生前贈与
2025年12月12日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q:私は2年前に父から預金の生前贈与を受けていたところ、このほど父 が亡くなりました。生前贈与は、相続税の計算に加算されますか。
A: 相続又は遺贈 (相続人からのみの死因贈与を含みます。以下、本項におい て同じ。)により財産を取得した者は、相続開始前7年以内に被相続人から 贈 与税の課税贈与により取得した財産がある場合、その財産は相続税の計算に加算さ れます。また、生前贈与について相続時精算課税制度を選択していた場合にも、 一定額は相続税の計算に加算されます。 なお、相続税の計算に加算された贈与財産について 贈与時に贈与税が課さ れている場合には、二重課税排除の観点から、相続税の計算においてその贈与 税額を控除(還付)することとされています。
解説:被相続人から受けた贈与財産のうち一定のものについては、「暦年課税贈与 に係る生前贈与加算」(相法19)又は「相続時精算課税制度」(相法21の9~21 の18) のいずれかの制度により、相続税の計算に加算されます。
民法903条の特別受益(後記65.2参照)と両制度を比較した場合、次のよう になります。
以下、それぞれの内容について解説します。
(1) 暦年課税贈与に係る生前贈与加算
① 制度の概要
相続又は遺贈により財産を取得した人は、相続開始前7年以内(令和5年12 月31日までの贈与は3年以内)に被相続人から暦年課税贈与により取得した財 産がある場合、その財産は相続税の計算に加算されます (相法19)。また、相 続税の計算に加算された贈与財産について贈与時に贈与税が課されて いる場合には、二重課税排除の観点から、相続税の計算においてその贈与 税額を控除することとされています。
② 加算対象者 民法では、特別受益の対象者は相続人に限られます(民法903)。 これに対し、暦年課税贈与に係る生前贈与加算の対象者は、相続又は遺贈により財産を取得した人であり、相続人に限定されません。なお、相続又は遺贈 により財産を取得しなかった場合でも、次の方については相続又は遺贈によ り財産を取得した人とみなされ、加算対象者とされます。
・被相続人が保険料を負担した生命保険金等・死亡退職金のみなし相続財産・ みなし遺贈財産を取得した人 (相法3他)
また、暦年課税贈与により生前贈与を受けた孫 (直系卑属)が代襲相続人となっ た場合、加算対象者とされます。
③ 加算対象となる贈与
特別受益の計算では、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与が対象とな ります (民法903①)。これに対し、生前贈与加算ではその贈与の趣旨にかかわ らず、相続開始前7年以内に行われた贈与について、その贈与時の価額を相続 税の課税価格に加算します。
従来の加算期間は相続開始前3年間とされていましたが、令和5年度税制改 正によりこの加算期間が7年へと延長されました。なお、実際の加算期間は今 和5年度税制改正に係る経過措置により、次のとおりとされています (令5改 正法附則19②)。
相続開始日 加算対象となる贈与
令和6年1月1日〜令和8年12月31日 相続開始前3年以内の贈与
令和9年1月1日〜令和12年12月31日 令和6年1月1日〜相続開始日までの贈与
令和13年1月1日以後 相続開始前7年以内の贈与
④相続税の計算に加算される贈与財産の価額
イ 加算される贈与財産
相続税の計算へ加算対象となる贈与財産は、贈与税の課税対象となる財産 に限られます。次ののような贈与税の課税が行われない財産は、その課税が 行われないことの趣旨に鑑み、相続税の計算についても加算対象外(すなわ ち、相 続税の課税も行われな い)となります。
・贈与税の非課税財産(例:扶養義務者間での生活費・教育費に充てるためにされ た贈与財産等; 相法21の3、21の4)
・贈与税の制限納税義務者が取得した国外所在財産(例:贈与者・受贈者と もに 一度も日本に住んだことのない人が贈与により取得した国外所在不動産など; 相法1の4、2の2、10)
・「おしどり贈与」により贈与された居住用不動産又は居住用不動産購入資金 (相法19①2、21の6①)
・直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措法70の 2)
・直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措法70の2 の2)
・直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措 法70の2の3)
(※1) 教育資金の贈与を受けた年や相続税の課税価格の合計額によっては、非課税拠出額 から教育資金支払額を控除した残額のうち一定の計算をした金額がある場合には、そ の金額を相続税の計算に加算します。
(※2) 非課税拠出額から結婚・子育て資金支払額を控除した残額のうち一定の計算をした 金額がある場合には、その金額を相続税の計算に加算します。
ロ 加算される贈与財産の価額
相続税の計算に加算する贈与財産の価額は、相続開始時の時価では なく、相続開始前4年〜7年前に 行われた 贈与については、その贈与時の価額に相続税の課税価格に 加算されます。 暦年課税贈与について は、その総額から100万円を控除した残額が相続税の課税価格に 加算されます。
⑤ 持ち戻し免除の可否 生前贈与加算については、民法903条3項に定める持ち戻し免除に類似する 規定はなく、加算対象となる贈与はすべて相続税の計算に加算されます。
⑥ おしどり贈与の有無 配偶者の生活保障の観点から、相続税法においても民法903条4項に重畳し た制度として、贈与税の配偶者控除が あります。贈与税の配偶者控除は、婚姻 期間20年以上の配偶者間での居住用不動産そのもの又は居住用不動産購入資金 の贈与があった場合に、贈与税の計算において最大2,000万円を控除する制度 です(相法21の6)。
なお、おしどり贈与の適用を受けた贈与財産については、加算されません (相法19①3)。これは、贈与税の計算上において最大2,000万円を控除したこ と もあ り、同制度の適用を受けた財産が相続税の計算に加算され、相続税の課税 が行われてしまっては、控除の効果が減殺されてしまうためです。
⑦ 財産が滅失した場合の取扱い 民法においては、相続開始時を基準時点に特別受益の計算を行い (民法903 ①)、受贈者の行為による贈与財産の滅失・価額の増減があった場合のみ、相 続開始時において原状のままであるものとみなして、計算することとされてい ます(民法904)。
一方、生前贈与加算においてはこのような取扱いはなく、相続開始時の財産 の状況にかかわらず、贈与時の相続税評価額を相続税の計算に加算します。す なわち、贈与後における財産の価値の上昇や下落、災害による財産の滅失等は 一切考慮されずに相続税の計算に加算されることとなります。
⑧ その他 被相続人からの贈与財産のうち相続税の計算に加算された贈与財産に 対 す る贈与税額は、その贈与を受けた相続人・受遺者の相続税額から控除します。 なお、控除しきれない贈与税額がある場合、その控除しきれない金額は切捨て となり、還付はされません。この点は、相続時精算課税制度の贈与税額控除と 異なり、注意を要します。
(2) 相続時精算課税制度
① 制度の概要
イ 適用を受けるための要件
対象者 適用要件
贈与者 贈与年に1月1日において、原則として60歳以上であること。なお、この制度の適用を受ける贈与者を「特定贈与者」といいます。
受贈者 贈与年に1月1日時点において18歳以上かつ贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であること。
ロ 贈与税の計算
令和6年以後の相続時精算課税贈与については、以下の算式により計算しま す (後記61参照)。
(贈与により取得した財産の価額 (*1) - 暦年贈与の基礎控除額110万円(*2)) - 特別控除額2,500万円(*3)) × 20%
二 相続税の計算 (相続時精算課税制度の贈与税額控除)
毎年の相続時精算課税贈与の基礎控除額110万円を超える金額を、相続財産 の価額に加算します。また、加算された財産の価額に係る贈与税がある場合に は、財産の価額を加算された人の相続税額からその贈与税額を控除します。相 続税額から控除しきれない金額については還付されます。
② 相続財産への加算対象者
特定贈与者からの贈与について、相続時精算課税制度の適用を受けた受贈者 が、加算対象者となります。暦年課税贈与に係る生前贈与加算と異なり、相 続・遺贈により財産を取得しているかは問わず加算対象者となります(相法21 の15.21の16)。
なお、相続時精算課税制度の適用を受ける年分の前に、その特定贈与者から 暦年課税贈与により取得した財産があるときは、相続税法19条1項(相続開始 前7年以内に贈与があった場合の相続税額)の規定の適用があり、その財産の 価額は相続税の課税価格に加算することとなります。
③ 相続財産への加算対象となる贈与
相続時精算課税制度の適用を受けた時以後の、特定贈与者からの贈与財産の うち基礎控除額(原則110万円)を超える額が相続財産の加算対象となります。 生前贈与加算と同様、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与といった贈与 の趣旨は問わず加算対象となります。
④ 相続税の計算に加算される贈与財産の価額
生前贈与加算と同様、贈与税が課税されない財産(前記(1)④参照)は、相続 税の計算に加算されません。また、加算される金額は以下のとおりとなります。
贈与の時期 相続税の計算に加算される金額
令和6年1月1日以後の贈与 贈与時の相続税評価額から、相続時精算課税贈与の 「基礎控除額(原則110万円)を控除した残額を加算
令和5年12月31日までの贈与 贈与時の相続税評価額を加算
⑤ 持ち戻し免除の可否
生前贈与加算と同様、被相続人からの贈与について持ち戻し免除の意思表示をすることはできません。相続時精算課税制度を選択した時以後のすべての 贈 与財産の価額(令和6年以後の贈与については基礎控除額110万円を控除した 残額)を、相続税の計算に加算します。
⑥ おしどり贈与の有無
相続時精算課税制度において、おしどり贈与の制度はありません。相続時精 算課税制度は、特定贈与者の直系卑属のみが制度の対象となっているためです。
⑦ 財産が滅失した場合の取扱い
相続時精算課税贈与により取得した財産が滅失したとしても、原則として、 その滅失を考慮せずに贈与時の相続税評価額を相続税の計算に加算します。 ただし、相続時精算課税贈与により取得した土地又は建物が令和6年1月1 日以後に災害により一定の被害を受けた場合には、その被害額を控除した残額 を相続税の計算に加算します(後記61(3)参照)。
⑧ その他
イ 制度選択の撤回
相続時精算課税制度は、一度選択すると撤回をすることはできません。この ため、同制度の選択に当たっては、贈与者の年齢・所有資産の内容及び金額・ 関係者の意向等を踏まえ、慎重に検討を行う必要があります。
ロ 相続時精算課税贈与と暦年課税贈与の基礎控除の重複適用
相続時精算課税制度は、贈与者ごとに選択する制度となります。このため、 父からの贈与については相続時精算課税贈与、母からの贈与については暦年課 税贈与といった形での贈与も可能です。また、このように制度を選択すると、 1年当たり、相続時精算課税贈与の基礎控除額110万円+暦年課税贈与の基礎 控除額110万円の合計220万円の控除を受けることが可能です。
ハ 贈与税額控除(相続時精算課税制度)
相続時精算課税制度においても、生前贈与加算と同様に、相続税の計算にお いて過去に支払った贈与税を控除する制度(贈与税額控除)があります。
控除の対象となる金額は、特定贈与者からの贈与財産に対応する贈与税額で す。なお、控除しきれない贈与税額がある場合、その控除しきれない金額は 還 付されます。この点は、暦年課税贈与の贈与税額控除と異なります。
A: 相続又は遺贈 (相続人からのみの死因贈与を含みます。以下、本項におい て同じ。)により財産を取得した者は、相続開始前7年以内に被相続人から 贈 与税の課税贈与により取得した財産がある場合、その財産は相続税の計算に加算さ れます。また、生前贈与について相続時精算課税制度を選択していた場合にも、 一定額は相続税の計算に加算されます。 なお、相続税の計算に加算された贈与財産について 贈与時に贈与税が課さ れている場合には、二重課税排除の観点から、相続税の計算においてその贈与 税額を控除(還付)することとされています。
解説:被相続人から受けた贈与財産のうち一定のものについては、「暦年課税贈与 に係る生前贈与加算」(相法19)又は「相続時精算課税制度」(相法21の9~21 の18) のいずれかの制度により、相続税の計算に加算されます。
民法903条の特別受益(後記65.2参照)と両制度を比較した場合、次のよう になります。
以下、それぞれの内容について解説します。
(1) 暦年課税贈与に係る生前贈与加算
① 制度の概要
相続又は遺贈により財産を取得した人は、相続開始前7年以内(令和5年12 月31日までの贈与は3年以内)に被相続人から暦年課税贈与により取得した財 産がある場合、その財産は相続税の計算に加算されます (相法19)。また、相 続税の計算に加算された贈与財産について贈与時に贈与税が課されて いる場合には、二重課税排除の観点から、相続税の計算においてその贈与 税額を控除することとされています。
② 加算対象者 民法では、特別受益の対象者は相続人に限られます(民法903)。 これに対し、暦年課税贈与に係る生前贈与加算の対象者は、相続又は遺贈により財産を取得した人であり、相続人に限定されません。なお、相続又は遺贈 により財産を取得しなかった場合でも、次の方については相続又は遺贈によ り財産を取得した人とみなされ、加算対象者とされます。
・被相続人が保険料を負担した生命保険金等・死亡退職金のみなし相続財産・ みなし遺贈財産を取得した人 (相法3他)
また、暦年課税贈与により生前贈与を受けた孫 (直系卑属)が代襲相続人となっ た場合、加算対象者とされます。
③ 加算対象となる贈与
特別受益の計算では、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与が対象とな ります (民法903①)。これに対し、生前贈与加算ではその贈与の趣旨にかかわ らず、相続開始前7年以内に行われた贈与について、その贈与時の価額を相続 税の課税価格に加算します。
従来の加算期間は相続開始前3年間とされていましたが、令和5年度税制改 正によりこの加算期間が7年へと延長されました。なお、実際の加算期間は今 和5年度税制改正に係る経過措置により、次のとおりとされています (令5改 正法附則19②)。
相続開始日 加算対象となる贈与
令和6年1月1日〜令和8年12月31日 相続開始前3年以内の贈与
令和9年1月1日〜令和12年12月31日 令和6年1月1日〜相続開始日までの贈与
令和13年1月1日以後 相続開始前7年以内の贈与
④相続税の計算に加算される贈与財産の価額
イ 加算される贈与財産
相続税の計算へ加算対象となる贈与財産は、贈与税の課税対象となる財産 に限られます。次ののような贈与税の課税が行われない財産は、その課税が 行われないことの趣旨に鑑み、相続税の計算についても加算対象外(すなわ ち、相 続税の課税も行われな い)となります。
・贈与税の非課税財産(例:扶養義務者間での生活費・教育費に充てるためにされ た贈与財産等; 相法21の3、21の4)
・贈与税の制限納税義務者が取得した国外所在財産(例:贈与者・受贈者と もに 一度も日本に住んだことのない人が贈与により取得した国外所在不動産など; 相法1の4、2の2、10)
・「おしどり贈与」により贈与された居住用不動産又は居住用不動産購入資金 (相法19①2、21の6①)
・直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措法70の 2)
・直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措法70の2 の2)
・直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措 法70の2の3)
(※1) 教育資金の贈与を受けた年や相続税の課税価格の合計額によっては、非課税拠出額 から教育資金支払額を控除した残額のうち一定の計算をした金額がある場合には、そ の金額を相続税の計算に加算します。
(※2) 非課税拠出額から結婚・子育て資金支払額を控除した残額のうち一定の計算をした 金額がある場合には、その金額を相続税の計算に加算します。
ロ 加算される贈与財産の価額
相続税の計算に加算する贈与財産の価額は、相続開始時の時価では なく、相続開始前4年〜7年前に 行われた 贈与については、その贈与時の価額に相続税の課税価格に 加算されます。 暦年課税贈与について は、その総額から100万円を控除した残額が相続税の課税価格に 加算されます。
⑤ 持ち戻し免除の可否 生前贈与加算については、民法903条3項に定める持ち戻し免除に類似する 規定はなく、加算対象となる贈与はすべて相続税の計算に加算されます。
⑥ おしどり贈与の有無 配偶者の生活保障の観点から、相続税法においても民法903条4項に重畳し た制度として、贈与税の配偶者控除が あります。贈与税の配偶者控除は、婚姻 期間20年以上の配偶者間での居住用不動産そのもの又は居住用不動産購入資金 の贈与があった場合に、贈与税の計算において最大2,000万円を控除する制度 です(相法21の6)。
なお、おしどり贈与の適用を受けた贈与財産については、加算されません (相法19①3)。これは、贈与税の計算上において最大2,000万円を控除したこ と もあ り、同制度の適用を受けた財産が相続税の計算に加算され、相続税の課税 が行われてしまっては、控除の効果が減殺されてしまうためです。
⑦ 財産が滅失した場合の取扱い 民法においては、相続開始時を基準時点に特別受益の計算を行い (民法903 ①)、受贈者の行為による贈与財産の滅失・価額の増減があった場合のみ、相 続開始時において原状のままであるものとみなして、計算することとされてい ます(民法904)。
一方、生前贈与加算においてはこのような取扱いはなく、相続開始時の財産 の状況にかかわらず、贈与時の相続税評価額を相続税の計算に加算します。す なわち、贈与後における財産の価値の上昇や下落、災害による財産の滅失等は 一切考慮されずに相続税の計算に加算されることとなります。
⑧ その他 被相続人からの贈与財産のうち相続税の計算に加算された贈与財産に 対 す る贈与税額は、その贈与を受けた相続人・受遺者の相続税額から控除します。 なお、控除しきれない贈与税額がある場合、その控除しきれない金額は切捨て となり、還付はされません。この点は、相続時精算課税制度の贈与税額控除と 異なり、注意を要します。
(2) 相続時精算課税制度
① 制度の概要
イ 適用を受けるための要件
対象者 適用要件
贈与者 贈与年に1月1日において、原則として60歳以上であること。なお、この制度の適用を受ける贈与者を「特定贈与者」といいます。
受贈者 贈与年に1月1日時点において18歳以上かつ贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であること。
ロ 贈与税の計算
令和6年以後の相続時精算課税贈与については、以下の算式により計算しま す (後記61参照)。
(贈与により取得した財産の価額 (*1) - 暦年贈与の基礎控除額110万円(*2)) - 特別控除額2,500万円(*3)) × 20%
二 相続税の計算 (相続時精算課税制度の贈与税額控除)
毎年の相続時精算課税贈与の基礎控除額110万円を超える金額を、相続財産 の価額に加算します。また、加算された財産の価額に係る贈与税がある場合に は、財産の価額を加算された人の相続税額からその贈与税額を控除します。相 続税額から控除しきれない金額については還付されます。
② 相続財産への加算対象者
特定贈与者からの贈与について、相続時精算課税制度の適用を受けた受贈者 が、加算対象者となります。暦年課税贈与に係る生前贈与加算と異なり、相 続・遺贈により財産を取得しているかは問わず加算対象者となります(相法21 の15.21の16)。
なお、相続時精算課税制度の適用を受ける年分の前に、その特定贈与者から 暦年課税贈与により取得した財産があるときは、相続税法19条1項(相続開始 前7年以内に贈与があった場合の相続税額)の規定の適用があり、その財産の 価額は相続税の課税価格に加算することとなります。
③ 相続財産への加算対象となる贈与
相続時精算課税制度の適用を受けた時以後の、特定贈与者からの贈与財産の うち基礎控除額(原則110万円)を超える額が相続財産の加算対象となります。 生前贈与加算と同様、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与といった贈与 の趣旨は問わず加算対象となります。
④ 相続税の計算に加算される贈与財産の価額
生前贈与加算と同様、贈与税が課税されない財産(前記(1)④参照)は、相続 税の計算に加算されません。また、加算される金額は以下のとおりとなります。
贈与の時期 相続税の計算に加算される金額
令和6年1月1日以後の贈与 贈与時の相続税評価額から、相続時精算課税贈与の 「基礎控除額(原則110万円)を控除した残額を加算
令和5年12月31日までの贈与 贈与時の相続税評価額を加算
⑤ 持ち戻し免除の可否
生前贈与加算と同様、被相続人からの贈与について持ち戻し免除の意思表示をすることはできません。相続時精算課税制度を選択した時以後のすべての 贈 与財産の価額(令和6年以後の贈与については基礎控除額110万円を控除した 残額)を、相続税の計算に加算します。
⑥ おしどり贈与の有無
相続時精算課税制度において、おしどり贈与の制度はありません。相続時精 算課税制度は、特定贈与者の直系卑属のみが制度の対象となっているためです。
⑦ 財産が滅失した場合の取扱い
相続時精算課税贈与により取得した財産が滅失したとしても、原則として、 その滅失を考慮せずに贈与時の相続税評価額を相続税の計算に加算します。 ただし、相続時精算課税贈与により取得した土地又は建物が令和6年1月1 日以後に災害により一定の被害を受けた場合には、その被害額を控除した残額 を相続税の計算に加算します(後記61(3)参照)。
⑧ その他
イ 制度選択の撤回
相続時精算課税制度は、一度選択すると撤回をすることはできません。この ため、同制度の選択に当たっては、贈与者の年齢・所有資産の内容及び金額・ 関係者の意向等を踏まえ、慎重に検討を行う必要があります。
ロ 相続時精算課税贈与と暦年課税贈与の基礎控除の重複適用
相続時精算課税制度は、贈与者ごとに選択する制度となります。このため、 父からの贈与については相続時精算課税贈与、母からの贈与については暦年課 税贈与といった形での贈与も可能です。また、このように制度を選択すると、 1年当たり、相続時精算課税贈与の基礎控除額110万円+暦年課税贈与の基礎 控除額110万円の合計220万円の控除を受けることが可能です。
ハ 贈与税額控除(相続時精算課税制度)
相続時精算課税制度においても、生前贈与加算と同様に、相続税の計算にお いて過去に支払った贈与税を控除する制度(贈与税額控除)があります。
控除の対象となる金額は、特定贈与者からの贈与財産に対応する贈与税額で す。なお、控除しきれない贈与税額がある場合、その控除しきれない金額は 還 付されます。この点は、暦年課税贈与の贈与税額控除と異なります。