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弁護士の知識

被疑者の身体拘束|勾留|実体的要件

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 勾留の要件は、①被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること、及び,②(1被疑者が定まった住居を有しないとき、(i)被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、(被疑者が逃亡しまたは逃とすると疑うに足りる相当な理由があるとき、の一つに当たることである(法60条1項。ただし軽徴な罪については、(日)に限られる。同条3項)。逮捕の要件と対比すれば、①が狭義の勾留理由すなわち嫌疑の存在、②が勾留の必要である。
両者を併せて「勾留の理由(広義)」というのが一般である(法87条1項等)。
逮捕の場合と異なり、②で逃亡のおそれと罪証隠滅のおそれが身体拘束を行うための積極要件とされ、裁判官による慎重な認定が要請されている。
(2) ①の犯罪の嫌疑の文言は通常連捕と同じであるが、逮捕段階より捜査が進展していること、拘束期間が長いこと、直接被疑者の陳述を聴いた上で判断する[2(3)]ことから、通常連捕の「相当な理由」より高度の嫌疑が必要である。
②(i)「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」については、その具体性をどの程度要求するかが勾留の可否に決定的な影響を及ぼし得る。捜査段階は起訴後に比して流動的な状況が大きいが、もとより一般的抽象的な可能性では足りず、被疑者の身体拘束を行わなければ、勾留請求の対象となった被疑事実に関する証拠を隠滅する活動が相当程度に見込まれることをいい,起訴・不起訴の決定に向けた捜査の続行に支障が生じる具体的根拠が必要というべきである。
②曲「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由」は、被疑者を釈放すると所在不明となる可能性が相当程度見込まれることをいう。なお、逃亡のおそれの一類型である②(i)「住居不定」には住居「不明」は含まれないと解すべきである。
*最高裁判所は、60条1項各号の事由の程度を、資料に基づいて具体的、実質的に検討して判断することを要請している。例えば、罪証隠滅・逃亡の現実的可能性の程度が高いとはいえないと判断して勾留請求を却下した原々裁判を取り消して勾を認めた原決定を取り消した最決平成 27・10・22集刑318号11頁参照。また、罪証隠滅の現実的可能性の程度について言及したものとして、朝の通勤通学時間帯に電車内で発生した痴漢の否認事件被疑者の勾留請求を却下した裁判に対し準抗告がなされた事案において、被疑者が前科前歴のない会社員であり、逃亡のおそれも認められないとすれば、勾留の判断を左右する要素は罪証隠滅の現実的可能性の程度であるところ。被疑者が被害者に接触する可能性が高いことを示すような具体的事情がうかがわれないことからすると、準抗告審が、被害者に対する現実的な働き掛けの可能性もあるとするのみで、その可能性の程度について勾留裁判官と異なる判断をした理由を何ら示さずに勾留を認めたことには違法があるとした最決平成26・11・17判時 2245号129頁参照。(3) 法60条1項が明記する「勾留の理由」に加えて、「勾留の必要性・相当性」が独立の要件となると解されている。法は、既に開始された勾留について、裁判官は「勾留の理由又は勾留の必要がなくなったとき」勾留を取り消さなければならないとしているから(法87条1項)、勾留の開始時点においても、裁判官は「勾留の必要」の有無についても審査できるとみるべきである。
実質的に見ても、法60条1項に該当する場合でも諸般の事情を考慮勘築して長期間の拘束を行うのが相当でないと認められる場合が想定できる(例、事案軽微で起訴の可能性が乏しいと見込まれる場合、さらに身体拘束を継続しなくとも直ちに起訴することが可能と認められる場合、住居不定であるが身元が明らかで確実な連先があり明らかに逃亡のおそれがないと認められる場合、高齢・病気等で拘束が相当でないと認められる場合等)。このような場合には、裁判官は勾留の要件をくとして請求を却下すべきである。