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弁護士の知識

被疑者の身体拘束|身体拘束処分に対する法的規律の趣旨・目的

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

1) 人の身体・行動の自由は、基本的人権の中でも最も根源的な自由である。
しかし、狙罪捜査においては、身体・行動の自由を強制的に奪してでも被疑者の逃亡や罪証隠滅行為を防止しつつ捜査を続行することが必要な場合がある。
そこで、憲法は、司法官憲が被疑者の身体を拘束する正当な理由を認めた「命状」に基づいて,このような処分を行うことを原則としている(「逮捕」についての「主義」。憲法33条)。また,憲法は、身体拘束を継続する「抑留」「拘禁」について、「理由」の告知や「正当な理由」を要請している(憲法 34条)。
これを受けて刑事訴訟法は、被疑者の「逮捕」(法199条~206条・209 条~217条)と「勾留」(法207条~208条の2)の制度を設け、裁判官による「正当な理由」の審査という統制・制興を及ぼすことにより、身体拘束という極めて動な基本権侵害処分を正当かつ合理的に必要な限度に留め、その適正を図ろうとしている。
「連捕」とは、被疑者の身体の自由を奪し、引き続き短時間拘束の状態を続ける強制処分である。恋法33系にいう連捕は、拘束の着手段階であり、拘東状態の継続は、憲法34条にいう抑留に当たる。法は、逮捕を原則として裁判官の許可を受けて捜査機関が実行するものとし、憲法33条の令状主義の要請に対応している。
「勾留」とは、被疑者または被告人の身体を拘束する裁判及びその数行をいう。法3条にいう禁に当たる。本章ではこのうち被疑者の勾留を扱う。
逮捕された被疑者について、検察官の請求により、裁判官が行う強制処分である。裁判官が法定の要件を審査して発する勾留状という状に基づき身体拘束
処分が執行される。逮捕のように捜査機関の処分を裁判官が許可するのではな
い。
(2)以上のような裁判官の関与は、重大な基本権侵害である身体拘束処分の「理由(狭義)」すなわち犯罪の嫌疑の存在と、身体拘束の「必要性」を,捜査から中立の立場にある司法権が審査することにより、「正当な理由」のない身体拘束が行われるのを防止する趣旨である。裁判官はこのような審査を通じて、一面で捜査機関の行動を抑制し、他面でこれを正当化する。また、身体拘束処分は性質上一定時間継続するものであるが、いかに捜査のためとはいえ、人の身体・行動の自由を奪した状態を無制限に続けることは、それ自体が適正な手続(憲法31条)とは言い難い。そこで法は、逮捕と勾留について、それぞれ時間・期間の制限に関する規定を設け,被疑者の身体拘束により逃亡と罪証隠滅を防止しつつ捜査を続行できる時間・期間を規律限定することによって、基本権侵害と捜査目的達成の必要との合理的調整を図っている。
このような身体拘束処分に係る法制度の趣旨・目的に鑑み、その核心たる裁判官による「正当な理由」の審査及び身体拘束の時間・期間に関する法的規律の趣意に反する違法状態が生じるのをできる限り防止することが、身体拘束処分に関する法解釈・適用の基本的な要請である。