相続財産から生じた不動産所得①
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q: 相続税の申告は行いましたが、遺産分割に時間がかかっています。 相続財産の中に賃貸マンションがあり、その賃貸収入は長男の私が管理し、 私の所得として確定申告をしています。
A: 相続財産の賃貸マンションから生じる賃料収入は、相続人がその持分に 応じて収益を得たものとして、所得税の確定申告を行わなければなりません。
解説
(1) 所得税の準確定申告
被相続人が亡くなる日までの収入については、被相続人の収入ですから、被 相続人の所得として申告しなければなりません。もちろん、亡くなった人が確 定申告をすることはできませんので、相続人が代わって行います。これを準確 定申告といい、被相続人の死亡から4か月以内に行う必要があります。相続税 の申告期限(死亡から10か月以内)より半年ほど早いので注意を要します。
(2) 相続財産の帰属と遺産分割の効力
相続が開始すると、相続財産は相続人の共有とされ(民法898)、それぞれの 共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる (民法249) とされています。また、遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って 生じる(民法909) とされています。 ここで、共有状態の相続財産から生じた家賃収入などの収益についても、相 続財産と同様に共有状態となるのか、また、遺産分割が確定した時に相続開始 日に遡って効力を生じるのかが問題となります。第11章 所得税課税 225 この点については、共有持分に応じて、相続人に帰属することとされています。
(3) 課税上の取扱い
遺産分割が確定していないため、共同相続人のうち特定の人がその収益を管 理しているような場合についても、遺産分割が確定するまでの期間は、共同相 続人がその法定相続分に応じて申告することとなります。 なお、遺産分割協議が整い、分割が確定した場合であっても、その効果は未 分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではありませんので、分割の確定 を理由とする更正の請求又は修正申告を行うことはできません。
(4) 本事例の取扱い
上記のとおり、相続財産の賃貸マンションから生じる賃料収入は、相続人が その持分に応じて収益を得たものとして、所得税の確定申告を行わなければな りません。また、その後において遺産分割が行われた場合、民法は、「遺産の 分割は、遡って効力を生ずる」と規定していますが、所得税については、家賃 収入・譲渡収入は、その収入の時点での持分に応じて相続人に収入が帰属する と考えることから、遡って更正の請求を行うことはできないことになります。 本事例は、共同相続人の間で遺産分割協議が確定していないものの、その不 動産を相続する人が相談者に決まっており、相談者が賃料収入の全額を自身の 所得として申告を行ったということかと思料します。所得税は累進課税ですか ら、共同相続人の中でその不動産所得の申告を行った人の所得税率が最も高け れば、税務当局はあえて指摘はしないと思料します。しかし、所得税額が発生 しない相続人が全額不動産所得として申告したような場合には、課税の公平性 の観点から、法定相続分による修正申告の勧奨もあると思料します。 相続財産から生じた法定果実を受け取った相続人は、その収入金額等の多寡 によっては、所得税の配偶者控除あるいは扶養控除の適用、また、住民税及び 国民健康保険税などにも影響が及ぶこともあるので、注意を要します。
A: 相続財産の賃貸マンションから生じる賃料収入は、相続人がその持分に 応じて収益を得たものとして、所得税の確定申告を行わなければなりません。
解説
(1) 所得税の準確定申告
被相続人が亡くなる日までの収入については、被相続人の収入ですから、被 相続人の所得として申告しなければなりません。もちろん、亡くなった人が確 定申告をすることはできませんので、相続人が代わって行います。これを準確 定申告といい、被相続人の死亡から4か月以内に行う必要があります。相続税 の申告期限(死亡から10か月以内)より半年ほど早いので注意を要します。
(2) 相続財産の帰属と遺産分割の効力
相続が開始すると、相続財産は相続人の共有とされ(民法898)、それぞれの 共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる (民法249) とされています。また、遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って 生じる(民法909) とされています。 ここで、共有状態の相続財産から生じた家賃収入などの収益についても、相 続財産と同様に共有状態となるのか、また、遺産分割が確定した時に相続開始 日に遡って効力を生じるのかが問題となります。第11章 所得税課税 225 この点については、共有持分に応じて、相続人に帰属することとされています。
(3) 課税上の取扱い
遺産分割が確定していないため、共同相続人のうち特定の人がその収益を管 理しているような場合についても、遺産分割が確定するまでの期間は、共同相 続人がその法定相続分に応じて申告することとなります。 なお、遺産分割協議が整い、分割が確定した場合であっても、その効果は未 分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではありませんので、分割の確定 を理由とする更正の請求又は修正申告を行うことはできません。
(4) 本事例の取扱い
上記のとおり、相続財産の賃貸マンションから生じる賃料収入は、相続人が その持分に応じて収益を得たものとして、所得税の確定申告を行わなければな りません。また、その後において遺産分割が行われた場合、民法は、「遺産の 分割は、遡って効力を生ずる」と規定していますが、所得税については、家賃 収入・譲渡収入は、その収入の時点での持分に応じて相続人に収入が帰属する と考えることから、遡って更正の請求を行うことはできないことになります。 本事例は、共同相続人の間で遺産分割協議が確定していないものの、その不 動産を相続する人が相談者に決まっており、相談者が賃料収入の全額を自身の 所得として申告を行ったということかと思料します。所得税は累進課税ですか ら、共同相続人の中でその不動産所得の申告を行った人の所得税率が最も高け れば、税務当局はあえて指摘はしないと思料します。しかし、所得税額が発生 しない相続人が全額不動産所得として申告したような場合には、課税の公平性 の観点から、法定相続分による修正申告の勧奨もあると思料します。 相続財産から生じた法定果実を受け取った相続人は、その収入金額等の多寡 によっては、所得税の配偶者控除あるいは扶養控除の適用、また、住民税及び 国民健康保険税などにも影響が及ぶこともあるので、注意を要します。