捜索・押収|電磁的記録の取得・保全|通言履歴の保全要請
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
電磁的記録に関する以上のような新しい強制処分や差押え処分の執行方法に関する規定に加えて、任意処分として、捜査機関が通信事業者等に対して通履歴のデータを一定期間保全するよう要請できる規定が設けられた(法197条3項・4項)。ネットワークを介した犯罪の捜査に際しては、通言履歴の取得・保全が重要となるが、履歴データは短期間で消去される場合が多いことから、捜査上必要な履歴を押収することができるようになるまでの間、サービスプロバイダ等の保管者に対し、消去しないことを求めるものである。
通信内容だけでなく通履歴にも憲法の通信の秘密の保障が及ぶと考えられるが(憲法 21条2項),保全要請は、事業者等が業務上作成記録している通信履歴を消去しないよう求めるにとどまり、それだけで通言履歴が捜査機関に開示されるものではなく、また、義務違反に対する制裁規定もないので、任意処分と位置付けられ規定された。
保全要請ができるのは、捜査機関が差押えまたは記録命令付差押えをするため必要があるときであり、保全要請の相手方となるのは、「電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者」(電気通信事業者)、または「自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者」(例、電気通設備であるLAN等を設置している会社、官公庁、大学等)で、保全要請の対象となるのは、「その業務上記録している電気通言の送元,送先、通日時その他の通信履歴の電磁的記録」である(法 197条3項)。
捜査機関は、必要なデータを特定し,30日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面で求めることができる。なお、特に必要があるときは保全期間を30日を超えない範囲内で延長することができるが、通じて 60日を超えることはできない。また,差押えまたは記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至ったときは、保全要請を取り消さなければならない(法197条3項・4項)。
なお、このような保全要請や既に規定のある捜査関係事項照会(法 197条2項)については、対象者から捜査上の秘密事項が漏洩して支障が生ずるおそれがあるため、捜査機関は、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる規定が設けられている(法 197条5項)〔I1
(2)*]。
*前記〔11(2)**〕のとおり、情報通信技術の進展・普及に伴う法整備に関する法制審議会答申において、電磁的記録を直接提供させる強制処分を創設する法改正要網が示されている(これに伴い。現行法に規定されている記録命令付差押えを廃止することを含む)。ここで創設することとしている強制処分は、裁判所が自ら、あるいは、捜査機関が裁判官の発する状により、裁判や捜査に必要な電磁的記録を保管する者などに対して、当該電磁的記録を提供するよう命ずることができるとするものであり、記録命付差押えが、必要な電磁的記録を入手する方法として、これを記録媒体に記録させて差し押さえるものであるのに対し,電磁的記録提供命令では、記録媒体などの有体物を介在させずに電磁的記録を入手することが可能となる。この処分については、差押え処分と同様に,命令を拒絶できる場合に関する規律や、目録の交付。原状回復、不服申立てに関する規律などを設けるとされている。
また。捜査機関による竜磁的記録提供命令については、必要があるときは、裁判官の許可を受けて、被処分者に対して、みだりに命令を受けたこと等を漏らしてはならない旨を命ずる秘密保持命令を発することができ、電磁的記録提供命令及び秘密保持命令について、その実効性を担保する観点から、命令の違反について罰則を設けるとされている。
このような強制処分の創設について、要網茶を検討した法制審議会刑事法部会においては、個人のプライバシイに関するデータの包括的な収集・押収が行われるのではないかという悪念、また。被疑者・被告人に対してデータの提供を命令し、罰則で強制することは、憲法38条1項が保障する自己負罪拒否特権を侵害するのではないかといった指摘がなされた。もっとも、裁判官が発する令状には、「提供させるべき電磁的記録」が具体的に特定されて記載され、提供を命じることができるのは、その範囲に限定されるので、差押え等の既存の他の強制処分と同様、包括的な情報の収集・押収は行われ得ない仕組となっており、懸念は当たらないであろう。
また、電磁的記録提供命令は、既に存在している特定の電磁的記録であって被処分者が保管し、または利用する権限を有するものの提供を強制するものであり、その者の「述」を強要するものではないから、憲法38条1項に抵触するものではない。また、対象となる電磁的記録にパスワードによる暗号化の措置が施されているときは、被処分者に対してこれを解除したうえで{磁的記録を提供させることとなるが、強制することができるのは飽くまで電磁的記録の提供であり、パスワードを供述することを強制するものではない。なお、自己負罪拒否特権と既存文書の提出命令制度との関係について〔第9章Ⅱ 2(2)*。
通信内容だけでなく通履歴にも憲法の通信の秘密の保障が及ぶと考えられるが(憲法 21条2項),保全要請は、事業者等が業務上作成記録している通信履歴を消去しないよう求めるにとどまり、それだけで通言履歴が捜査機関に開示されるものではなく、また、義務違反に対する制裁規定もないので、任意処分と位置付けられ規定された。
保全要請ができるのは、捜査機関が差押えまたは記録命令付差押えをするため必要があるときであり、保全要請の相手方となるのは、「電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者」(電気通信事業者)、または「自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者」(例、電気通設備であるLAN等を設置している会社、官公庁、大学等)で、保全要請の対象となるのは、「その業務上記録している電気通言の送元,送先、通日時その他の通信履歴の電磁的記録」である(法 197条3項)。
捜査機関は、必要なデータを特定し,30日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面で求めることができる。なお、特に必要があるときは保全期間を30日を超えない範囲内で延長することができるが、通じて 60日を超えることはできない。また,差押えまたは記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至ったときは、保全要請を取り消さなければならない(法197条3項・4項)。
なお、このような保全要請や既に規定のある捜査関係事項照会(法 197条2項)については、対象者から捜査上の秘密事項が漏洩して支障が生ずるおそれがあるため、捜査機関は、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる規定が設けられている(法 197条5項)〔I1
(2)*]。
*前記〔11(2)**〕のとおり、情報通信技術の進展・普及に伴う法整備に関する法制審議会答申において、電磁的記録を直接提供させる強制処分を創設する法改正要網が示されている(これに伴い。現行法に規定されている記録命令付差押えを廃止することを含む)。ここで創設することとしている強制処分は、裁判所が自ら、あるいは、捜査機関が裁判官の発する状により、裁判や捜査に必要な電磁的記録を保管する者などに対して、当該電磁的記録を提供するよう命ずることができるとするものであり、記録命付差押えが、必要な電磁的記録を入手する方法として、これを記録媒体に記録させて差し押さえるものであるのに対し,電磁的記録提供命令では、記録媒体などの有体物を介在させずに電磁的記録を入手することが可能となる。この処分については、差押え処分と同様に,命令を拒絶できる場合に関する規律や、目録の交付。原状回復、不服申立てに関する規律などを設けるとされている。
また。捜査機関による竜磁的記録提供命令については、必要があるときは、裁判官の許可を受けて、被処分者に対して、みだりに命令を受けたこと等を漏らしてはならない旨を命ずる秘密保持命令を発することができ、電磁的記録提供命令及び秘密保持命令について、その実効性を担保する観点から、命令の違反について罰則を設けるとされている。
このような強制処分の創設について、要網茶を検討した法制審議会刑事法部会においては、個人のプライバシイに関するデータの包括的な収集・押収が行われるのではないかという悪念、また。被疑者・被告人に対してデータの提供を命令し、罰則で強制することは、憲法38条1項が保障する自己負罪拒否特権を侵害するのではないかといった指摘がなされた。もっとも、裁判官が発する令状には、「提供させるべき電磁的記録」が具体的に特定されて記載され、提供を命じることができるのは、その範囲に限定されるので、差押え等の既存の他の強制処分と同様、包括的な情報の収集・押収は行われ得ない仕組となっており、懸念は当たらないであろう。
また、電磁的記録提供命令は、既に存在している特定の電磁的記録であって被処分者が保管し、または利用する権限を有するものの提供を強制するものであり、その者の「述」を強要するものではないから、憲法38条1項に抵触するものではない。また、対象となる電磁的記録にパスワードによる暗号化の措置が施されているときは、被処分者に対してこれを解除したうえで{磁的記録を提供させることとなるが、強制することができるのは飽くまで電磁的記録の提供であり、パスワードを供述することを強制するものではない。なお、自己負罪拒否特権と既存文書の提出命令制度との関係について〔第9章Ⅱ 2(2)*。