相続放棄・廃除と代襲相続
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q:母が亡くなりました。父は既に亡くなっていて、私が唯一の相続人 です。私も高齢のため、相続放棄をして、私の息子に相続権を譲ろうと 思っています。
A:親の相続が開始した時点で、相続人である子が既に亡くなっている場合 には、その子(直系卑属)が被代襲者に代わって同順位の相続人となります。 これを「代襲相続」 といいます(民法887②,891)。この取扱いは、被代襲者 である子が相続開始以前に亡くなっている場合、相続人の欠格事由に該当する 場合及び廃除により相続権を失っている場合に限定されています。 そのため、あなたが相続放棄を行ったとしても、その相続権があなたの息子 さんに移ることはありません。
解説:
(1)相続放棄
相続人は、相続が開始したことを知った日から原則3か月以内に家庭裁判所 で相続放棄の申述を行う (民法938) ことで、その相続を放棄することができ ます(民法915)。この手続を有効に行った場合には、放棄者は初めから相続人 でなかったものとみなされ、被相続人の権利義務を承継しないことができます。 血族である相続人の1人が相続放棄を行った場合、その相続権は同順位の相 続人,同順位の相続人がいない場合には次順位の相続人へ移ることになります。
(2)相続欠格・相続人の廃除
相続欠格や相続人の廃除は、相続秩序を侵害するような行為を行った相続人の相続権をはく奪する制度です。 相続欠格事由は、被相続人や先順位の相続人を故意に死亡するに至らせ、刑 に処された場合や、被相続人が殺害されたことを知って、これを告発・告訴し なかった場合、遺言書を偽造等した場合など、五つの事由が規定されています (民法891)。
相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人(配偶者、子などの直系卑属, 直系尊属)からの虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合に、被相続人の 意思に基づいて相続権をはく奪できる制度です(民法892)。遺留分を有する推 定相続人に限定されている理由は、それ以外の相続人は遺言によって相続分を なしとすることで相続権を奪うことができるためです。
(3)代襲相続
第1順位の相続人である直系卑属が、被相続人の死亡以前に既に亡くなって いる場合や上記 (2)により相続権を失った場合には、その直系卑属の子が相続権 を代襲します(民法887②)。なお、直系卑属の場合、代襲者が被相続人の死亡 以前に亡くなっているときには、何代でも代襲して相続人となります(民法 887③)。 また、第3順位の相続人である兄弟姉妹についても同様に代襲相続の規定が あります。ただし、兄弟姉妹の場合の代襲相続は、一代限りとなります(民法 889②)。 代襲相続の要件は、相続人が被相続人の死亡以前に亡くなっている場合、相 続欠格又は相続廃除により相続権を失った場合に限定されています。そのため、 被代襲者が相続放棄を行っても代襲者に相続権が移ることはありません。 本事例の場合、相談者が相続放棄をすると、第2順位,第3順位の相続人も いなければ、相続人は誰もいなくなり、相続財産は利害関係者の裁判所への選 任申立てによる相続財産清算人に引き継がれ、管理・清算されることになりま す(民法952①他)。
(4)相続税法上の相続人の考え方
相続税法上では、相続放棄があった場合において特有の取扱いがあります。
別事例 被相続人には配偶者及び子がおらず、母は相続放棄をすることとした。 なお、被相続人には弟と妹がいる。
① 民法上の相続人
配偶者と第1順位の子がいないため、第2順位の母が相続人となりますが、 相続放棄を行ったため、相続権は第3順位の弟・妹に移ることとなります。
② 相続税法上の相続人
イ原則 上記①の民法上の相続人と同様の者が相続人となります。
ロ 相続税計算上の相続人
相続税法では、相続放棄を行うことにより、相続人の数を増やす ( (上の別事 意図的に相続税を減少 例の場合、母1人から弟・妹の2人に増やす) させることができないようにするため、以下の規定を適用する際の相続人は、 その放棄がなかったものとした場合における相続人とされています。
(イ) 基礎控除額を計算する際の相続人 (相法15②)
(口) 相続税の総額を計算する際の相続人(相法16)
(ハ) 生命保険金等や死亡退職金の非課税限度額を計算する際の相続人(相法12① 五イ、六イ)
上の別事例で当てはめて考えてみます。
母が相続放棄を行ったことにより、民法上の相続人は弟と妹になりますが、 相続税法上,母1人が相続人であるものとして、上記の各規定を適用します。
【基礎控除額】
3,000万円+600万円×1人(母) =3,600万円
【相続税の総額】
課税遺産総額×1/1 (相続人が母1人とした場合の法定相続分)×税率
【非課税限度額】
500万円×1人(母)=500万円
(5)相続人の欠格事由又は廃除により相続権を失っている場合の代 襲相続
相続人が、相続人の欠格事由又は廃除により相続権を失ったときは、その人 の子が代襲して相続人となります(民法887②)4。
したがって、代襲相続人となった子が複数人いる場合には、基礎控除額の計 算において、その子の人数によって計算することとなります。また、代襲相続 人には、相続税額の2割加算の規定 (後記4 (3)②参照) は適用されません。 4 被相続人の直系卑属でない人を除きます。
A:親の相続が開始した時点で、相続人である子が既に亡くなっている場合 には、その子(直系卑属)が被代襲者に代わって同順位の相続人となります。 これを「代襲相続」 といいます(民法887②,891)。この取扱いは、被代襲者 である子が相続開始以前に亡くなっている場合、相続人の欠格事由に該当する 場合及び廃除により相続権を失っている場合に限定されています。 そのため、あなたが相続放棄を行ったとしても、その相続権があなたの息子 さんに移ることはありません。
解説:
(1)相続放棄
相続人は、相続が開始したことを知った日から原則3か月以内に家庭裁判所 で相続放棄の申述を行う (民法938) ことで、その相続を放棄することができ ます(民法915)。この手続を有効に行った場合には、放棄者は初めから相続人 でなかったものとみなされ、被相続人の権利義務を承継しないことができます。 血族である相続人の1人が相続放棄を行った場合、その相続権は同順位の相 続人,同順位の相続人がいない場合には次順位の相続人へ移ることになります。
(2)相続欠格・相続人の廃除
相続欠格や相続人の廃除は、相続秩序を侵害するような行為を行った相続人の相続権をはく奪する制度です。 相続欠格事由は、被相続人や先順位の相続人を故意に死亡するに至らせ、刑 に処された場合や、被相続人が殺害されたことを知って、これを告発・告訴し なかった場合、遺言書を偽造等した場合など、五つの事由が規定されています (民法891)。
相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人(配偶者、子などの直系卑属, 直系尊属)からの虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合に、被相続人の 意思に基づいて相続権をはく奪できる制度です(民法892)。遺留分を有する推 定相続人に限定されている理由は、それ以外の相続人は遺言によって相続分を なしとすることで相続権を奪うことができるためです。
(3)代襲相続
第1順位の相続人である直系卑属が、被相続人の死亡以前に既に亡くなって いる場合や上記 (2)により相続権を失った場合には、その直系卑属の子が相続権 を代襲します(民法887②)。なお、直系卑属の場合、代襲者が被相続人の死亡 以前に亡くなっているときには、何代でも代襲して相続人となります(民法 887③)。 また、第3順位の相続人である兄弟姉妹についても同様に代襲相続の規定が あります。ただし、兄弟姉妹の場合の代襲相続は、一代限りとなります(民法 889②)。 代襲相続の要件は、相続人が被相続人の死亡以前に亡くなっている場合、相 続欠格又は相続廃除により相続権を失った場合に限定されています。そのため、 被代襲者が相続放棄を行っても代襲者に相続権が移ることはありません。 本事例の場合、相談者が相続放棄をすると、第2順位,第3順位の相続人も いなければ、相続人は誰もいなくなり、相続財産は利害関係者の裁判所への選 任申立てによる相続財産清算人に引き継がれ、管理・清算されることになりま す(民法952①他)。
(4)相続税法上の相続人の考え方
相続税法上では、相続放棄があった場合において特有の取扱いがあります。
別事例 被相続人には配偶者及び子がおらず、母は相続放棄をすることとした。 なお、被相続人には弟と妹がいる。
① 民法上の相続人
配偶者と第1順位の子がいないため、第2順位の母が相続人となりますが、 相続放棄を行ったため、相続権は第3順位の弟・妹に移ることとなります。
② 相続税法上の相続人
イ原則 上記①の民法上の相続人と同様の者が相続人となります。
ロ 相続税計算上の相続人
相続税法では、相続放棄を行うことにより、相続人の数を増やす ( (上の別事 意図的に相続税を減少 例の場合、母1人から弟・妹の2人に増やす) させることができないようにするため、以下の規定を適用する際の相続人は、 その放棄がなかったものとした場合における相続人とされています。
(イ) 基礎控除額を計算する際の相続人 (相法15②)
(口) 相続税の総額を計算する際の相続人(相法16)
(ハ) 生命保険金等や死亡退職金の非課税限度額を計算する際の相続人(相法12① 五イ、六イ)
上の別事例で当てはめて考えてみます。
母が相続放棄を行ったことにより、民法上の相続人は弟と妹になりますが、 相続税法上,母1人が相続人であるものとして、上記の各規定を適用します。
【基礎控除額】
3,000万円+600万円×1人(母) =3,600万円
【相続税の総額】
課税遺産総額×1/1 (相続人が母1人とした場合の法定相続分)×税率
【非課税限度額】
500万円×1人(母)=500万円
(5)相続人の欠格事由又は廃除により相続権を失っている場合の代 襲相続
相続人が、相続人の欠格事由又は廃除により相続権を失ったときは、その人 の子が代襲して相続人となります(民法887②)4。
したがって、代襲相続人となった子が複数人いる場合には、基礎控除額の計 算において、その子の人数によって計算することとなります。また、代襲相続 人には、相続税額の2割加算の規定 (後記4 (3)②参照) は適用されません。 4 被相続人の直系卑属でない人を除きます。