換価分割
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q : 一人暮らしだった父が亡くなり居住用不動産を相続しました。相続 した居宅を売却し、その売却代金を兄弟2人で分割した上、納税資金に充 てたいと考えています。
A: 換価分割の対象となった不動産を売却した場合は、譲渡所得の課税の対 象となります。また、相続した不動産を売却するに当たり、「相続税の取得費 加算の特例」の適用を受ける場合、相続税の計算上,代償分割より換価分割の 方が有利となります。
解説
相続により取得した財産を譲渡し、相続人間でその代金を分配する場合、特 定の相続人がその財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続 人に対し債務を負担する「代償分割」のほか、共同相続人が相続により取得し た財産を売却して、その売却代金を分配する「換価分割」があります(家事事 件手続法194参照)。換価分割の対象となった不動産を売却した場合は、譲渡代 金の分配割合に応じて換価分割の対象となった不動産を取得したことになるた め、分配割合に応じて、譲渡所得の申告を要します。
(1) 相続登記と贈与税課税
相続した不動産を売却する都合上、まずはその不動産の名義を相続人名義に 登記しなければなりません。共同相続人のうち1人の名義に相続登記をした上 で換価し、その後、換価代金を分配することとした場合、贈与税が課税される か否かが問題となります。
この点、共同相続人のうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜的なものであり、その代金が、遺産分割協議の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはないとされています。 この場合、遺産分割協議書には、①対象不動産を売却しその譲渡代金を分割する旨、②譲渡代金につき相続人それぞれが取得する具体的な割合や代金が決められている旨、及び③売却する不動産について便宜的に共同相続人のうち1人の名義で相続登記を行う旨の記載を要します。
(2) 未分割の相続財産を換価したことによる譲渡所得の申告等
相続財産のうち分割が確定していない不動産を換価する場合もあります。この場合の譲渡所得の申告については、次のようになります。
① 換価時に換価代金の取得割合が確定している場合
この場合には、(イ)換価代金を後日遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情がないため相続人が各法定相続分に応じて換価代金を取得することとなる場合と、(ロ)あらかじめ換価時までに換価代金の取得割合を定めている(分割済)場合とがあります。
(イ)の場合は、各相続人が換価遺産に有する所有割合である法定相続分で換価したのですから、その譲渡所得は、所有割合 (=法定相続分)に応じて申告することになります。
(ロ)の場合は、換価代金の取得割合を定めることは、換価遺産の所有割合について換価代金の取得割合と同じ割合とすることを定めることにほかならず、各相続人は換価代金の取得割合と同じ所有割合で換価したのですから、その譲渡所得は、換価遺産の所有割合(=換価代金の取得割合)に応じて申告することになります。
② 換価時に換価代金の取得割合が確定していないため後日分割される場合
遺産分割審判における換価分割の場合や換価代金を遺産分割の対象に含める合意をするなど特別の事情がある場合に、換価後に換価代金を分割したとしても、(イ)譲渡所得はその資産が所有者の手を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税するものであり、その収入すべき時期は、資産の引渡しがあった日によるものとされていること、(ロ)相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し、その共有状態にある遺産を共同相続人が換価した事実がなくなるものではないこと、(ハ)遺産分割の対象は換価した遺産ではなく、換価により得た代金であることから、譲渡所得は換価時における換価遺産の所有割合(=法定相続分)により申告することになります。
ただし、所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告は認められます。 しかし、申告期限までに換価代金の分割が行われていない場合には、法定相続分により申告することとなりますが、法定相続分により申告した後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではないことから、更正の請求又は修正申告を行うことはできません。
(3) 具体的な計算例
兄弟それぞれ2分の1の割合で分割するとした計算例です。
○相続財産の内訳
・土地(相続税評価額1億円、換価の際の時価1億2,000万円,取得価額3,000万円)
・建物(相続税評価額200万円,換価の際の時価0円 取得価額不明)
・借入金(2,000万円)
・葬式費用(100万円)
・土地を売却するために支払った仲介手数料(330万円)
① 相続税の課税価格
兄及び弟は法定相続分により分割
兄(1億円+200万円-2,000万円-100万円)×1/2
弟(1億円+200万円-2,000万円-100万円)×1/2
② 譲渡所得の計算
兄(1億2,000万円-3,000万円-330万円)×1/2-取得費加算額
弟(1億2,000万円-3,000万円-330万円)×1/2-取得費加算額
(4) 本事例の課税関係
まず、相続税の土地の評価において、一定の要件を満たす場合、小規模宅地等の特例(家なき子特例)を適用することができます。 なお、この場合、家なき子特例を適用するに当たっては、「相続開始時から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること」との保有継続要件が課されていますので注意が必要です(前記19(3)③参照)。
次に、相続人が換価した居宅は、譲渡所得の基因となる資産に該当するため、譲渡益に対して所得税 (譲渡所得)が課税されます(所基通33-1)。本事例において、兄弟間の分割割合は不明ですが、仮に2分の1ずつの割合とすると所得税の計算は上記(3)のとおり、居宅の売却代金から取得費と仲介手数料などの譲渡費用を差し引いて計算します。この場合、相続人が相続によって取得した資産について譲渡所得を計算するときに控除する取得費は、被相続人の取得価額を引き継ぎます (所法60①)。なお、売却した土地建物が相当の年数を経るなど取得費がわからない場合は、売却代金の5%相当額を取得費とすることができます(措法31の4, 措通31の4-1)。
(5) 取得費加算の特例と代償分割
相続又は遺贈により取得した資産を相続の開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合には、負担した相続税額のうち譲渡した資産に対応する金額を譲渡資産の取得費に加算することができます(措法39) (後記57参照)。
なお、代償分割の方法により遺産分割が行われた場合において、その代償分割により代償債務を負担した相続人が代償金を支払って取得した相続財産を譲渡し、この特例の適用を受ける場合には、取得費に加算する相続税額は、次の計算式により、譲渡資産の相続税評価額を圧縮して計算されます (措通39-7)。そのため、換価分割において計算される取得費に加算する相続税額と比べ不利になるので注意を要します。
(6) 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
相続又は遺贈により取得した被相続人の居住用家屋又は被相続人の居住用家屋の敷地等を売却し、一定の要件を満たす場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除(「空き家特例」)することができます(措法353) (後記58参照)が、上記の相続税額の取得費加算の特例と併用して適用できないことから、両者の特例のうち、いずれの特例を適用した方が有利になるのか判断します。
この点、空き家を相続したときは、一定の要件を満たす場合、家なき子特例の適用が可能であること、空き家特例の特別控除を適用すると、所得税の配偶者控除や扶養控除の判定の基礎となる合計所得金額の判定は空き家特例の特別控除前の金額であることなどの要素も踏まえて判断します。 これらの関係は次のようになります。
A: 換価分割の対象となった不動産を売却した場合は、譲渡所得の課税の対 象となります。また、相続した不動産を売却するに当たり、「相続税の取得費 加算の特例」の適用を受ける場合、相続税の計算上,代償分割より換価分割の 方が有利となります。
解説
相続により取得した財産を譲渡し、相続人間でその代金を分配する場合、特 定の相続人がその財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続 人に対し債務を負担する「代償分割」のほか、共同相続人が相続により取得し た財産を売却して、その売却代金を分配する「換価分割」があります(家事事 件手続法194参照)。換価分割の対象となった不動産を売却した場合は、譲渡代 金の分配割合に応じて換価分割の対象となった不動産を取得したことになるた め、分配割合に応じて、譲渡所得の申告を要します。
(1) 相続登記と贈与税課税
相続した不動産を売却する都合上、まずはその不動産の名義を相続人名義に 登記しなければなりません。共同相続人のうち1人の名義に相続登記をした上 で換価し、その後、換価代金を分配することとした場合、贈与税が課税される か否かが問題となります。
この点、共同相続人のうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜的なものであり、その代金が、遺産分割協議の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはないとされています。 この場合、遺産分割協議書には、①対象不動産を売却しその譲渡代金を分割する旨、②譲渡代金につき相続人それぞれが取得する具体的な割合や代金が決められている旨、及び③売却する不動産について便宜的に共同相続人のうち1人の名義で相続登記を行う旨の記載を要します。
(2) 未分割の相続財産を換価したことによる譲渡所得の申告等
相続財産のうち分割が確定していない不動産を換価する場合もあります。この場合の譲渡所得の申告については、次のようになります。
① 換価時に換価代金の取得割合が確定している場合
この場合には、(イ)換価代金を後日遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情がないため相続人が各法定相続分に応じて換価代金を取得することとなる場合と、(ロ)あらかじめ換価時までに換価代金の取得割合を定めている(分割済)場合とがあります。
(イ)の場合は、各相続人が換価遺産に有する所有割合である法定相続分で換価したのですから、その譲渡所得は、所有割合 (=法定相続分)に応じて申告することになります。
(ロ)の場合は、換価代金の取得割合を定めることは、換価遺産の所有割合について換価代金の取得割合と同じ割合とすることを定めることにほかならず、各相続人は換価代金の取得割合と同じ所有割合で換価したのですから、その譲渡所得は、換価遺産の所有割合(=換価代金の取得割合)に応じて申告することになります。
② 換価時に換価代金の取得割合が確定していないため後日分割される場合
遺産分割審判における換価分割の場合や換価代金を遺産分割の対象に含める合意をするなど特別の事情がある場合に、換価後に換価代金を分割したとしても、(イ)譲渡所得はその資産が所有者の手を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税するものであり、その収入すべき時期は、資産の引渡しがあった日によるものとされていること、(ロ)相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し、その共有状態にある遺産を共同相続人が換価した事実がなくなるものではないこと、(ハ)遺産分割の対象は換価した遺産ではなく、換価により得た代金であることから、譲渡所得は換価時における換価遺産の所有割合(=法定相続分)により申告することになります。
ただし、所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告は認められます。 しかし、申告期限までに換価代金の分割が行われていない場合には、法定相続分により申告することとなりますが、法定相続分により申告した後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではないことから、更正の請求又は修正申告を行うことはできません。
(3) 具体的な計算例
兄弟それぞれ2分の1の割合で分割するとした計算例です。
○相続財産の内訳
・土地(相続税評価額1億円、換価の際の時価1億2,000万円,取得価額3,000万円)
・建物(相続税評価額200万円,換価の際の時価0円 取得価額不明)
・借入金(2,000万円)
・葬式費用(100万円)
・土地を売却するために支払った仲介手数料(330万円)
① 相続税の課税価格
兄及び弟は法定相続分により分割
兄(1億円+200万円-2,000万円-100万円)×1/2
弟(1億円+200万円-2,000万円-100万円)×1/2
② 譲渡所得の計算
兄(1億2,000万円-3,000万円-330万円)×1/2-取得費加算額
弟(1億2,000万円-3,000万円-330万円)×1/2-取得費加算額
(4) 本事例の課税関係
まず、相続税の土地の評価において、一定の要件を満たす場合、小規模宅地等の特例(家なき子特例)を適用することができます。 なお、この場合、家なき子特例を適用するに当たっては、「相続開始時から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること」との保有継続要件が課されていますので注意が必要です(前記19(3)③参照)。
次に、相続人が換価した居宅は、譲渡所得の基因となる資産に該当するため、譲渡益に対して所得税 (譲渡所得)が課税されます(所基通33-1)。本事例において、兄弟間の分割割合は不明ですが、仮に2分の1ずつの割合とすると所得税の計算は上記(3)のとおり、居宅の売却代金から取得費と仲介手数料などの譲渡費用を差し引いて計算します。この場合、相続人が相続によって取得した資産について譲渡所得を計算するときに控除する取得費は、被相続人の取得価額を引き継ぎます (所法60①)。なお、売却した土地建物が相当の年数を経るなど取得費がわからない場合は、売却代金の5%相当額を取得費とすることができます(措法31の4, 措通31の4-1)。
(5) 取得費加算の特例と代償分割
相続又は遺贈により取得した資産を相続の開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合には、負担した相続税額のうち譲渡した資産に対応する金額を譲渡資産の取得費に加算することができます(措法39) (後記57参照)。
なお、代償分割の方法により遺産分割が行われた場合において、その代償分割により代償債務を負担した相続人が代償金を支払って取得した相続財産を譲渡し、この特例の適用を受ける場合には、取得費に加算する相続税額は、次の計算式により、譲渡資産の相続税評価額を圧縮して計算されます (措通39-7)。そのため、換価分割において計算される取得費に加算する相続税額と比べ不利になるので注意を要します。
(6) 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
相続又は遺贈により取得した被相続人の居住用家屋又は被相続人の居住用家屋の敷地等を売却し、一定の要件を満たす場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除(「空き家特例」)することができます(措法353) (後記58参照)が、上記の相続税額の取得費加算の特例と併用して適用できないことから、両者の特例のうち、いずれの特例を適用した方が有利になるのか判断します。
この点、空き家を相続したときは、一定の要件を満たす場合、家なき子特例の適用が可能であること、空き家特例の特別控除を適用すると、所得税の配偶者控除や扶養控除の判定の基礎となる合計所得金額の判定は空き家特例の特別控除前の金額であることなどの要素も踏まえて判断します。 これらの関係は次のようになります。