探偵の知識

親族からの借入

2025年12月12日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:私(70歳)は、長女(40歳)から1,000万円を借り入れ、孫2人に 対しそれぞれ500万円ずつ教育資金として贈与をしようと考えています。 長女から借り入れた1,000万円は相続財産へ債務計上できますか。

A:ご質問は、ご長女様から借り入れた1,000万円の、相続税の計算におけ る債務控除の可否についてのものと思われます。一般的には、被相続人の債務 は相続税の計算において債務控除の対象となりますが、あなたとご長女様の間 での資金の移動は通謀によるもので金銭消費貸借契約が成立したとは認められ ない場合には、ご質問の1,000万円について債務控除を行うことは認められな いものと考えられます。

解説

(1) 相続税の債務控除(無制限納税義務者の場合)

次の要件を満たす場合には、相続税の計算において被相続人の債務を控除し ます(相法13.14) (納税義務者については前記5(1)参照)。

① 相続人又は包括受遺者として財産を取得していること。相続人,包括受遺 者以外の人が特定遺贈により財産を取得している場合には、債務控除の適用 を受けることができません。

② 相続開始時に現に存在する被相続人の債務であり、確実であると認められ ること。なお、確実であると認められる債務について、必ずしも書面の証拠 は必要とされません (相基通14-1)。

しかし、親族間の借入については、次のような事実の有無を認定し、消費貸 借契約(民法587) が成立していたか否かを検証します。

・借入の経緯
・親族が貸し付けた金銭の原資
・契約書の有無
・利息の支払や元金の返済の事実の有無

(2) 被相続人の債務に該当するか否か

相談者が長女から借りた1,000万円が債務に該当するか否かについては、金 銭消費貸借契約の成立可否を考えます。通常、長女から長女の子へ贈与を行う ことが自然であるところ、あえて長女から相談者に金銭を貸し付けて債務を作 出する一連の行為は、税務当局から相談者と長女が通じて行った虚偽の意思表 示(民法94)に該当するとして、金銭消費貸借契約は無効であると認定される 可能性があります。

この場合、長女からの借入金1,000万円の債務控除は認められないと判断さ れることに加え、仮装行為として重加算税の課税対象とされるおそれがありま す。税務当局に対し、金銭消費貸借契約を交わしたことについて合理的な説明 を行うことができないならば、このような契約は行わないことが賢明です。