相続財産の範囲
2025年12月12日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q:父が亡くなりました。会社の役員であった父には、会社から死亡退 職金が支給されると聞きました。また、父が生前に契約した生命保険契約 の保険金は私が受取人になっています。相続人は母と私(長男)の2人で す。これらは相続税の課税対象となるのでしょうか。
A:民法上は相続又は遺贈により取得した財産でなくても、相続税法上は実 質的に相続又は遺贈により財産を取得したのと同等の経済効果があるものにつ いて、その経済効果を相続又は遺贈によって取得したものとみなして、相続税 の課税対象とします。 あなたが受取人となっている死亡退職金及び生命保険金は「みなし相続財 産」とされ、相続税の課税対象となります。
解説 生命保険金等・死亡退職金は、民法上、相続財産や特別受益に該当せず、ま た遺留分算定の基礎となる財産も構成しません。したがって、遺産分割案策定 の際、生命保険金等・死亡退職金は原則としてその考慮の対象外となるケース が多いでしょう。
しかし、相続税法上、生命保険金等 死亡退職金はみなし相続財産・。 遺贈財産として相続税の課税対象となります。また、遺産分割案策定に際しこ れらの財産を含めた相続税の負担を加味した遺産分割案作成が求められるケー スもあります。そのため、相続税が発生することが見込まれる事案では、生命 保険金等・死亡退職金の税務上の取扱いを把握しておく必要があります。
(1) 民法上の相続財産の範囲
相続人は、被相続人の一身専属権を除き、被相続人の財産に属した一切の権 利義務を承継し(民法896)、この例外として、祭祀に関する権利は祭祀主宰者 が承継します(民法897)。 なお、生命保険金等・死亡退職金の民法上の原則的な取扱いについては以下 のように解されており、原則として遺産分割には影響を与えません。
(2) 相続税法上の生命保険金等の取扱い
① 相続税法上の生命保険金等の取扱いの概要 相続税法上,被相続人が保険料を負担した生命保険金等については、みなし 相続財産・みなし遺贈財産として相続税が課されます (相法3①一)。なお、 相続人が取得した生命保険金等については、一定の非課税枠が設けられていま す(後記(2)参照)。
前述のとおり、生命保険金等は相続財産に該当しないものと解されています。 しかし、被相続人がその保険料を負担した生命保険金等については、実質的に 被相続人の財産と同視すべきものと考えられ、税負担公平の見地からみなし相 続財産・みなし遺贈財産として相続税が課されることとされています。
② 相続税の課税対象となる生命保険契約の範囲 相続税の課税対象となる生命保険契約は、保険業法2条3項に規定する生命 険契約のほか、簡易生命保険契約、農協などの協同組合との生命共済契約、死亡により保険金が支払われることとなる損害保険契約・傷 害共済契約などです(相法3①一、相令1の2)。 また、生命保険会社・損害保険会社については、日本の保険会社のみならず 外国保険業者も含まれます(保険業法2⑥、相令1の2①一 ②一)'。
③ 相続税の課税対象となる生命保険金等の範囲
イ 保険金の支払形態 一時金のみならず、年金の方法により支払を受ける保険金についても、みな し相続財産・みなし遺贈財産として相続税の課税対象となります(相基通3- 6)。
口 保険金とともに支払を受ける剰余金・割戻金・前納保険料 被相続人の死亡により支払を受ける剰余金・割戻金・前納保険料についても、 みなし相続財産・みなし遺贈財産として相続税の課税対象となります(相基通 3-8)。これらの剰余金等についても、その原資の拠出者は保険料負担者で ある被相続人であり、かつ、被相続人の死亡により支払われるものであること から生命保険金等と同質のものと考えられ、このような取扱いになっています。
④ 保険金受取人の意義 保険金受取人の判断は、その受取人が相続人であるか否かにより、生命保険 金等の非課税の適用有無に関連するため、重要といえます(後記(2)参照)。 ここでいう保険金受取人とは、保険契約に係る保険約款等の規定に基づいて保 険金を受け取る権利を有する、保険契約上の保険金受取人を指します(相基通 3-11)。通常は、保険証券等に記載されている保険金受取人により判断します。
また、保険契約上の保険金受取人とは異なる者が保険金を受け取った場合に は、保険契約上の保険金受取人から現実に保険金を取得した者への保険金相当 額の金銭の贈与と考え、贈与税の課税対象となります。
なお、保険金受取人の変更手続がされていなかったことにつきやむを得ない 事情があると認められる場合には、現実的に保険金を取得した者を保険金受取 人として課税することとされています(相基通3-12)が、やむを得ない事情 の判断基準は明示されておらず、その判断について、実務上は悩ましいものが あります。
(3) 相続税法上の死亡退職金の取扱い
① 相続税法上の死亡退職金の取扱いの概要 相続税法上,被相続人の死亡により相続人等に支給される退職手当金等につ いては、相続による退職金請求権の承継取得とみるか、遺族固有の財産とみる かについて見解が分かれてはいるものの、税負担公平の見地から、みなし相続 財産・みなし遺贈財産として相続税が課されます (相法31二)。なお、相続 人が取得した死亡退職金については、一定の非課税枠も設けられています(後 記(3)参照)。
② 相続税の課税対象となる死亡退職金の範囲 相続税の課税対象となる死亡退職金は、被相続人の死亡後3年以内に支給額 が確定したもので、実際の支給時期は問いません (相基通3-30)。なお、支 給額の確定時期について、会社の従業員の場合には就業規則等によりその金額 が決定されることが多いため疑義を生ずることは少ないと思われます。しかし、 法人の役員の死亡退職金については、一般的に株主総会又は株主総会で支給を 決議した後に取締役会でその支給額を確定することとなるため、実務上、その 決議日を確認することが必要とされます。
また、支給額が3年を超えて決定された死亡退職金については、その支払を 受ける遺族の一時所得として、所得税・住民税が課税されます(所基通34-2)。
ここでいう死亡退職金とは、その退職手当金・功労金等の名義を問わず、実 質的に被相続人の退職手当金等に該当するものをいいます(相基通3-18)。 したがって、被相続人が受けるべきであったもののその金額が被相続人の死亡 後に確定した賞与や、支給期の到来していない給与は退職手当金等には該当せ ず、本来の相続財産として相続税が課税されることとなります(相基通3-32, 3-33)。
③ 弔慰金 被相続人が死亡退職した場合、退職手当金等とともに弔慰金が支給される場 合があります。 弔慰金については、民法上、受給者固有の財産であり相続財産には該当しな いという見解がほぼ成立しています。一方で、退職手当金等と弔慰金の線引き は難しいものがあり、相続税の計算上は、形式的に以下の算式により計算した 金額については、弔慰金であったとしても死亡退職金として相続税の課税対象 に含めることとされています。
弔慰金のうち実質的に死 弔慰金の額
- 亡退職金と認められる額 (相基通3-18.3-19)
業務上の死亡
◆普通給与の月額×36か月
業務外の死亡
◆普通給与の月額×6か月
なお、労働者災害補償保険法,国家公務員災害補償法・国家公務員共済組合 法等に掲げる遺族給付や弔慰金等については、それぞれに掲げる法律により課 税しないこととされています。また、従業員の業務上の死亡に伴い労働協約・ 就業規則等に基づき支給される補償金・見舞金・弔慰金等の遺族給付について も同様の性質を有するものであることから、課税しないこととされています (相基通3-23)。
(4) その他のみなし相続財産・みなし遺贈財産
相続税法上、みなし相続財産・みなし遺贈財産とされる財産には、上記生命 保険金等及び死亡退職金のほか、主に次のものがあります。また、遺言による 債務免除や信託に関する権利も、みなし相続財産・みなし遺贈財産とされます。
① 生命保険契約に関する権利(相法3①三)
② 定期金に関する権利(相法3①四)
③ 保証期間付定期金に関する権利 (相法31五)
④ 契約に基づかない定期金に関する権利(相法3①六)
A:民法上は相続又は遺贈により取得した財産でなくても、相続税法上は実 質的に相続又は遺贈により財産を取得したのと同等の経済効果があるものにつ いて、その経済効果を相続又は遺贈によって取得したものとみなして、相続税 の課税対象とします。 あなたが受取人となっている死亡退職金及び生命保険金は「みなし相続財 産」とされ、相続税の課税対象となります。
解説 生命保険金等・死亡退職金は、民法上、相続財産や特別受益に該当せず、ま た遺留分算定の基礎となる財産も構成しません。したがって、遺産分割案策定 の際、生命保険金等・死亡退職金は原則としてその考慮の対象外となるケース が多いでしょう。
しかし、相続税法上、生命保険金等 死亡退職金はみなし相続財産・。 遺贈財産として相続税の課税対象となります。また、遺産分割案策定に際しこ れらの財産を含めた相続税の負担を加味した遺産分割案作成が求められるケー スもあります。そのため、相続税が発生することが見込まれる事案では、生命 保険金等・死亡退職金の税務上の取扱いを把握しておく必要があります。
(1) 民法上の相続財産の範囲
相続人は、被相続人の一身専属権を除き、被相続人の財産に属した一切の権 利義務を承継し(民法896)、この例外として、祭祀に関する権利は祭祀主宰者 が承継します(民法897)。 なお、生命保険金等・死亡退職金の民法上の原則的な取扱いについては以下 のように解されており、原則として遺産分割には影響を与えません。
(2) 相続税法上の生命保険金等の取扱い
① 相続税法上の生命保険金等の取扱いの概要 相続税法上,被相続人が保険料を負担した生命保険金等については、みなし 相続財産・みなし遺贈財産として相続税が課されます (相法3①一)。なお、 相続人が取得した生命保険金等については、一定の非課税枠が設けられていま す(後記(2)参照)。
前述のとおり、生命保険金等は相続財産に該当しないものと解されています。 しかし、被相続人がその保険料を負担した生命保険金等については、実質的に 被相続人の財産と同視すべきものと考えられ、税負担公平の見地からみなし相 続財産・みなし遺贈財産として相続税が課されることとされています。
② 相続税の課税対象となる生命保険契約の範囲 相続税の課税対象となる生命保険契約は、保険業法2条3項に規定する生命 険契約のほか、簡易生命保険契約、農協などの協同組合との生命共済契約、死亡により保険金が支払われることとなる損害保険契約・傷 害共済契約などです(相法3①一、相令1の2)。 また、生命保険会社・損害保険会社については、日本の保険会社のみならず 外国保険業者も含まれます(保険業法2⑥、相令1の2①一 ②一)'。
③ 相続税の課税対象となる生命保険金等の範囲
イ 保険金の支払形態 一時金のみならず、年金の方法により支払を受ける保険金についても、みな し相続財産・みなし遺贈財産として相続税の課税対象となります(相基通3- 6)。
口 保険金とともに支払を受ける剰余金・割戻金・前納保険料 被相続人の死亡により支払を受ける剰余金・割戻金・前納保険料についても、 みなし相続財産・みなし遺贈財産として相続税の課税対象となります(相基通 3-8)。これらの剰余金等についても、その原資の拠出者は保険料負担者で ある被相続人であり、かつ、被相続人の死亡により支払われるものであること から生命保険金等と同質のものと考えられ、このような取扱いになっています。
④ 保険金受取人の意義 保険金受取人の判断は、その受取人が相続人であるか否かにより、生命保険 金等の非課税の適用有無に関連するため、重要といえます(後記(2)参照)。 ここでいう保険金受取人とは、保険契約に係る保険約款等の規定に基づいて保 険金を受け取る権利を有する、保険契約上の保険金受取人を指します(相基通 3-11)。通常は、保険証券等に記載されている保険金受取人により判断します。
また、保険契約上の保険金受取人とは異なる者が保険金を受け取った場合に は、保険契約上の保険金受取人から現実に保険金を取得した者への保険金相当 額の金銭の贈与と考え、贈与税の課税対象となります。
なお、保険金受取人の変更手続がされていなかったことにつきやむを得ない 事情があると認められる場合には、現実的に保険金を取得した者を保険金受取 人として課税することとされています(相基通3-12)が、やむを得ない事情 の判断基準は明示されておらず、その判断について、実務上は悩ましいものが あります。
(3) 相続税法上の死亡退職金の取扱い
① 相続税法上の死亡退職金の取扱いの概要 相続税法上,被相続人の死亡により相続人等に支給される退職手当金等につ いては、相続による退職金請求権の承継取得とみるか、遺族固有の財産とみる かについて見解が分かれてはいるものの、税負担公平の見地から、みなし相続 財産・みなし遺贈財産として相続税が課されます (相法31二)。なお、相続 人が取得した死亡退職金については、一定の非課税枠も設けられています(後 記(3)参照)。
② 相続税の課税対象となる死亡退職金の範囲 相続税の課税対象となる死亡退職金は、被相続人の死亡後3年以内に支給額 が確定したもので、実際の支給時期は問いません (相基通3-30)。なお、支 給額の確定時期について、会社の従業員の場合には就業規則等によりその金額 が決定されることが多いため疑義を生ずることは少ないと思われます。しかし、 法人の役員の死亡退職金については、一般的に株主総会又は株主総会で支給を 決議した後に取締役会でその支給額を確定することとなるため、実務上、その 決議日を確認することが必要とされます。
また、支給額が3年を超えて決定された死亡退職金については、その支払を 受ける遺族の一時所得として、所得税・住民税が課税されます(所基通34-2)。
ここでいう死亡退職金とは、その退職手当金・功労金等の名義を問わず、実 質的に被相続人の退職手当金等に該当するものをいいます(相基通3-18)。 したがって、被相続人が受けるべきであったもののその金額が被相続人の死亡 後に確定した賞与や、支給期の到来していない給与は退職手当金等には該当せ ず、本来の相続財産として相続税が課税されることとなります(相基通3-32, 3-33)。
③ 弔慰金 被相続人が死亡退職した場合、退職手当金等とともに弔慰金が支給される場 合があります。 弔慰金については、民法上、受給者固有の財産であり相続財産には該当しな いという見解がほぼ成立しています。一方で、退職手当金等と弔慰金の線引き は難しいものがあり、相続税の計算上は、形式的に以下の算式により計算した 金額については、弔慰金であったとしても死亡退職金として相続税の課税対象 に含めることとされています。
弔慰金のうち実質的に死 弔慰金の額
- 亡退職金と認められる額 (相基通3-18.3-19)
業務上の死亡
◆普通給与の月額×36か月
業務外の死亡
◆普通給与の月額×6か月
なお、労働者災害補償保険法,国家公務員災害補償法・国家公務員共済組合 法等に掲げる遺族給付や弔慰金等については、それぞれに掲げる法律により課 税しないこととされています。また、従業員の業務上の死亡に伴い労働協約・ 就業規則等に基づき支給される補償金・見舞金・弔慰金等の遺族給付について も同様の性質を有するものであることから、課税しないこととされています (相基通3-23)。
(4) その他のみなし相続財産・みなし遺贈財産
相続税法上、みなし相続財産・みなし遺贈財産とされる財産には、上記生命 保険金等及び死亡退職金のほか、主に次のものがあります。また、遺言による 債務免除や信託に関する権利も、みなし相続財産・みなし遺贈財産とされます。
① 生命保険契約に関する権利(相法3①三)
② 定期金に関する権利(相法3①四)
③ 保証期間付定期金に関する権利 (相法31五)
④ 契約に基づかない定期金に関する権利(相法3①六)