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弁護士の知識

被疑者の身体拘束|逮捕|緊急逮捕

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

◼️緊急逮捕                       (1)憲法は文面上「現行」だけを令状主義の例外としている(憲法33条)。
これに対して刑訴法は、通常逮捕と現行犯逮捕以外に,緊急逮捕の制度を設け
ている(法210条)。
要件は、①法定刑の比較的重い罪について(死別又は無期若しくは長期3年以上の拘禁用に当たる罪)。②その犯罪の嫌疑の程度が「罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で」。③急速を要し、あらかじめ裁判官の速捕状を求めることができないときである。この場合、捜査機関は被疑者に「その理由を告げて」(前記①②③をいう。②のみではない) 逮捕することができる(法
210条1項前段)。逮捕後、直ちに裁判官の逮捕状を請求する手続をしなければならない(迅速な状請求が要請されるので、通常逮捕のような請求権者の制限はない。請求を受けた裁判官の事後審査の結果,逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない(法210条1項後段)。
(2)判例は、特に理由を説示せず事前の令状審査がない緊急逮捕制度を合憲とする(最大判昭和30・12・14集9巻13号 2760頁)。令状主義の原則形態が、個別事案における強制処分の発動に際しあらかじめ裁判官がその正当な理由を審査することからすれば、現行法の設計導入した緊急逮捕制度は変則である。
しかし勾留請求段階まで裁判官の関与が予定されない現行犯逮捕とは異なり、事後ではあれ「直ちに」逮捕状請求がなされることで裁判官による逮捕の正当
れよう。
な理由の審査が行われるから、恋法にいう状による逮捕の一種と位置付けら身体拘束処分の設計として、仮に現行犯逮捕と事前の状による通常連の制度しかなければ、高度の嫌疑は認められるものの現行犯には該当しない重大事の被疑者が面前に居るが、裁判官の令状発付を得る暇がなく、令状を得ても被疑者の逃走等により逮捕が著しく困難になるのが見込まれる緊急の局面においては、おそらく「現行犯」の法解釈・運用が著しく弛緩して勾留請求まで裁判官の審査機会がない現行犯逮捕が実行されるか、任意同行等の名目による実質上の身体拘束が誘発されるであろう。いずれも不健全な違法手続である。
法はむしろ正面からこのような法的必要に対し、身体拘束の正当理由に関するできる限り迅速な裁判官の事後審査を介在させて、逮捕の必要性・緊急性との合理的調整を図ったものと理解できよう。
(3) 以上のような緊急逮捕制度の趣旨と憲法の状審査の要請から、逮捕後の状請求はできる限り迅速に行われなければならない。裁判官による迅速な事後審査は、緊急逮捕制度の合憲性を支える基本要素である。請求を受けた裁
判官は、①逮捕実行の時点での緊急逮捕要件の充足、②状請求時に被疑者の身体拘束を継続する理由と必要の両者を審査する。
①について、犯罪の嫌疑は通常逮捕の要件である「相当な理由」(法 199条)
よりも高度な「十分な理由」(法 210条)が要求されている点に注意を要する。
また,逮捕実行時において明らかに逃亡や罪証隠滅のおそれがなかったと認められるときは、逮捕の必要性がなかったとして請求を却下すべきである。①の審査に用いることができるのは、逮捕実行の時点における疎明資料に限られる。
逮捕後に得られた被疑者の弁解や供述等の証拠を用いることができないのは当然である。
①で緊急逮捕行為が適法であったと認められるときは、裁判官は次いで②の審査を行い,拘束の理由と必要を認めるときは逮捕状を発する。②の審査では逮捕後令状請求時点までに収集された証拠も疎明資料になる。もっとも、「直ちに」行うべき状請求を遅延させるような逮捕後の捜査は相当でない。
*緊急逮捕後、逮捕状請求前に,捜査機関が留置の必要がないと思料して被疑者を釈放した場合であっても、既に実行された身体拘束処分の適法性を裁判官の審査に付すという状主義の趣意から、逮捕状請求を行うべきである(犯罪捜査規範120条3項参照)。裁判官は、①の緊急逮捕時の要件充足の有無を審査判断した上で令状請求を却下すべきである。