探偵の知識

配偶者居住権の解除

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q :夫が亡くなり、居宅は長男に相続し、配偶者である私は配偶者居住権を設定し住んでいましたが、このほど老人ホームに入居するため、居宅を売却し、その売却代金を入居費用に充てたいと考えています。この場合、配偶者居住権の関係で課税されることはありますか。
A: 配偶者居住権を無償で解除した場合には、所有権者への贈与に該当し、ご長男に贈与税が課される可能性があります。また、有償で解除した場合には、譲渡に該当し、あなたに譲渡所得税が課される可能性があります。
解説
(1) 配偶者居住権とは
被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、遺産分割協議により配偶者居住権を取得するものとされたときや、配偶者居住権が遺贈の目的とされたときは、その居住していた建物の全部について、無償で使用及び収益をする権利を取得します(民法1028)。この権利を、配偶者居住権といい、令和2年4月1日以後に発生した相続から新たに認められました。
(2) 配偶者居住権の存続期間
配偶者居住権の存続期間は、遺産分割協議又は遺言による別段の定めがない限りは、配偶者の終身の間となります(民法1030)。配偶者が死亡した際には配偶者居住権は消滅します。
(3) 配偶者居住権を取得するメリット
遺産分割協議の場面において、例えば法定相続分をもとに財産を分けようとする場合、配偶者が引き続き自宅に住み続けたい意向があるものの、自宅を取得することで、他の財産について取得できる金額が減少し、生活に必要な金銭を取得することができないという問題が生じることがあります。その点、配偶者居住権を取得することで、自宅の所有権は別の相続人が取得したとしても配偶者は引き続き自宅に住み続けることができ、さらに他の財産を取得することができるというメリットがあります。 また、相続税の申告においては、配偶者居住権とその目的となっている建物、配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地の敷地利用権と敷地所有権とに区分し、それぞれ、前者は配偶者が、後者は所有権を取得した人が取得したものとして相続税額を計算します(相法23の2)。 配偶者が死亡した際には配偶者居住権は消滅することから、相続税額の計算においては、一次相続で配偶者居住権を配偶者が取得することでその財産について配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受け、納付相続税額を減少させ、二次相続では配偶者居住権は消滅するため、二次相続の相続財産として計上する必要がありません。その点で、一次相続と二次相続とを合わせて考えた際に、結果として相続税の節税効果があります。 なお、小規模宅地等の特例において、特例対象宅地等には、配偶者居住権は含まれませんが、配偶者居住権に基づく敷地利用権及び配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地の用に供される宅地等は含まれます (措通69の4-1の2)。この特例の適用についても考慮するとよいでしょう。
(4) 配偶者居住権の解除
配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者とその配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意若しくはその配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合又は民法1032条4項(建物所有者による消滅の意思表示)の規定により消滅した場合において、その建物の所有者又はその建物の敷地の用に供される土地の所有者が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、その建物等の所有者が、その消滅直前に、その配偶者が有していたその配偶者居住権の価額に相当する利益又はその土地をその配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、その配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱います(相基通9-13の2)。 したがって、配偶者居住権の解除に当たり、無償又は著しく低い価額の対価をもって解除した場合には、その建物等所有者に贈与税が課される可能性があります。 なお、配偶者居住権の解除に当たり、配偶者が対価の支払を受けた場合には、譲渡所得(総合課税)として、所得税が課される可能性があります(措通31・32共-1)。