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探偵の知識

生命保険金等・死亡退職金の非課税

2025年12月12日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:前問において、相続財産とみなされる生命保険金等・死亡退職金に ついては相続税の非課税制度があると聞きました。
A: 相続税が課税される生命保険金等・死亡退職金のうち、相続人が取得し たものについては、それぞれ相続税の非課税制度が設けられています。非課税 となる金額は「500万円×相続税法上の法定相続人の数」であり、これらの生 命保険金等や死亡退職金を取得した相続人が複数人いる場合には、各相続人が 取得した生命保険金等,死亡退職金の比率により非課税金額を配分します。
なお、生命保険金等・死亡退職金については、お母様が取得者となるケース もありますが、相続税の節税という観点からは、あえてお母様に取得させない ことも考えられます。
解説
(1) 制度の趣旨等
相続税法では、その財産の性質に鑑み、相続税を課税することが適当でない と認められるもの(例: お墓) については、相続税を非課税とする制度が設け られています。生命保険金等・死亡退職金については、相続人のその後の生活 の安定保障を考慮し、それぞれ非課税の制度が設けられています。 非課税となる金額は、「500万円×相続税法上の法定相続人の数」と定められ その受取人が複数いる場合には、各相続人が取得した生命保険金等 死亡退職金の金額の比率により非課税となる金額を配分します。
(2) 生命保険金等の相続税の非課税
① 非課税の対象となる生命保険金等 みなし相続財産として相続税の課税対象とされた生命保険金等(前記参 照)のうち、相続人が取得した生命保険金等は一定額まで非課税の対象となり ます。なお、相続人以外の人(例: 被相続人の孫、子供の配偶者等)が取得し た生命保険金等については非課税の対象となりません。
② 非課税となる金額
次の算式により計算した金額が、非課税となります。
500万円×相続税法上の法定相続人の数=非課税となる金額の合計額

非課税金額の合計額×その相続人の取得した保険金額/相続人全員の受取保険金額の合計額=各相続人の非課税金額
この場合の「相続税法上の法定相続人の数」については、以下のような注意 点があります(相法15②③)。
イ 相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合におけ る相続人の数とする(図1参照)。
ロ 被相続人に養子がいる場合、その養子の数にかかわらず、被相続人に実子 がいる場合には1人まで、被相続人に実子がいない場合は2人までとする (図2参照)。
ただし、特別養子縁組により養子となった者など一定の場合 (前記4 (3)参 照)には、非課税金額の計算上実子として扱われ、養子の数の算入制限を受け ません。
(3) 死亡退職金の相続税の非課税
① 非課税の対象となる死亡退職金 みなし相続財産として相続税の課税対象とされた死亡退職金(前記8参照) のうち、相続人が取得した死亡退職金は一定額まで非課税の対象となります。 なお、相続人以外の人(例: 被相続人の孫、子供の配偶者等)が取得した死亡 退職金については非課税の対象となりません。
② 非課税となる金額 次の算式により計算した金額が、非課税となります。
500万円×相続税法上の法定相続人の数=非課税となる金額の合計額
非課税金額の合計額× その相続人の取得した退職金額/相続人全員の受取退職金額の合計額=各相続人の非課税金額
※相続税法上の法定相続人の数については、上記 (2)②を参照。
なお、死亡退職金の相続税の非課税は、生命保険金等の相続税の非課税と別 枠として設けられています。
(4) 死亡退職金又は生命保険金等の受取人を誰にするのか? 死亡退職金の受取人については、会社の退職給与の支給規程に定められてい るケースもあると思料します。 相続税が発生すると見込まれる事案の場合には、死亡退職金の取得者を配偶 者以外とすることにより、相続税の節税を図ることができるケースがあります。
配偶者は、「配偶者に対する相続税額の軽減」(後記20参照)により、配偶者 が財産を取得しても相続税が課されない、又は相続税が課されるとしても大き く軽減されます。相続税の計算上、既に優遇されている配偶者に死亡退職金を 取得させ、配偶者が死亡退職金の非課税の適用を受けても、相続税の節税とい う観点からはその効果は限定的になります。 このような場合、例えば子供など配偶者以外の人に死亡退職金を取得させ、 子供に非課税制度を適用させることにより相続税の節税を図ることが可能とな ります。この場合、会社に対し退職給与の支給規程を確認するとともに、受給 者の変更が必要となる場合は、会社が支給決定を行う前に相続人全員の了解を 得て受給者の変更を会社に申し出る対応が必要と思料します。 同じ理由により、被相続人が保険料を負担する生命保険金等についても、生 前のうちに受取人を配偶者以外に変更しておくことにより同様の効果を得るこ とができます。
また、一次相続で配偶者が取得した生命保険金等や死亡退職金は、その配偶 者が死亡した際(二次相続)には配偶者の相続財産を構成し、二次相続の際の 相続税額が増加することも考えられます。子供が生命保険金等や死亡退職金を 取得すれば、二次相続の際の相続税額を減少させる効果が期待できます。さら には、子供が取得した生命保険金等や死亡退職金は、相続税の納税資金の原資 とすることもできます。これらの観点からも、生命保険金等・死亡退職金の受 取人を配偶者以外とすることが考えられます。