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弁護士の知識

捜索・押収|電磁的記録の取得・保全|電気通信回線で接続している記録媒体からの複写

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

物理的には別の場所にあるが、差押えの対象である電子計算機とネットワークで接続され一体的に使用されている記録媒体から、データを複写して取得する方法が導入された(法218条2項)。捜査機関は、差し押えるべき物が電子計算機であるとき、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって、当該電子計算機で作成もしくは変更をした電磁的記録または当該電子計算機で変更もしくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるもの(例,作成した電子メールを保管するため使用されているサーバ、作成・変更した文書ファイルを保管するため使用されているファイルサーバ)から、その電磁的記録を当該電子計算機または他の記録媒体(例,別途用意されたディスク等)に複写した上、当該電子計算機または当該他の記録媒体を差し押えることができる。
この処分は差押えの一形態であるから、差押令状の発付を得て実施される。
対象を明示する憲法上の要請をたすため、裁判官の発する令状には、「差し押さえるべき物」である電子計算機のほか、「差し押さえるべき電子計算機に電気通情回線で接続している記録媒体であって、その電磁的記録を複写すべきものの範囲」を記載しなければならない(憲法35条、法219条2項)。例えば、「メールサーバのメールボックスの記憶領域であって、〇〇の使用するコンピュータにインストールされているメールソフトに記録されているアカウントに対応するもの」,「リモート・ストレージ・サーバの記憶領域であって,〇〇の使用するコンピュータにインストールされている、そのサーバにアクセスするためのアプリケーションソフトに記録されているIDに対応するもの」のような記載となる。
複写すべき電磁的記録を保管した記録媒体が、「サイバー犯罪に関する条約」の締約国に所在し,電磁的記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に、国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許されるとした判例がある(最決令
和3・2・1刑集75巻2号123頁)。
なお、通常の差押えの場合と異なり、逮捕現場における無状の処分ができる旨の規定は設けられておらず(法 220条1項2号参照),また同様の処分を定めた総則規定の準用もないので(法99条2項・222条1項参照),逮捕の現場で無令状で電気通回線で接続している記録媒体からの複写を行うことはできない。