探偵の知識

相続人の範囲

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:先月、夫が亡くなりました。私と夫の間には子供がおらず、夫の両親も既に亡くなっています。また、夫には弟と妹がいます。私と義弟,義 妹の3人で分割協議を行えばよろしいですか。
A:基本的な考え方は間違いありませんが、相続人を確定するには、亡くなった方の出生時から死亡時までの戸籍を取得し、確認する必要があります。 あなたの場合、旦那様の戸籍に加え、旦那様のご両親の戸籍も出生時から取得 して、ご兄弟が義弟様と義妹様のみで間違いないか確認しなければなりません。
解説:
(1)相続人の範囲
相続人は民法で定められており、その範囲は配偶者と一定の血族とされています。配偶者は必ず相続人となります(民法890)が、血族については相続人になる順位があります。前の順位の相続人がいる場合には次の順位の血族は相続人にならないため、その順位に従って相続人の判断を行います (民法887, 889)。
① 第1順位:被相続人の子
子のうち、非嫡出子は、母との関係においては、出産の事実により生まれた時から親子関係が生じますが、父については、生まれた時点では親子関係が生じません。そのため、法的に親子関係を生じさせるためには、父が認知をする必要があり、認知により嫡出子の身分を取得します(民法789①②)。
② 第2順位:被相続人の直系尊属(親や祖父母など)
第1順位の相続人がいない場合には、第2順位である直系尊属が相続人となります。祖父母が相続人になるケースは、両親ともに既に亡くなっている場合 で、祖父母が健在のときです。父母のうちどちらか1人でも健在の場合には、祖父母が相続人になることはありません。
③ 第3順位: 被相続人の兄弟姉妹
戸籍を遡って確認した結果、父母の一方のみを同一とする兄弟姉妹がいた場合のその兄弟姉妹を半血兄弟姉妹といいます。半血兄弟姉妹についても、相続人になることは間違いありませんが、相続分は父母の両方を同一とする兄弟姉妹の半分とされています。半血兄弟姉妹については、その存在自体を相続人が知らないケースも珍しくありません。
なお、同順位に複数の血族がいる場合には、その全員が相続人となります。
④ 代襲相続
子及び兄弟姉妹については、被相続人の相続開始前に死亡している場合、その子が相続人となります(民法887②,889②)。
⑤ 法律婚と事実婚
配偶者については、婚姻関係がある場合に相続人となります。そのため、相続開始時において夫婦同然の共同生活を送っていたとしても、婚姻届を提出していない事実婚の場合には、そのパートナーは相続人となることができません(後記37(4)参照)。
一方、婚姻届を提出している夫婦は、相続開始時において別居している夫婦や離婚調停中の夫婦であっても、法的な婚姻関係がある限り、その配偶者は相続人となります。
(2)準拠法と相続税法上の法定相続人の数
相続税法上の法定相続人の数については、「民法第5編第2章(相続人)の 規定による相続人の数」とされています (相法15②)。仮に、被相続人が外国 籍である等の理由により準拠法が日本法でなかったとしても、日本の民法に基づいてその相続人の数を計算することとなります。
(3)相続人の確認方法
本事例の相談者のように、これまで付き合いのある親族や夫から聞いている 兄弟姉妹の範囲で相続人を把握しているケースがあります。しかし、その範囲で遺産分割協議を行い、協議が成立したとしても、他に相続人がいた場合には、遺産分割協議は無効となり、初めからやり直しになってしまいます。そのため、相続の相談を受けた場合には、まず相続人を確定することから始めます。
相続人は、亡くなっている方の戸籍を遡ることで確認します。出生から亡くなるまでの戸籍を遡ることで、認識している相続人で間違いないか確認していきます。その過程で過去に認知した子がいることが判明したり、父母の一方を別にする兄弟姉妹の存在が判明するケースもあります。
(4)相続人と連絡が取れない場合
相続人の中に行方不明者がいる場合には、遺産分割協議を成立させることができず、法定相続分での遺産共有状態が続くこととなります。また、相続税の申告上は未分割申告となり、小規模宅地等の特例 (後記19参照) や配偶者に対する相続税額の軽減 (後記20参照)などが使用できず、高額な相続税の納税が必要になる可能性もあります。
戸籍上、相続人の存在が確認された場合で、捜索しても連絡が取れないときは、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立て(民法25①) や失踪宣告の申立て(民法301) をすることができますので、これらの手続の検討も要します。 なお、失踪宣告の手続を行い、家庭裁判所により失踪宣告が宣言され、その 相続人が被相続人より先に死亡したとみなされた場合、相続税の計算上、その 相続人が基礎控除額の計算における相続人の数に算入できないことから、小規 根宅地等の特例や配偶者に対する相続税額の軽減を適用しない場合は、あえて、 これらの手続を行わず、未分割で申告することも考えられます。
(5)各相続人の相続分
配偶者の相続分は、一緒に相続人となる人の順位に応じて決まりますが、そ の相続分は以下のとおりです。
一緒に相続人となる相続人 配偶者の相続分
第1順位の相続人((1)①) 1/2
第2順位の相続人((1)②) 2/3
第3順位の相続人((1)③) 3/4
血族の相続分は、配偶者の相続分を除いた残りとなり、血族の相続人が複数 いる場合には、その人数で頭割りします。例えば、配偶者の他に子が3人いる 場合の子の相続分は、1/2×1/3で各1/6ずつとなります。
(6)戸籍謄本等の広域交付
本籍地以外の市区町村の窓口においても戸籍証明書及び除籍証明書を請求す ることができます(令和6年3月1日から )。これにより、本籍地が遠方にあ る場合であっても、住所地や勤務先の最寄りの市区町村窓口で請求できるほか、 必要とする戸籍の本籍地が全国各地にあっても、1か所の市区町村の窓口でま とめて請求することができます。