被疑者の身体拘束|身体束処分に関する諸問題|逮捕と勾留との関係
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
1) 被疑者の勾留には、逮捕手続が先行する。法207条1項は勾留請求を「前三条の規定」すなわち被疑者の逮捕及び逮捕後の諸手続を経ることによってのみ認めている。このような制度設計を「逮捕前置(逮捕先行)主義」と称する。逮捕は一定時間の身体拘束継続(留置)を伴うので、法制度として逮捕なしの勾留があった方が身体拘束期間を短縮でき被疑者に利益であるようにも見える。それにもかかわらず現行法が逮捕前置の制度を採る実質的な理由として考えられるのは、次の2点であろう。
第一,身体拘束という重大な基本権侵害処分を二段階に分け、各段階に裁判官の審査を介在させることにより、慎重を期すこと(ただし現行犯逮捕は例外)。
第二、比較的短時間の拘束である逮捕段階において,被疑事実を告知しこれに対する弁解を聴取した上で、捜査機関限りの判断と裁量により被疑者を釈放する余地を認めることにより(法 203条1項・205条1項204条1項),いきなり長期間の身体拘束に及ぶのを回避する途を設定しておくこと。
(2)このような逮捕前置の趣意に鑑みると、被疑事実Aで逮捕された被疑者について、勾留請求段階までにA事実の嫌疑が薄らぎこの事実に関しては釈放できる状態であるが、逮捕中に別の被疑事実Bの嫌疑が生じて、これについて身体拘束処分を行う理由と必要があるときは、そのままB事実で勾留すべきではない。改めてB事実について逮捕の手続を踏むべきである。B事実について第一段階の裁判官による審査を省略するのは適切でなく、また、B事実について逮捕段階で釈放され勾留されないで済む可能性を奪うことになる
からである。
これに対して、A 事実につき勾留理由が認められる場合に、B事実を追加して勾留請求されるときは、形式的にはB事実に関する逮捕手続が省略され第一段階の裁判官による審査を父くが、A 事実については逮捕前置の要請が満たされている上、被疑者がA事実で勾留されることが動かない以上、釈放される余地がない。他方、B事実による逮捕を略すのは拘束時間が短くなる点で被疑者に利益であるから、このような勾留は許容されると解される。
(3)逮捕手続が勿留請求に先行・接着していることから、連段階に達法があった場合、これを前提に引き続き行われる勾留請水の効力に影響が及ぶことが考えられる。法は、勾留の理由があっても、正事由なく法定の時間制限を超えてなされた勾留請求を却下し被疑者を釈放しなければならないとしているが(法207条5項但書・206条2項),これは時間制限を超えた身体拘束の継続が法的根拠をく重大な違法状態であり、引き続く勾留請求はこの重大違法の影響を受け無効であることを理由とするものと解される。そうだとすれば、勾留請求に至るまでの手続段階で法に明記された時間制限超過に匹敵する重大な違法があった場合には、同様に,これに引き続く勾留請求も違法性を帯びた無効な手続であると見て、これを却下すべきである。
このような法解釈を支える実質的な理由は次のとおり。
①現行法は逮捕手続自体の適法性を裁判官が再審査する途を用意していない
(連捕に関する準抗告の制度はない。法429条参照。最決昭和57・8・27刑集36巻6号
726頁)。他方で、逮捕前置主義の趣旨・目的が裁判官に身体拘束処分の正当性について慎重な審査点検を行わせることにあるとすれば、勾留請求段階において、裁判官が勾留の実体的要件の存否に加え、これに先行する逮捕手続の適否や被疑者の身体・行動の自由に係る状況の適法性を審査する機会が必要と見るのが合理的である。勾留裁判官が先行する逮捕留置時間制限超過の有無を点検できる法規定は、その典型的一場合と見られる。
②先行する手続に重大な違法があるにもかかわらず、これを全く願識することなく部を認めることができるとすれば、違法な手続を行ってでも勾部の実体的要件さええばよいという法軽視的運用を誘発するおそれがある。このような違法捜査を抑制するという政策的見地から、勾留請求に先行する手続過程の重大な違法については、勾留請求却下という形で裁判官がその違法性を明示顕在化して対処するのが相当である。
以上の実質的理由から、逮捕の基本的な要件・手続を潜脱するような重大明白な違法があれば、これに引き続く勾留請求は却下されるべきである。例えば、拘束時間制限超過と同様におよそ正当な根拠のない身体拘束状態が生じていたと認められる場合(身体拘束の実体的要件がないのに実質上身体拘束状態にした場合。
実質逮捕の時点から勾留請求までが時間制限内であるか香かを問わない),逮捕状の基本部分に重大明白な瑕疵があった場合等がその例である。なお、身体拘束の実体的要件はあったが手続の選択を誤った場合(例えば緊急逮捕すべきところ誤って要件の充足していない準現行犯逮捕をした場合)も、法定要件の充足しない身体拘束処分を行ったという意味で明白な手続違反である。
* 察の違法な身体拘束処分を法律家として初めに認知し得るのは、身柄送致を受ける検察官である。勾留請求の権限を有する検察官は、勾留裁判官と同様に、先行する身体拘束過程の適法性を点検しその適正を担保すべき責務を負う。検察官は、先行する身体拘束過程に違法を認知した場合には、そのような違法状態を解消するため被疑者を釈放すべきであり、そのまま勾留請求すべきではない。勾留裁判官による請求却下が見込まれる前記のような場合,検察官はいったん被疑者を釈放すべきである。その上で同一被疑事実について度の逮捕とこれに引き続く勾留請求が可能であるかは、別途検討される事柄である〔後記3(2)〕
第一,身体拘束という重大な基本権侵害処分を二段階に分け、各段階に裁判官の審査を介在させることにより、慎重を期すこと(ただし現行犯逮捕は例外)。
第二、比較的短時間の拘束である逮捕段階において,被疑事実を告知しこれに対する弁解を聴取した上で、捜査機関限りの判断と裁量により被疑者を釈放する余地を認めることにより(法 203条1項・205条1項204条1項),いきなり長期間の身体拘束に及ぶのを回避する途を設定しておくこと。
(2)このような逮捕前置の趣意に鑑みると、被疑事実Aで逮捕された被疑者について、勾留請求段階までにA事実の嫌疑が薄らぎこの事実に関しては釈放できる状態であるが、逮捕中に別の被疑事実Bの嫌疑が生じて、これについて身体拘束処分を行う理由と必要があるときは、そのままB事実で勾留すべきではない。改めてB事実について逮捕の手続を踏むべきである。B事実について第一段階の裁判官による審査を省略するのは適切でなく、また、B事実について逮捕段階で釈放され勾留されないで済む可能性を奪うことになる
からである。
これに対して、A 事実につき勾留理由が認められる場合に、B事実を追加して勾留請求されるときは、形式的にはB事実に関する逮捕手続が省略され第一段階の裁判官による審査を父くが、A 事実については逮捕前置の要請が満たされている上、被疑者がA事実で勾留されることが動かない以上、釈放される余地がない。他方、B事実による逮捕を略すのは拘束時間が短くなる点で被疑者に利益であるから、このような勾留は許容されると解される。
(3)逮捕手続が勿留請求に先行・接着していることから、連段階に達法があった場合、これを前提に引き続き行われる勾留請水の効力に影響が及ぶことが考えられる。法は、勾留の理由があっても、正事由なく法定の時間制限を超えてなされた勾留請求を却下し被疑者を釈放しなければならないとしているが(法207条5項但書・206条2項),これは時間制限を超えた身体拘束の継続が法的根拠をく重大な違法状態であり、引き続く勾留請求はこの重大違法の影響を受け無効であることを理由とするものと解される。そうだとすれば、勾留請求に至るまでの手続段階で法に明記された時間制限超過に匹敵する重大な違法があった場合には、同様に,これに引き続く勾留請求も違法性を帯びた無効な手続であると見て、これを却下すべきである。
このような法解釈を支える実質的な理由は次のとおり。
①現行法は逮捕手続自体の適法性を裁判官が再審査する途を用意していない
(連捕に関する準抗告の制度はない。法429条参照。最決昭和57・8・27刑集36巻6号
726頁)。他方で、逮捕前置主義の趣旨・目的が裁判官に身体拘束処分の正当性について慎重な審査点検を行わせることにあるとすれば、勾留請求段階において、裁判官が勾留の実体的要件の存否に加え、これに先行する逮捕手続の適否や被疑者の身体・行動の自由に係る状況の適法性を審査する機会が必要と見るのが合理的である。勾留裁判官が先行する逮捕留置時間制限超過の有無を点検できる法規定は、その典型的一場合と見られる。
②先行する手続に重大な違法があるにもかかわらず、これを全く願識することなく部を認めることができるとすれば、違法な手続を行ってでも勾部の実体的要件さええばよいという法軽視的運用を誘発するおそれがある。このような違法捜査を抑制するという政策的見地から、勾留請求に先行する手続過程の重大な違法については、勾留請求却下という形で裁判官がその違法性を明示顕在化して対処するのが相当である。
以上の実質的理由から、逮捕の基本的な要件・手続を潜脱するような重大明白な違法があれば、これに引き続く勾留請求は却下されるべきである。例えば、拘束時間制限超過と同様におよそ正当な根拠のない身体拘束状態が生じていたと認められる場合(身体拘束の実体的要件がないのに実質上身体拘束状態にした場合。
実質逮捕の時点から勾留請求までが時間制限内であるか香かを問わない),逮捕状の基本部分に重大明白な瑕疵があった場合等がその例である。なお、身体拘束の実体的要件はあったが手続の選択を誤った場合(例えば緊急逮捕すべきところ誤って要件の充足していない準現行犯逮捕をした場合)も、法定要件の充足しない身体拘束処分を行ったという意味で明白な手続違反である。
* 察の違法な身体拘束処分を法律家として初めに認知し得るのは、身柄送致を受ける検察官である。勾留請求の権限を有する検察官は、勾留裁判官と同様に、先行する身体拘束過程の適法性を点検しその適正を担保すべき責務を負う。検察官は、先行する身体拘束過程に違法を認知した場合には、そのような違法状態を解消するため被疑者を釈放すべきであり、そのまま勾留請求すべきではない。勾留裁判官による請求却下が見込まれる前記のような場合,検察官はいったん被疑者を釈放すべきである。その上で同一被疑事実について度の逮捕とこれに引き続く勾留請求が可能であるかは、別途検討される事柄である〔後記3(2)〕