見交通権と接見指定制度の趣旨から、指定のない時間帯の接見をおよそ認めない趣意ではない。
「法 39条3項本文の予定している接見等の制限は、弁護人等からされた接見等の申出を全面的に拒むことを許すものではなく、単に接見等の日時を弁護人等の申出とは別の日時とするか、接見等の時間を申出より短縮させることができるものにすぎ[ない]」(前記最大判平成11・3・24)。なお、捜査機関による接見指定に対しては、迅速な不服申立方法として、その取消し・変更を請求する準抗告の途が設けられている(法 430条)。
* かつての実務では、接見指定権者である検察官(身柄送致前は察の捜査主任官)が、指定を必要と認める事件につき、被疑者が収容されている響察署留置施設等刑事施設の長及び被疑者に対しいわゆる「一般的指定書」(「捜査のため必要があるので、右の者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見又は書類若しくは物の授受に閉し、その日時・場所及び時間を別に発すべき指定書のとおり指定する」旨を記載した書面)を発し、弁護人等から接見申出があると具体的な日時等を指定した書面(具体的指定書」を弁護人等に交付し、これを持参した者についてのみ接見を認めるという運用(「面会切制」と呼ばれた)が行われてきた。この運用では、一般的指定書が発せられた事件では接見が一律に禁じられ具体的指定によりはじめて接見が可能となるという倒錯した事態となることから、一般的指定の適法性がしばしば手われ、下級者の中には、一般的指定は接見交通の原則禁止にほかならぬとしてその処分性を認め、これを準抗告で取り消すものもあった。このような運用ではなく、その後の一連の最高裁判例が指示するように、弁護人等が具体的指定書なしに直接被疑者が収容されている刑事施設に赴いて接見を申し出た場合に、刑事施設の留置担当者から指定権者への連絡とこれを受けた指定権者による指定要件の有無判断や具体的指定が迅速的確に行われるということであれば、指定権者があらかじめ刑事施設の長に対し接見指定を行う必要があり弁護人等から接見申出があればそれを直ちに連絡するよう伝達しておくことは、それ自体が直ちに接見交通権を一般的に禁止する効果を持たない。最高裁判所がこのような趣旨の一般的指定書は行政機関内部の事務連絡文書であり、それ自体は弁護人・被疑者に対して何ら法的効力を有するものではないと説示しているのは、このような運用実態を踏まえた判断である(例えば、最判平成3・5・31時1390号 33頁等)。
1988(昭和63)年には一般的指定書が廃止され、刑事施設の長のみを対象とした事務連絡文書たる「通知書」(「捜査のため必要があるときは・・・・・[接見の日時等を]指定することがあるので通知する」旨の書面)が用いられるようになり、通知書が発せられた事件でも、常に指定するのではなく、弁護人等から接見申出のある都度、刑事施設から連絡を受けた指定権者ができるだけ速やかにその必要性の有無を判断し具体的指定をするか否かを決定することとされ、接見指定する場合も、口頭、書面,ファクシミリ送信など具体的指定書の持参にこだわらない弾力的運用が進展した。このような運用を前提とすれば、接申出を受けた刑事施設の留置担当者が指定権者にその旨を連絡し、その具体的措置について指示を受ける等の手続をとる間。
弁護人等が待機することになり、またそれだけ接見等が遅れることがあったとしても,それが合理的範囲にとどまる限りは許されることになろう(例えば、最判平成12・3・17集民 197号 397頁)。
このような状況の下で、接見指定に関する現在の主たる問題は具体的指定の適法性であり、その第一は、法39条3項本文の定める指定要件「捜査のため必要があるとき」の意味内容、第二は、具体的指定の内容が、当該事茶において不合理でなく・さらに、法39条3項但書にいう被疑者が防興の準備をする権利を不当に制限するものでないか否かである。
(2)接見指定とその要件を定めた法39条3項の基本的な制度趣意は、法の保障に由来する接見交通権をできる限り尊重保除することを前提に、この接見交通権の行と身体拘中の被疑者を対象とした時間的制約のある金を実施するやむを得ない必要性との間で合理的調整をはかることにある。最高裁判所大法廷は法 39条3項の合憲性を説示するに際して、この制度を次のように位置付けている(前記最大判平成11・3・24)。
「憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから。・・・・・接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。憲法34条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に・・・・調繋の規定を設けることを否定するものではないというべきである」。
問題は、「捜査のため必要があるとき」(法39条3項本文)の文言解釈を通じて行われる「合理的な調整」の具体的内容・指針である。この説示は、直接には法 39条3項の規定自体が違憲であるとの主張に応答したものであるが、捜査権行使の具体的場面として「身体を拘束して被疑者を取り調べる必要」に言及し、また。被疑者の身体拘束に厳格な時間的制約があること等に鑑み、この規定が「被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものである」旨説示することからも、最高裁判所が、「捜査のため必要があるとき」の文言解釈について、広く一般的な捜査の必要性(接見交通を通じた罪証隠滅や共犯者との通謀のおそれ等を防ぐことを含む捜査全般の必要)ではなく、厳格な時間的制約のある被疑者の身体の利用を巡る調整、すなわち基本的には被疑者の「身体」を利用しなければ実行不可能な性質の捜査活動の具体的必要性を想定しているとみられる。
(3)「捜査のため必要があるとき」の解釈適用に関する一連の最高裁判例を集大成した前記大法廷判例は、次のように説示する(前記最大判平成 11・3・24)。
第一.「捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならない」。
第二「【法3約3項本文にいう『捜査のため必要があるとき」とは、接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られいる。]・・・・右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、装査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防間の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである」。
第三、「弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として・・・・・取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである」。
これらの説示から、最高裁判所が、接見指定を「必要やむを得ない例外的措置」と位置付けたうえ、その「必要」については、被疑者の身体の利用を巡る調整の必要を想定していることは明らかであろう。
(4) 判例によれば、接見指定は、弁護人の申出に沿った接見を認めると「捜査に顕著な支障が生ずる場合」に限り許される。例示された現に被疑者を取調べ中であったりその間近い確実な予定があることは、「顕著な支障」の判断要素にすぎず、そのような場合は「原則として」これに当たるにとどまり、当然にこれに当たるとされているわけではない。
したがって、弁護人の接見申出と被疑者の身体を利用する捜査とが時間的に競合した場合でも、捜査の中断による支障が顕著とはいえない具体的状況が認められるときは(例。弁護人の接見申出をそのまま受け入れ取調べ等を中断したり取調べ等の開始予定を変更して申出に沿った接見が行われたとしても「捜査に顕著な支障」が生じないと認められる場合)、指定要件をくというべきである。捜査機関が指定要件の有無を判断するに際しては捜査に顕著な支障があるか具体的状況にして判断しなければならない(最判平成3・5・10民集45巻5号919頁における坂上壽夫裁判官の補足意見参照)。
(5)法39条3項但書は、指定要件(捜査に顕著な支障が生ずる場合)が認められ,接見指定が可能な場合でも、「その指定は、被疑者が防票の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない」と定めている。事案の具体的状況のもとで、申出のあった接見が被疑者の防準備にとってとくに重要性が高く、これに対して、捜査機関が適切・可能な措置(指定要件が認められ、接見指定をする場合には、前記のとおり「捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防街の準備をすることができるような指徴を探らなければならない」を諦じていれば接見を認めた場合の捜査に対する支際を回選できたはずであるのに、そうした措置をせずに行われた接見指定は、この規定に反することになり得るであろう。
最高裁判所は、弁護人となろうとする者による逮捕直後の初回の接見申出に対して捜査機関のした接見指定の具体的内容が法 39条3項但書に違反するとの判断を示している(最判平成12・6・13民集54巻5号 1635頁)。
*逮捕直後の初回の接見の重要性について、最高裁判所は次のように説示している
(前記最判平成 12・6・13)。
「とりわけ・・・・弁護人となろうとする者と被疑者との連捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である」。
このような観点から、捜査機関は、接見指定の要件が具備された場合であっても、接見指定にあたり弁護人となろうとする者と協議し、適時の指定により捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かを検討し、可能であるときには、比較的短時間であっても、時間を指定した上で接見申出後即時または近接した時点での接見を認めるようにすべきであり、このような場合に被疑者取調べを理由に初回接見の機会を遅らせる指定をすることは、法39条3項但書に違反すると判断されている。
この説示の趣意は、逮捕直後でなくとも弁護人となろうとする者との初回の接見に妥当するであろう。他方。指定要件が具備されている場合であるから、初回の接見申出であっても当然に即時または近接時点での接見を認めなければならないとしているわけではない。被疑者の身体を利用する捜査に顕著な支障が生じることが避けがたい場合で、当該捜査を実行するためその後の時間帯に接見指定するのがやむを得ないと認められる余地は残されているだろう。
**以上のように判例は、厳格な時間的制約のある身体拘束中に取調べを実施・糖続する必要性を前提に、被疑者取調べの中断を「捜査に顕著な支障が生ずる場合」の典型的な考慮要茶としている。他方で判例は、前記のとおり身体拘束中の被疑者が弁護人等から捜査機関の取調べを受けるにあたっての助言を得ることが悪法34条の保障の出発点として、被疑者の防準備のために特に重要であるとする。
そこで、被疑者を現に取調べ中またはその確実な予定があり、その取調べにより被疑者から決定的に重要な供述が得られる見込みが生じている局面を想定すると、教見による取調べ等の中断は、捜査機関からは「捜査に顕著な支障が生ずる場合」に当たるようにみえる。しかし、被疑者と面会し取調べに際して供述をする必要はない旨を教示するのは、弁護人の法的助言の典型であり、このような助言を受けることは被疑者が防禦の準備をする正当な権利というべきであろう。そうすると、一面からは、接見により被験者が助言を受けた結果の獲得が困難となる場合には捜査に顕著な支障が生じるとして接見指定ができるということになるが(法39条3項本文)、他面では、そのような場面こそ弁護人の助言がとくに必要であり、接見指定でこれを制限するのは被疑者が防票の準備をする権利を不当に制限することになる(法39条3項但書)ともみられる。
被疑者の身体を利用する捜査の必要と弁護人の援助を受けるための接見交通権の行使とが競合する場合の時間的調整という観点から示された判例からは、このような考え方のどちらが優先するかについて一義的な結論を導くことはできない。
身体拘束中の被疑者にとって弁護人から取調べを受けるに際しての正当な助言を得ることが憲法に由来する基本的な権利であり,これを捜査の「支障」と考えること自体に疑問があるという立場を仮に採るとすれば、弁護人の正当な助言が「支障」とならないような被疑者取調べが行われるのが筋ということになろう(弁護人との接見が支障となる「取調べ」という想定自体がはたして健全正常か翻って考えてみる価値はあるように思われる)。また,接見交通権と被疑者の取調べとの時間的調整
自体が不要となる運用(多くの文明諸国に実例のある被疑者取調べに弁護人が立会い
適宜助言すること)もあり得よう。
これに対して,現行法の接見指定制度の存在そのものが、身体拘束を受けていない被疑者とは異なり、合憲的調整として、捜査機関に対し、弁護人からの接見申出があることを現に取調べ中等の被疑者に伝達することなく接見指定を行い,出頭・滞留を義務付けた取調べ (法198条1項但書参照)等の捜査を継続することを優先・許容しているとみれば、被疑者が接見申出を知って弁護人の助言の方を選択できる機会があるとの前提自体が想定外ということになる。仮にそうであるとしても、前記のような弁護人立会いのもとでの被疑者取調べという運用を現行法が否定しているわけではない。
***情報通信技術の進展・普及に対応して、刑事手続において対面で行われる手続を映像・音声の送受備により行うこと等の法整備に関して法制審議会が答申した法改正要網には、被疑者・被告人と弁護人等との接見をオンラインで行うことに係る事項は含まれていない。要網案を審議した刑事法(情報通信技術関係)部会では、これを被疑者・被告人の「権利」として位置付ける規定を設けるべきとの意見も述べられたが、仮にこれを被疑者・被告人の権利として位置付けると、身体を拘束されている被疑者・被告人はそれを留置されている刑事施設側に水めることができることとなり、全国に多数ある刑事施設の全てにおいて実施可能とすることは短期的には到底難であり。それが散わないまま権利化すれば、大部分の和事施設等において被疑者・被告人から求められても実施できず、被疑者・被告人から見れば法律上認められた権利を行使できないというような、法の趣旨に反する状態が長期にわたって続くこととなるといった指摘がなされ、「要酒(特子)」に記載されるには送今るかた。実施可能な技術・施設備に伴う運用上の進をあげる感ではない。
(6)法は「公訴の提起前に限り」すなわち身体拘束を受けている「被疑者」に限り、捜査機関による接見指定を認めている(法39条3項本文)。これは、刑事訴訟の当事者たる法的地位にある「被告人」の防票準備にとって重要な弁護人との自由な接見交通を、捜査機関限りの判断で制約するのは適切でない上。
公訴提起後は捜査が一応完了して、もはや「捜査のため必要があるとき」という接見指定の前提自体が著しく減退した状況が形成されたとみられるからである。
このような制度趣旨から、身体拘束中に公訴提起され被告人となった者が起訴されていない別の余罪被疑事実で捜査の対象となっている場合については、次のように考えることができる。
第一、余罪被疑事実について当人が身体拘束処分(逮捕・勾留)を受けていない場合には、そもそも当人は余罪被疑事実について「身体の拘束を受けている・・・・・被疑者」に当たらないから、捜査機関には当該被疑事実についての捜査の必要性を理由に、当人の選任した弁護人との接見に際して、接見指定することはおよそできないはずである(最決昭和41・7・26刑集20巻6号 728頁はこのような事案である)。
第二、これに対して、勾留中の被告人が余罪被疑事実についても逮捕・勾留されている場合には、事情が異なる面がある。被告人が刑事訴訟の当事者たる地位にあることは変わりないが、同一人に余罪被疑事実がある場合には、制度の想定する捜査が一応完了しその必要が著しく減退している状況に変化が生じ。
余罪捜査の必要性が生じているので、余罪について当人の身体を利用する捜査の必要から法 39条3項本文の指定要件が認められ、接見交通権の行使を制約することになってもやむを得ない事態が想定される。最高裁判所は、「同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の逮捕、勾留とが競合している場合、検察官等は、被告事件について防郷権の不当な制限にわたらない限り。
•••••・接見等の指定権を行使することができるものと解すべきであ[る]」と説示している(最決昭和55・4・28刑集34巻3号178頁)。然ながら、身体拘束処分の理由とされた余罪被疑事実に関する接見指定の要件は、弁護人からの申出に沿った接見を認めると被疑事実に関する取調べ等の中断により「捜査に顕著な支障が生ずる場合」に限られる。他方で、前記のとおり当人は被告事件について当事者たる地位にあり、それ故同人が弁護人の援助を受ける権利は被告事件についての防準備にとって核心を成す重要な権利である点は動かない。したがって、これを制約する効果をもつ接見指定ができるのは、被告事件が競合していない場合に比して一層限定されるはずであろう。前記判例が「被告事件について防権の不当な制限にわたらない限り」と述べるのは、このような趣旨と理解される。当該接見の目的が、被告事件についてその防禦準備のため弁護人と相談し助言を受ける必要性が高い場合には、原則として、これを制約するのは「被告事件について防権の不当な制限にわたる」とみられよう。
*前記昭和55年決定の事案では、弁護人が被告事件と余罪被疑事件の両者について選任されていた。被告事件についてのみ選任された弁護人に対して、余罪被疑事実の捜査の必要を理由に接見指定できるかが問題となり得るが、接見指定制度の趣旨が、弁護人との接見交通権と被疑事件の捜査の必要との時間的調整を図ることにあるとすれば、被告事件の弁護人が余罪被疑事件の弁護人を兼ねているかどうかで、調整の必要において異なる点はないであろう。最高裁判所は、被告事件と被疑事件の各勾留が競合している場合、検察官は、「被告事件についてだけ弁護人に選任された者に対しても」接見指定権を行使できる旨説示している(最決平成 13・2・7判
時1737号 148頁)。
(7) 弁護人等との接見または書類・物の授受については、法令で、被告人・被疑者の逃亡,罪証隠滅または戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる(法 39条2項)。法令による措置として、例えば、逃亡・罪証隠滅その他事故の防止のための、関係があると認められる物の授受の禁止措置(刑事収容施設法46条・50条・136条等),そのような物であるか判断するための授受される物や書面の検査・閲読(刑事収容施設法44条・135条等)がある。もとよりこれは捜査上の必要から行われるものではない。接見に立会人を置くことができないのは、法39条1項の定めるとおりである。
* 身体拘束を受けている被疑者が刑事施設以外の施設に現在する場合において、弁護人等から接見の申出があった場合に、立会人なしの接見を認めても罪証隠滅及び戒護上の支障が生じないと容易に判断できるような適切な場所がその施設内にないときは、捜査機関は、接見申出を拒否することができる。ただし、弁護人等が即時の接見を求め、その必要性が認められるときは、捜査に顕著な支障が生じる場合でない限り、弁護人が秘密交通権が十分保障されないような態様の短時間の「面会接見」でも差し支えないとの意向を示したときは、面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務があるとした判例がある(最判平成17・4・19民集59巻3号563頁)。
これは法 39条3項の接見指定の問題ではない。
(8)勾留されている被疑者は、弁護人等以外の者と「法の範囲内で」接見し、または書類・物の授受をすることができる(法207条1項・80条)。例えば、刑事施設職員の立会い,面会状況の録音・録画等の法令上の制限がある(刑事
収容施設法116条・117条・218条・219条等)。逮捕され留置中の被疑者については、弁護人等以外の者との接見に関する明文の規定がない。
裁判官は、被疑者が逃亡しまたは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により、または職権で,勾留されている被疑者と弁護人等以外の者との接見を禁止し,またはこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁止し、もしくはこれを差し押えることができる(法
207条1項・81条)。逃亡・罪証隠滅は勾留により防止されているから、接見交通によって生じ得る、勾留によっては防止できない程度の相当な理由が必要であろう。
実務上行われている接見等禁止のほとんどは、罪証隠滅のおそれを理由とするものであり、例えば、組織的犯罪集団が関与する事件、会社罪、汚職事件等関係者に本人が影響を及ほし得る者が居て、自由な接見を許すとその機会を利用して罪証を隠滅するおそれがある場合などが考えられる。