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弁護士の知識

被疑者の身体拘束|逮捕|現行犯逮捕

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 現行犯逮捕は、憲法33条の明記する状主義の例外であり、身体束の開始から勾留請求までの間に裁判官による審査手続が介在することはない。
「現行人」については、類型的に、裁判官による審査・判断を経るまでもなく被疑者の身体を拘束する正当な理由が明白であり、不当不合理な基本権侵害
の危険が乏しいからである。
(2)「現行乳人」とは「現に罪を行い。又は現に罪を行い終った者」をいう
(注212条1項)。このような要件に当たる被疑者を直接認識した者にとっては、加入であることが明白である上、直ちに身体を拘束する高度の必要性・緊急性が認められるので、裁判官の審査を不要としたのである。「現に罪を行い終った者」については、兆行から時間が経過し、また場所的移動があると、兆人であることの明白性が急速に減退するので、時間的・場所的近接性は厳格に解しなければならない。
*犯人であることの明白性は、罪の明自性を前提とする。逮捕を行う者にとって犯罪が行われたことを直接知り得ない場合には、現行犯逮捕はできない。もっとも、隠密に行われる犯罪について、一般人には判断できなくとも察官が内偵等によって得た客観的資料に基づく知識により犯罪の存在を知り得る場合には(例えば、賄路罪における金銭の授受や梱包された禁制薬物の取引),そのような察官が現行犯速
捕することはできる。
(13)法は前記現行犯人には該当しないが、次の要件に該当する者が「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」。これを現行犯人とみなすとしている。①人として追呼されているとき、②販物または明らかに犯非の用に供したと思われる器その他の物を所持しているとき、③身体または装服に犯罪の顕著な証跡があるとき、④誰何されて逃走しようとするとき(準現
行犯人。法212条2項)。
「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められる」という犯行との時間的正接性を前提として、犯人であることの明白性を支える類理的事情を付加したものである。現行人とは異なり犯行自体の現認がなく、また犯行場所からの移動が伴っている場合があるので、「間がない」との時間的近接性要件は厳格に解さなければならない。とりわけ④は、犯人であることの明白性を示す程度が強力とはいえないので,①②③に比して、犯罪との時間的・場所的近接性
が高度に要求されるというべきである。
各号に重複して該当する場合には、犯人であることの明白性が強化されるので、時間的・場所的近接性の程度は緩和されることがあり得よう(法212条2
項2号ないし4号に当たるとされた事例として、最決平成8・1・29刑集50巻1号1
頁)。
(4)「現行犯人」は、捜査機関であると私人であるとを問わず、何人でも逮捕状なしに逮捕することができる(法 213条)。私人が現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを捜査機関に引き渡さなければならない(法214条)。司法巡査が現行犯人を受け取ったときは、速やかにこれを司法察員に引致しなければならない。司法巡査は、逮捕者の氏名、住居及び逮捕の事由を聴取し、必要があれば逮捕者に対しともに官公署に行くことを求めることができる(法 215条)。
一定の軽微な犯罪については、人の住居もしくは氏名が明らかでない場合
か、または犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、現行犯逮捕ができる(法
217条)。軽微犯罪について、逮捕の必要性である逃亡のおそれ等を積極要件とし現行犯逮捕の要件を厳格化したものである。
なお明文はないが、現行犯であっても、身元が確実で明らかに逃亡のおそれがなく、かつ罪証隠滅の可能性もないと明らかに認められる場合はあり得るか
5,このような「逮捕の必要」は現行犯逮捕においても要件であると解すべきである。