検証・鑑定|検証|検証の意義
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
1) 検証とは、特定の場所や物や人の身体の性質・状態等を五官の作用で認識する活動をいう。最高裁判所は、検証を「五官の作用によって対象の存否、性質,状態、内容等を認識。保全する」活動と定義している(電話受に関する坂決平成11・12・16 刑集53巻9号1327頁)。刑事訴訟法上その主体は、裁判所・裁判官(法128条~142条・179条)または捜査機関(法218条1項)である。
捜査機関が、対象者の意思に反してでも、検証の対象が存在する場所に立ち入る等してこのような活動を実施する場合には、憲法35条の保障する住居等の平穏を害し、私的領域に「侵入」する「強制の処分」(法 197条1項但書)に該当するので、捜索・差押えと同様に、原則として裁判官の令状によらなければならない旨の特別の根拠規定が設けられている(法 218条1項)。
令状の請求と発付に関して、「正当な理由」(恋法35条)すなわち、被疑事実の存在する蓋然性と特定の対象について検証を実施する具体的な必要性が要請される点は、捜索・差押えと同様である。状請求権者、請求の方式,検証状の記載事項も捜索・差押えとほは同じであり、検証状には、検証すべき場所または物を明示・記載しなければならない(法218条4項、規則155条・156条1項、法219 条)。
令状に基づく検証の実施に際し、状の星示、責任者等の立会い、実施中の出入禁止措置,一時中止の場合の閉鎖措置、被疑者の立会いを求めることができることについて、捜索・差押えと同様である(法222条1項・110条・112条・114条・118条・222条6項)。また、日出前・日没後の実施について、捜索・差押えと同様の住居等への立入制限がある(法222条4項・5項、規則155条1項7号)。特定の場所の夜間の状態を検証する必要がある場合には、捜査機関の請求により状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がされることになる。
対象の状態等を認識しこれを証拠として保全する捜査手段が「強制の処分」(法197条1項但書)である検証に該当するかどうかについては、その類型的行為態様が、憲法 35条の保障する対象・領域への「侵入」に当たるかという点及び憲法上保障されている重要な法益すなわちプライヴァシイの期待等の侵害・制約の有無・程度が基本的な指標になる[第1章1、第5章I1)。対象の状態等を認識しこれを保全する性質を有する写真・ビデオ撮影や通信・会話の傍受については、別途。検討する〔第7章】。
* 最高裁判所は、荷送人や荷受人の承諾がないのに、運送過程にある荷物に外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察した捜査機関の行為について、「射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。・・・・・検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は、違法である」と説示している(最決平成 21・9-28刑集63巻7号868頁)。この判例に示された解釈に立てば、察官が職務質問の過程で対象者の承諾がないのにその所持する鞄等の内部を観察する行為も、同様に検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解さなければ一貫しないであろう。職務質問に附随する所持品検査に関する判例(最判昭和53・6・20 刑集32巻4号 670頁)の警職法解釈は不当であり、この判例は変更されるべきである〔第2章I13。なお,前記エックス線照射に関する判例の解釈に立てば、人の「所持品」と共に憲法 35条の保障する領域である「住居」内の状態を写真撮影する行為も、住居の平穏を害し住居に対するプライヴァシイ等を大きく侵害する態様のものであるから、私的領域への「侵入」に当たり、検証としての性質を有する強制処分に当たるはずである。
(2) 検証については、処分の実効性を確保しその本来的目的を達するため「必要な処分」をすることができる。法が例示するのは、「身体の検査、死体の解剖,墳墓の発掘。物の破壊その他」である(法222条1項・129条)。「身体の検査」については後述する。「物の破壊」は、検証の目的達成に必要で侵害の程度が必要性と合理的に権衡し相当と認められる限度でなければならない。
「死体を解割し、又は墳墓を発掘する場合には、礼を失わないように注意し、配信者,直系の親族又は兄弟姉妹があるときは、これに通知しなければならない」旨の規則がある(裁判所の検証についての注意規定・規則101条参照)。もっとも、死因を解明するための「死体の解剖」は、法医学専門家に鑑定を嘱託し、鑑定処分として実施されるのが一般である〔鑑定嘱託については後記II。法223条
1項・225条1項・168条1項参照】。
令状に記載された「検証すべき場所」への立入りは、検証に「必要な処分」であり,検証令状の効力として状裁判官により併せ許容されているとみることができる。これに対して、「検証すべき物」を探索・発見する活動は「捜索」の性質を有するとみられるが、当該対象物に対する管理支配とは別個固有の法益侵害を伴う場合には、検証に「必要な処分」の範囲を超えるであろう。検証すべき物の探索・発見のための「捜索」令状が必要と思われる(もっとも、捜素対象の「特定」が必要であろう)。検証対象物を発見するために検証令状のみで不特定多数の場所を捜索できると解することはできない。
捜査機関が、電子計算機の記録媒体に記録されている可視性・可読性のない電磁的記録を検証可能な状態にするため、これをディスプレイに表示したり、印字したり、別の記録媒体に複写する行為は、検証の対象が電子計算機または当該電磁的記録が記録された記録媒体である場合に、検証に「必要な処分」として実行することができると思われる(もっとも、電子計算機を操作して対象となる磁的記録を探索・発見する活動の実質は捜索であろう)。ただし、差し押えたパソコンについて、差押え後に把握したパスワードを用い当該パソコンの内容を複製したパソコンからサーバにアクセスし、電子メール等を関覧、保存することは、当該パソコンに対する検証令状に基づいては行うことのできない強制処分に当たるとした裁判例がある(東京高判平成28・12・7高刑集69巻2号5頁)。
※前記【第5なり)のとおり、2011(平成 23)年法改正により、差し押えるべき物が竜磁的記録に係る記録媒体であるときは、捜索・差押えを実行する捜査機関は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる旨の条項が設けられている(法222条1項・111条の2)。捜査機関が電磁的記録に係る記録媒体を対象に検証する場合にも、同様の協力要請をすることができるし
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ととされた(法222条1項・111条の2)。(3) 検証を行った者が五官の作用で認識した内容は、「検証の結果を記載した書面(検証調書)」として記録・保全され、証拠化されるのが一般である。捜査機関の作成した検証調書は、検証を行った者の知覚・記憶に基づきこれを表現・記録した「供述」書面すなわち伝開証拠であるが(法 320条1項),その活動の性質に即した要件で伝例外として証拠能力が認められる(法 321条3項)
〔第4編証拠法第5章M12)。両当事者が証拠とすることに「同意」した場合も同様である(法 326条)。
捜査機関が、対象者の意思に反してでも、検証の対象が存在する場所に立ち入る等してこのような活動を実施する場合には、憲法35条の保障する住居等の平穏を害し、私的領域に「侵入」する「強制の処分」(法 197条1項但書)に該当するので、捜索・差押えと同様に、原則として裁判官の令状によらなければならない旨の特別の根拠規定が設けられている(法 218条1項)。
令状の請求と発付に関して、「正当な理由」(恋法35条)すなわち、被疑事実の存在する蓋然性と特定の対象について検証を実施する具体的な必要性が要請される点は、捜索・差押えと同様である。状請求権者、請求の方式,検証状の記載事項も捜索・差押えとほは同じであり、検証状には、検証すべき場所または物を明示・記載しなければならない(法218条4項、規則155条・156条1項、法219 条)。
令状に基づく検証の実施に際し、状の星示、責任者等の立会い、実施中の出入禁止措置,一時中止の場合の閉鎖措置、被疑者の立会いを求めることができることについて、捜索・差押えと同様である(法222条1項・110条・112条・114条・118条・222条6項)。また、日出前・日没後の実施について、捜索・差押えと同様の住居等への立入制限がある(法222条4項・5項、規則155条1項7号)。特定の場所の夜間の状態を検証する必要がある場合には、捜査機関の請求により状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がされることになる。
対象の状態等を認識しこれを証拠として保全する捜査手段が「強制の処分」(法197条1項但書)である検証に該当するかどうかについては、その類型的行為態様が、憲法 35条の保障する対象・領域への「侵入」に当たるかという点及び憲法上保障されている重要な法益すなわちプライヴァシイの期待等の侵害・制約の有無・程度が基本的な指標になる[第1章1、第5章I1)。対象の状態等を認識しこれを保全する性質を有する写真・ビデオ撮影や通信・会話の傍受については、別途。検討する〔第7章】。
* 最高裁判所は、荷送人や荷受人の承諾がないのに、運送過程にある荷物に外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察した捜査機関の行為について、「射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。・・・・・検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は、違法である」と説示している(最決平成 21・9-28刑集63巻7号868頁)。この判例に示された解釈に立てば、察官が職務質問の過程で対象者の承諾がないのにその所持する鞄等の内部を観察する行為も、同様に検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解さなければ一貫しないであろう。職務質問に附随する所持品検査に関する判例(最判昭和53・6・20 刑集32巻4号 670頁)の警職法解釈は不当であり、この判例は変更されるべきである〔第2章I13。なお,前記エックス線照射に関する判例の解釈に立てば、人の「所持品」と共に憲法 35条の保障する領域である「住居」内の状態を写真撮影する行為も、住居の平穏を害し住居に対するプライヴァシイ等を大きく侵害する態様のものであるから、私的領域への「侵入」に当たり、検証としての性質を有する強制処分に当たるはずである。
(2) 検証については、処分の実効性を確保しその本来的目的を達するため「必要な処分」をすることができる。法が例示するのは、「身体の検査、死体の解剖,墳墓の発掘。物の破壊その他」である(法222条1項・129条)。「身体の検査」については後述する。「物の破壊」は、検証の目的達成に必要で侵害の程度が必要性と合理的に権衡し相当と認められる限度でなければならない。
「死体を解割し、又は墳墓を発掘する場合には、礼を失わないように注意し、配信者,直系の親族又は兄弟姉妹があるときは、これに通知しなければならない」旨の規則がある(裁判所の検証についての注意規定・規則101条参照)。もっとも、死因を解明するための「死体の解剖」は、法医学専門家に鑑定を嘱託し、鑑定処分として実施されるのが一般である〔鑑定嘱託については後記II。法223条
1項・225条1項・168条1項参照】。
令状に記載された「検証すべき場所」への立入りは、検証に「必要な処分」であり,検証令状の効力として状裁判官により併せ許容されているとみることができる。これに対して、「検証すべき物」を探索・発見する活動は「捜索」の性質を有するとみられるが、当該対象物に対する管理支配とは別個固有の法益侵害を伴う場合には、検証に「必要な処分」の範囲を超えるであろう。検証すべき物の探索・発見のための「捜索」令状が必要と思われる(もっとも、捜素対象の「特定」が必要であろう)。検証対象物を発見するために検証令状のみで不特定多数の場所を捜索できると解することはできない。
捜査機関が、電子計算機の記録媒体に記録されている可視性・可読性のない電磁的記録を検証可能な状態にするため、これをディスプレイに表示したり、印字したり、別の記録媒体に複写する行為は、検証の対象が電子計算機または当該電磁的記録が記録された記録媒体である場合に、検証に「必要な処分」として実行することができると思われる(もっとも、電子計算機を操作して対象となる磁的記録を探索・発見する活動の実質は捜索であろう)。ただし、差し押えたパソコンについて、差押え後に把握したパスワードを用い当該パソコンの内容を複製したパソコンからサーバにアクセスし、電子メール等を関覧、保存することは、当該パソコンに対する検証令状に基づいては行うことのできない強制処分に当たるとした裁判例がある(東京高判平成28・12・7高刑集69巻2号5頁)。
※前記【第5なり)のとおり、2011(平成 23)年法改正により、差し押えるべき物が竜磁的記録に係る記録媒体であるときは、捜索・差押えを実行する捜査機関は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる旨の条項が設けられている(法222条1項・111条の2)。捜査機関が電磁的記録に係る記録媒体を対象に検証する場合にも、同様の協力要請をすることができるし
150
ととされた(法222条1項・111条の2)。(3) 検証を行った者が五官の作用で認識した内容は、「検証の結果を記載した書面(検証調書)」として記録・保全され、証拠化されるのが一般である。捜査機関の作成した検証調書は、検証を行った者の知覚・記憶に基づきこれを表現・記録した「供述」書面すなわち伝開証拠であるが(法 320条1項),その活動の性質に即した要件で伝例外として証拠能力が認められる(法 321条3項)
〔第4編証拠法第5章M12)。両当事者が証拠とすることに「同意」した場合も同様である(法 326条)。