その他の捜査手段|通信・会話のの傍受|法的性質及び合憲性
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 人の会話や電気通を介して行われる通話内容を,当事者のいずれの同意も得ることなく密かに聴取・録音する行為(以下「傍受」という)は、当事者間の通話内容の秘密を侵害することに加えて、私的な会話・通話をみだりに他者に聴取されないという両当事者の期待ないし私生活上の自由を侵害・制約する。捜査機関が捜査目的達成のため通信・会話の傍受を実行すれば、このような憲法の保障する価値の高い法益に対する重大な侵害結果を生じ得るのは明瞭であるから、それは、有形力行使や物理的侵入の有無を問わず,「強制の処分」に該当すると解される(最決昭和51・3・16刑集30巻2号187頁参照)。
最高裁判所は、電話の通話内容を通話当事者双方の同意を得ずに傍受することは、「通の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である」と説示している(最決平成11・12・16刑集53巻9号1327頁)。
* 傍受によって侵害・制約される法益の第一は、通話・会話内容の秘密である。それが「通信」内容である場合には、憲法21条2項の保障する「通の密」を直接侵害する。また、通常、人が他人から私的な会話内容を聴取されること自体は受忍せざるを得ない場所とはいえない住居内等の私的領域における通話・会話内容を密かに傍受する場合には、憲法 35条の保障する領域への「侵入」と「捜索」「押収」に該当する。第二に、憲法13条に由来する人格的法益として、みだりに私的な通・会話を他人に傍受されないという自由・期待が、会話内容の秘密とは別に、これと併せて侵害制約されることになる。前記判例は、「通信の秘密」侵害以外のこのような法益侵害を「個人のプライバシーを侵害する」と総称表現したものであろう。
(2)このような傍受による法益侵害の具体的内容に鑑みると、当事者双方の同意を得ない態様の傍受行為であっても、当該会話が、通常、人が他人から会話内容を聴取されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである場合には(ビデオ撮影に関する前記最決平成 20・4・15参照),会話内容の秘密侵害と私的領域への侵入を欠き、みだりに私的な会話を他人に聴取・録音されない自由・期待のみの侵害にとどまるので、任意捜査と評価されよう(例。公道上や不特定多数の客が集まる飲食店内等における会話内容や、そのような場所において携帯電話を用いて行われた一方当事者の発話内容を聴取・録音する場合)。この場合は、法197条1項本文に基づく「比例原則(権衡原則)」の規律でその適否が定まることになる。
(3) 強制処分に該当する態様の受は、前記のとおり憲法上の重要な権利・自由を直接侵害・制約する捜査手段であるが、これらの基本権も絶対無制約とは解されないから、それだけで直ちに違憲になるわけでないのは、現に刑事訴訟法が法定している強制処分の場合(例,「通信の秘密」を直接侵害する郵便物の押収,「住居等の平穏」を直接侵害する捜索・検証、「所持品」の押収等)と同様である。最高裁判所は、電話傍受が「通の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である」と述べた上で、次のようにその合憲性について説示している(前記最決平成11・12・16)。
「電話受は、・・・・・・一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであ[る。].....重大な罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受
以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である」。
この憲法解釈は、被疑事件の重大性、高度の嫌疑(「罪をしたと疑うに足りる十分な理由」),傍受の高度の必要性・補充性、法益侵害の内容・程度等の要素を摘示して「犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるとき」に限り憲法上許容できる旨を述べているとみられ、明らかに通常の強制処分(例,捜索・差押え・検証[法 218条])より一層厳格な限定が加えられている。それは、憲法解釈の最終権限を有する最高裁判所が、傍受によって侵害される感法上の基本権の質と程度を極めて深刻・重大であると位置付けているからであろう。したがって、仮に既存の「法律の定める手続」の解釈・適用に基づく場合には、このような限定的実体要件を充たさない処分は許されず。実行すれば適用意となるはずである。また。国会が捜査手段としての傍受処分を立法する場合に、最高裁の意法解釈に適合しない要件を設定すれば、法令違憲となるはずであるう。
なお、手続的側面すなわち状主義(憲法 35条)及び適正手続(憲法31条)の観点における合憲性については、別途説明する〔後記Ⅲ 2 3〕
最高裁判所は、電話の通話内容を通話当事者双方の同意を得ずに傍受することは、「通の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である」と説示している(最決平成11・12・16刑集53巻9号1327頁)。
* 傍受によって侵害・制約される法益の第一は、通話・会話内容の秘密である。それが「通信」内容である場合には、憲法21条2項の保障する「通の密」を直接侵害する。また、通常、人が他人から私的な会話内容を聴取されること自体は受忍せざるを得ない場所とはいえない住居内等の私的領域における通話・会話内容を密かに傍受する場合には、憲法 35条の保障する領域への「侵入」と「捜索」「押収」に該当する。第二に、憲法13条に由来する人格的法益として、みだりに私的な通・会話を他人に傍受されないという自由・期待が、会話内容の秘密とは別に、これと併せて侵害制約されることになる。前記判例は、「通信の秘密」侵害以外のこのような法益侵害を「個人のプライバシーを侵害する」と総称表現したものであろう。
(2)このような傍受による法益侵害の具体的内容に鑑みると、当事者双方の同意を得ない態様の傍受行為であっても、当該会話が、通常、人が他人から会話内容を聴取されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである場合には(ビデオ撮影に関する前記最決平成 20・4・15参照),会話内容の秘密侵害と私的領域への侵入を欠き、みだりに私的な会話を他人に聴取・録音されない自由・期待のみの侵害にとどまるので、任意捜査と評価されよう(例。公道上や不特定多数の客が集まる飲食店内等における会話内容や、そのような場所において携帯電話を用いて行われた一方当事者の発話内容を聴取・録音する場合)。この場合は、法197条1項本文に基づく「比例原則(権衡原則)」の規律でその適否が定まることになる。
(3) 強制処分に該当する態様の受は、前記のとおり憲法上の重要な権利・自由を直接侵害・制約する捜査手段であるが、これらの基本権も絶対無制約とは解されないから、それだけで直ちに違憲になるわけでないのは、現に刑事訴訟法が法定している強制処分の場合(例,「通信の秘密」を直接侵害する郵便物の押収,「住居等の平穏」を直接侵害する捜索・検証、「所持品」の押収等)と同様である。最高裁判所は、電話傍受が「通の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である」と述べた上で、次のようにその合憲性について説示している(前記最決平成11・12・16)。
「電話受は、・・・・・・一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであ[る。].....重大な罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受
以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である」。
この憲法解釈は、被疑事件の重大性、高度の嫌疑(「罪をしたと疑うに足りる十分な理由」),傍受の高度の必要性・補充性、法益侵害の内容・程度等の要素を摘示して「犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるとき」に限り憲法上許容できる旨を述べているとみられ、明らかに通常の強制処分(例,捜索・差押え・検証[法 218条])より一層厳格な限定が加えられている。それは、憲法解釈の最終権限を有する最高裁判所が、傍受によって侵害される感法上の基本権の質と程度を極めて深刻・重大であると位置付けているからであろう。したがって、仮に既存の「法律の定める手続」の解釈・適用に基づく場合には、このような限定的実体要件を充たさない処分は許されず。実行すれば適用意となるはずである。また。国会が捜査手段としての傍受処分を立法する場合に、最高裁の意法解釈に適合しない要件を設定すれば、法令違憲となるはずであるう。
なお、手続的側面すなわち状主義(憲法 35条)及び適正手続(憲法31条)の観点における合憲性については、別途説明する〔後記Ⅲ 2 3〕