被疑者の身体拘束|勾留|勾留に関する不服申立て等
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
1) 勾留の請求を却下する裁判に対しては検察官から、勾留状を発する裁判に対しては被疑者・弁護人から、それぞれ簡裁の裁判官が行った場合は管轄地裁に、他の裁判官が行った場合はその裁判官所属の裁判所に、その取消しを請求することができる。このような勾留に関する裁判に対する不服申立てを、勾留に関する「準抗告」と称する(法429条1項2号)。請求を受けた裁判所は合議体で不服申立てに関する裁判を行う(法429条4項)。勾留期間延長に関する裁判に対しても同様に準抗告をすることができる。
*被疑者側から勾留の裁判に対する準抗告を行うに際して「犯罪の嫌疑がないこと」を理由にすることができるかについて、法420条3項が準用されているため
(法429条2項)形式的には否定的に読めるが、これは嫌疑の有無自体を審判する公判手続の対象とされた「被告人」の勾留を想定したものとみられるので、事情を異にする被疑者勾留理由の核心部分たる嫌疑の存在についても審査できると解すべきである。
**勾留請求却下の裁判があれば、その時点で、それまで勾留請求の効果として持続していた逮捕による被疑者の身体拘束の継続状態は目的を達して法的根拠を失い,当然に被疑者は釈放されなければならない。法 207条5項にいう被疑者の「釈放命令」はこれを確認し手続的に明らかにするものであり、裁判官の命令によってはじめて釈放の効果が生じるのではないと解すべきである。しかし、実務では法 432条が法424条の裁判の執行停止に関する条文を準用していることから、勾留請求却下の裁判があると、検察官は準抗告を申し立てると共に釈放命令の執行停止を求め、これにより被疑者の身体拘束状態を維持したまま準抗告裁判所の判断を待つとの解釈運用が行われている。しかし、かりにこの見解に拠っても、勾留請求却下の裁判があった時点から準抗告申立てまでの身体拘束を続ける法的根拠を見出すことはできない。
(2) 勾留された被疑者は、裁判官に対して勾留理由の開示を請求することができる(法82条1項)。越法34条後段の「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」に基づく。これを「勾留理由開示」という。請求権者は被疑者に加え、その弁護人,法定代理人,保佐人,配者、直系親族、兄弟姉妹その他利害関係人(法 82条2項)と,勾留取消請求権者より広い(検察官は除かれる)。
勾留理由の開示は、公開の法廷で行われる(憲法 34条、法83条1項)。法廷には裁判官及び裁判所書記官が列席し,被疑者及び弁護人が出頭しないときは原則として開廷することができない(法83条2項・3項。検察官の出席は要件でない)。請求があると、裁判官は開示期日を定める。原則として期日と請求日との間に5日以上をおくことはできない。開示期日は、検察官,被疑者、弁護人及び補佐人ならびに請求者に通知される(規則 82条~84条)。
裁判官は、法廷で勾留の理由を告げなければならない。検察官,被疑者、弁護人,その他の請求者は意見を述べることができる(法84条)。なお、口頭による意見陳述の時間は一人10分を超えることはできない(規則 85条の3第1項)。また裁判官が相当と認めるときは、意見陳述に代えて、意見を記載した書面の提出を命ずることができる(法84条2項)。
開示すべき「勾留の理由」とは、身体拘束の基礎とされた被疑事実と法 60条1項各号所定の事由をいうと解される。これを具体的に告げることを要するが、証拠資料の存否内容まで示すことはこの制度の目的の範囲外である。また、被害者等の個人特定事項の秘匿措置がとられ、勾留状に代わるものが発せられた事案では、その趣旨に従い特定事項の記載のない被疑事実を開示すべきである。勾留理由開示手続の結果、勾留の要件の消滅が判明することはあり得る。その場合には、勾留の取消しに結びつくであろう。
(3)開始された勾留からの解放を求める手続として、「勾留の取消」請求がある。被疑者は、勾留の理由または必要がなくなったことを主張して、裁判官に対し、幻間の取消しを請求することができる。請求権者は、このほか検察官、被疑者の弁護人、法定代理人。保佐人、配偶者、直系親族、兄弟姉妹である
(法87条)。裁判官は、勾留の理由または必要が消滅したと認めれば、勾留取消しの裁判をする。裁判官が職権で取り消すこともできる。勾留取消しの裁判をするには、原則として、検察官の意見を聴かなければならない(法92条2項)。
勾留取消請求に関する裁判に対しては、さらに準抗告をすることができる(法429条1項2号)。
なお、勾留の理由または必要があっても、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判官は勾留を取り消さなければならない。請求により、または職権によるが、請求権者に検察官は含まれない(法91条)。
(4)前記のとおり、被疑者の留について保釈の制度は適用されない(法207条1項但書)。身体拘束からの一時的解放として、「勾留の執行停止」がある。
裁判官は、適当と認めるときは、勾留されている被疑者を親族等に委託し、または住居制限を付して、勾留の執行を停止することができる。被告人の保釈と異なり保証金は不要である。勾留の取消しとは異なり被疑者、弁護人等の請求権はなく、職権によってのみ認められる。実務上、病気治療のための入院、返親者の葬儀等の場合に認められている。執行停止の期間や旅行制限等の条件が付加されることもある(法 95条)。
法定された教行停止の取消事由が生じた場合には、裁判官は、検察官の請水により、または職権で、勾留の執行停止を取り消すことができる(法 96条】項)。取り消されると被疑者は刑事施設に収容され再び拘束される。取消事由や手続は、被告人の保釈の場合と同じである(法98条)。
*2023(令和5)年の法改正により保釈中の被告人の出頭確保と併せて勾蜜執行停止中の被疑者・被告人の出頭確保のための措置が整備された。その詳細については【第3編第2章I3(5)*】参照。被疑者につき、法208条の3~208条の5参照。
*被疑者側から勾留の裁判に対する準抗告を行うに際して「犯罪の嫌疑がないこと」を理由にすることができるかについて、法420条3項が準用されているため
(法429条2項)形式的には否定的に読めるが、これは嫌疑の有無自体を審判する公判手続の対象とされた「被告人」の勾留を想定したものとみられるので、事情を異にする被疑者勾留理由の核心部分たる嫌疑の存在についても審査できると解すべきである。
**勾留請求却下の裁判があれば、その時点で、それまで勾留請求の効果として持続していた逮捕による被疑者の身体拘束の継続状態は目的を達して法的根拠を失い,当然に被疑者は釈放されなければならない。法 207条5項にいう被疑者の「釈放命令」はこれを確認し手続的に明らかにするものであり、裁判官の命令によってはじめて釈放の効果が生じるのではないと解すべきである。しかし、実務では法 432条が法424条の裁判の執行停止に関する条文を準用していることから、勾留請求却下の裁判があると、検察官は準抗告を申し立てると共に釈放命令の執行停止を求め、これにより被疑者の身体拘束状態を維持したまま準抗告裁判所の判断を待つとの解釈運用が行われている。しかし、かりにこの見解に拠っても、勾留請求却下の裁判があった時点から準抗告申立てまでの身体拘束を続ける法的根拠を見出すことはできない。
(2) 勾留された被疑者は、裁判官に対して勾留理由の開示を請求することができる(法82条1項)。越法34条後段の「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」に基づく。これを「勾留理由開示」という。請求権者は被疑者に加え、その弁護人,法定代理人,保佐人,配者、直系親族、兄弟姉妹その他利害関係人(法 82条2項)と,勾留取消請求権者より広い(検察官は除かれる)。
勾留理由の開示は、公開の法廷で行われる(憲法 34条、法83条1項)。法廷には裁判官及び裁判所書記官が列席し,被疑者及び弁護人が出頭しないときは原則として開廷することができない(法83条2項・3項。検察官の出席は要件でない)。請求があると、裁判官は開示期日を定める。原則として期日と請求日との間に5日以上をおくことはできない。開示期日は、検察官,被疑者、弁護人及び補佐人ならびに請求者に通知される(規則 82条~84条)。
裁判官は、法廷で勾留の理由を告げなければならない。検察官,被疑者、弁護人,その他の請求者は意見を述べることができる(法84条)。なお、口頭による意見陳述の時間は一人10分を超えることはできない(規則 85条の3第1項)。また裁判官が相当と認めるときは、意見陳述に代えて、意見を記載した書面の提出を命ずることができる(法84条2項)。
開示すべき「勾留の理由」とは、身体拘束の基礎とされた被疑事実と法 60条1項各号所定の事由をいうと解される。これを具体的に告げることを要するが、証拠資料の存否内容まで示すことはこの制度の目的の範囲外である。また、被害者等の個人特定事項の秘匿措置がとられ、勾留状に代わるものが発せられた事案では、その趣旨に従い特定事項の記載のない被疑事実を開示すべきである。勾留理由開示手続の結果、勾留の要件の消滅が判明することはあり得る。その場合には、勾留の取消しに結びつくであろう。
(3)開始された勾留からの解放を求める手続として、「勾留の取消」請求がある。被疑者は、勾留の理由または必要がなくなったことを主張して、裁判官に対し、幻間の取消しを請求することができる。請求権者は、このほか検察官、被疑者の弁護人、法定代理人。保佐人、配偶者、直系親族、兄弟姉妹である
(法87条)。裁判官は、勾留の理由または必要が消滅したと認めれば、勾留取消しの裁判をする。裁判官が職権で取り消すこともできる。勾留取消しの裁判をするには、原則として、検察官の意見を聴かなければならない(法92条2項)。
勾留取消請求に関する裁判に対しては、さらに準抗告をすることができる(法429条1項2号)。
なお、勾留の理由または必要があっても、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判官は勾留を取り消さなければならない。請求により、または職権によるが、請求権者に検察官は含まれない(法91条)。
(4)前記のとおり、被疑者の留について保釈の制度は適用されない(法207条1項但書)。身体拘束からの一時的解放として、「勾留の執行停止」がある。
裁判官は、適当と認めるときは、勾留されている被疑者を親族等に委託し、または住居制限を付して、勾留の執行を停止することができる。被告人の保釈と異なり保証金は不要である。勾留の取消しとは異なり被疑者、弁護人等の請求権はなく、職権によってのみ認められる。実務上、病気治療のための入院、返親者の葬儀等の場合に認められている。執行停止の期間や旅行制限等の条件が付加されることもある(法 95条)。
法定された教行停止の取消事由が生じた場合には、裁判官は、検察官の請水により、または職権で、勾留の執行停止を取り消すことができる(法 96条】項)。取り消されると被疑者は刑事施設に収容され再び拘束される。取消事由や手続は、被告人の保釈の場合と同じである(法98条)。
*2023(令和5)年の法改正により保釈中の被告人の出頭確保と併せて勾蜜執行停止中の被疑者・被告人の出頭確保のための措置が整備された。その詳細については【第3編第2章I3(5)*】参照。被疑者につき、法208条の3~208条の5参照。