検証・鑑定|鑑定|鑑定処分
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 鑑定受託者は、鑑定について必要がある場合には、裁判官の許可を受けて、鑑定人に認められている処分(法 168条1項)を行うことができる(法225条1項)。法が列記しているのは、人の住居もしくは人の看守する邸宅,建造物もしくは船舶内への立入り、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊である。鑑定に必要な資料の収集方法等について特段の制約はないが、ここに列記された処分は、いずれも対象者の意思に反してその法益を侵害する態様なので、裁判官の令状による許可を要するとされているのである。
鑑定留置の場合と同様に,裁判官の許可の請求は、鑑定受託者ではなく捜査機関から行う(法 225条2項。請求書の記載要件は規則 159条)。裁判官は、請求を相当と認めるときは許可状を発する。これを「鑑定処分許可状」という(法225条3項)。鑑定処分許可状の記載要件は、被疑者の氏名、罪名及び立ち入るべき場所、検査すべき身体、解剖すべき死体、発掘すべき墳墓または破壊すべき物並びに鑑定受託者の氏名等である(法 225条4項・168条2項、規則302条2項・133条)。処分の実施に際し、鑑定受託者は、処分を受ける者に鑑定処分許可状を呈示しなければならない(法 225条4項・168条4項)。
捜査段階で人の死因等を解明するために実施される死体解剖は、法医学の専門家に死因等に関する鑑定を嘱託し、鑑定に必要な処分として鑑定処分許可状を得て行われている。物の破関は、梅証の場合と同様、必要かつ相当な範時にとどめられるべきであるが、鑑定の目的達成に必要やむを得ない場合には、血液、尿,薬物等の検体を全て費消することも、物の破壊に準じ、許される。ちなみに、再整定の資料を残さない無定結果に証拠能力がないとする議論は不合理である。
(2)身体検査については、検証としての身体検査の場合と同様、裁判官は可状に適当と認める条件をすることができる(法225条4項・168条3項)。また、検証としての身体検査に係る条項が、直接強制を認めた規定(法139条)を除き、鑑定処分としての身体検査に準用される(法225条4項・168条6項)。
すなわち、身体検査に際しては、これを受ける者の名誉を害しないよう注意し、女子については医師または成年の女子を立ち会わせなければならず(法 225条4項・168条6項・131条),身体検査を拒んだ者に対しては、過料等の間接強制手段と刑罰の制裁がある(法225条4項・168条6項・137条・138条・140条)。
(3) 鑑定処分としての身体検査は、医師等の専門家が主体となって実施するのであるから、身体に対する外部的検査(例、身長・体重・脈拍・血圧測定、身体外表部の観察、呼気検査等)のみならず、身体内部に及ぶ検査(例、エックス線透視、消化器官の内視鏡検査、体液の採取等)も行うことができる。もっとも、医学的に安全性が確立している医療技術や検査であっても、治療・検査目的ではなく犯罪捜査目的で、非協力的な対象者の意思に反し実行される場合には、生命・身体の安全に重大な危険を生じるおそれがあるから、対象者の任意の協力を得られなければ許されないというべき場合があり得よう。
身体検査に伴う対象者の安全・健康状態への悪影響や対象者の名誉・羞恥感情等の人格的法益に対する侵害が著しく、他方でその必要性の程度が高くない検査は許可すべきでない。裁判官は、不相当と認める身体検査の請求を却下すべきである(例。緊急の医療上の必要がない切開手術や必要不可でない精液採取)。
生命と人格の尊厳は保護すべき最高の価値であるから、いかに必要性が認められても、裁判官は、憲法13条及び31条を根拠として、身体検査を許容すべきでない場合があり得よう。
体内に無下された証拠物等を体外に排出させるために下剤や吐剤を投与することは、薬物を用いて健常を対象者の健康状を不良に変更し生理的能を除害する措置であることに鑑みると、医療・救命措置として必要不可欠な場合のほか、高度の必要性が認められない限りは、許されないというべきであろう(製素差押許可状、定処分可状及び身体検を装の発付を受けて被疑者の無でしたマイクロSDカードを、大腸内視鏡を肛門に挿入して取り出した処分について、高度の捜査上の必要性を突き達法とした裁判例として、東京高判令和3・10・29判夕1505号85頁)。薬物投与を伴う心理検査の一手法としての麻酔分析や飲酒テストは、苦浦なく安全な手法で行われる限り許容されよう。
(4)前記のとおり、法は鑑定処分について身体検査の直接強制に関する規定を準用していない(法225条4項・168条6項は法139条の準用を除外している)。
もっとも、「鑑定人」の実施する身体検査については、裁判官による直接強制の途がある(法 172条)。これに対して、「鑑定受託者」の実施する身体検査については、法172条の準用もない(法225条参照)。このため、法文上は、鑑定受託者の実施する身体検査を拒んだ者に対する直接強制の根拠条文はどこにも存在しない。
医療技術を用いて身体内部に及ぶ検査のうち、対象者の任意の協力がなければ生命・身体に重大な危険が生じ得る措置は、仮に法的には直接強制が可能とされていたとしても、当該具体的事案においては実施するのが相当でない場合があり得る。「鑑定人」の身体検査の直接強制に関する法172条も、この点は当然の前提としていると考えられる(例えば、激しく抵抗する対象者を制圧しつつ内視鏡検査を実施することは危険であり不可能であろう)。「鑑定受託者」の鑑定について直接強制の根拠条文がない以上、このような態様の身体検査を強制することは許されないと解すべきである。
他方、生命・身体への危険がこの程度に至らない医療的措置(例,静脈からの血液採取、エックス線透視等)については、検査の実施過程や結果について専門的知識・経験に基づく判断を求める医師等の専門家を鑑定受託者とした鑑定処分許可状を基本としつつ、当該専門家が検査行為を実施する旨の条件を加した身体検査令状を併用して、直接強制を捜査機関が担当するという方法が、現行法の下でもっとも適切かつ対象者の安全配慮に即した方法であると思われる。なお、鑑定の前提となる身体検査の実質的目的が身体の状態の認識・観察(税証)にとどまらず証拠物等の探索(捜索)である場合には、処分の性質上直接強制が可能な身体の捜索令状と鑑定処分許可状との併用が目的の実質に即しより適切な場合もあり得よう。
鑑定留置の場合と同様に,裁判官の許可の請求は、鑑定受託者ではなく捜査機関から行う(法 225条2項。請求書の記載要件は規則 159条)。裁判官は、請求を相当と認めるときは許可状を発する。これを「鑑定処分許可状」という(法225条3項)。鑑定処分許可状の記載要件は、被疑者の氏名、罪名及び立ち入るべき場所、検査すべき身体、解剖すべき死体、発掘すべき墳墓または破壊すべき物並びに鑑定受託者の氏名等である(法 225条4項・168条2項、規則302条2項・133条)。処分の実施に際し、鑑定受託者は、処分を受ける者に鑑定処分許可状を呈示しなければならない(法 225条4項・168条4項)。
捜査段階で人の死因等を解明するために実施される死体解剖は、法医学の専門家に死因等に関する鑑定を嘱託し、鑑定に必要な処分として鑑定処分許可状を得て行われている。物の破関は、梅証の場合と同様、必要かつ相当な範時にとどめられるべきであるが、鑑定の目的達成に必要やむを得ない場合には、血液、尿,薬物等の検体を全て費消することも、物の破壊に準じ、許される。ちなみに、再整定の資料を残さない無定結果に証拠能力がないとする議論は不合理である。
(2)身体検査については、検証としての身体検査の場合と同様、裁判官は可状に適当と認める条件をすることができる(法225条4項・168条3項)。また、検証としての身体検査に係る条項が、直接強制を認めた規定(法139条)を除き、鑑定処分としての身体検査に準用される(法225条4項・168条6項)。
すなわち、身体検査に際しては、これを受ける者の名誉を害しないよう注意し、女子については医師または成年の女子を立ち会わせなければならず(法 225条4項・168条6項・131条),身体検査を拒んだ者に対しては、過料等の間接強制手段と刑罰の制裁がある(法225条4項・168条6項・137条・138条・140条)。
(3) 鑑定処分としての身体検査は、医師等の専門家が主体となって実施するのであるから、身体に対する外部的検査(例、身長・体重・脈拍・血圧測定、身体外表部の観察、呼気検査等)のみならず、身体内部に及ぶ検査(例、エックス線透視、消化器官の内視鏡検査、体液の採取等)も行うことができる。もっとも、医学的に安全性が確立している医療技術や検査であっても、治療・検査目的ではなく犯罪捜査目的で、非協力的な対象者の意思に反し実行される場合には、生命・身体の安全に重大な危険を生じるおそれがあるから、対象者の任意の協力を得られなければ許されないというべき場合があり得よう。
身体検査に伴う対象者の安全・健康状態への悪影響や対象者の名誉・羞恥感情等の人格的法益に対する侵害が著しく、他方でその必要性の程度が高くない検査は許可すべきでない。裁判官は、不相当と認める身体検査の請求を却下すべきである(例。緊急の医療上の必要がない切開手術や必要不可でない精液採取)。
生命と人格の尊厳は保護すべき最高の価値であるから、いかに必要性が認められても、裁判官は、憲法13条及び31条を根拠として、身体検査を許容すべきでない場合があり得よう。
体内に無下された証拠物等を体外に排出させるために下剤や吐剤を投与することは、薬物を用いて健常を対象者の健康状を不良に変更し生理的能を除害する措置であることに鑑みると、医療・救命措置として必要不可欠な場合のほか、高度の必要性が認められない限りは、許されないというべきであろう(製素差押許可状、定処分可状及び身体検を装の発付を受けて被疑者の無でしたマイクロSDカードを、大腸内視鏡を肛門に挿入して取り出した処分について、高度の捜査上の必要性を突き達法とした裁判例として、東京高判令和3・10・29判夕1505号85頁)。薬物投与を伴う心理検査の一手法としての麻酔分析や飲酒テストは、苦浦なく安全な手法で行われる限り許容されよう。
(4)前記のとおり、法は鑑定処分について身体検査の直接強制に関する規定を準用していない(法225条4項・168条6項は法139条の準用を除外している)。
もっとも、「鑑定人」の実施する身体検査については、裁判官による直接強制の途がある(法 172条)。これに対して、「鑑定受託者」の実施する身体検査については、法172条の準用もない(法225条参照)。このため、法文上は、鑑定受託者の実施する身体検査を拒んだ者に対する直接強制の根拠条文はどこにも存在しない。
医療技術を用いて身体内部に及ぶ検査のうち、対象者の任意の協力がなければ生命・身体に重大な危険が生じ得る措置は、仮に法的には直接強制が可能とされていたとしても、当該具体的事案においては実施するのが相当でない場合があり得る。「鑑定人」の身体検査の直接強制に関する法172条も、この点は当然の前提としていると考えられる(例えば、激しく抵抗する対象者を制圧しつつ内視鏡検査を実施することは危険であり不可能であろう)。「鑑定受託者」の鑑定について直接強制の根拠条文がない以上、このような態様の身体検査を強制することは許されないと解すべきである。
他方、生命・身体への危険がこの程度に至らない医療的措置(例,静脈からの血液採取、エックス線透視等)については、検査の実施過程や結果について専門的知識・経験に基づく判断を求める医師等の専門家を鑑定受託者とした鑑定処分許可状を基本としつつ、当該専門家が検査行為を実施する旨の条件を加した身体検査令状を併用して、直接強制を捜査機関が担当するという方法が、現行法の下でもっとも適切かつ対象者の安全配慮に即した方法であると思われる。なお、鑑定の前提となる身体検査の実質的目的が身体の状態の認識・観察(税証)にとどまらず証拠物等の探索(捜索)である場合には、処分の性質上直接強制が可能な身体の捜索令状と鑑定処分許可状との併用が目的の実質に即しより適切な場合もあり得よう。