相続の開始
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q: 私の兄は遠方で一人暮らしをしていました。連絡が取れなくなった ため、近くに住む親戚に様子を見に行ってもらったところ、亡くなっていたことが判明しました。死後、日数が経過していたため、兄本人か否かを 確認するため、警察による検死やDNA鑑定を行う旨の連絡がありました。 この場合、相続税の申告期限の起算日となる「相続の開始があったことを知った日」はどの時点を指すのでしょうか。
A:相続税の申告期限は、「相続の開始があったことを知った日」の翌日か ら10か月以内とされています(相法27①)。あなたの場合、警察のDNA鑑定が行われるとのことですので、その鑑定結果により、亡くなった方があなたのお兄様と確定した日が相続の開始があったことを知った日となります。
また、相続税の申告の際に行う相続財産の評価は、原則として被相続人が亡くなった日の時価で行います。したがって、相続人に相続税の申告義務があると判断される場合は、「相続の開始があったことを知った日」のほか、戸籍法上の「相続の開始日」を確認しなければなりません。
解説:「亡くなった日」は、戸籍謄本に記載された日にちに基づき判定します。 単身高齢者の増加とともに、誰からも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような「孤独死」の事例が度々報道されています。孤独死は、亡くなってから期間が経過しているケースも多く、亡くなった日の特定ができず、戸籍上一定の期間内に亡くなった旨の記載がされる場合もあります。
(1)相続の開始
現行民法では、死亡を唯一の相続開始原因としています。人の死亡には、自然死のほか、脳死,生死不明の者に対して法律上死亡したものとみなす失踪宣 告(民法30) や災害などを原因とする認定死亡 (戸籍法89) があります。
人が死亡したときは、原則として、戸籍法の定める届出義務者(戸籍法87) が、死亡の事実を知った日から7日以内に死亡の届出をしなければならない とされています(戸籍法86①)。また、死亡の届出には、死亡の年月日時分及 び場所などを記載し、診断書又は検案書を添付しなければならないとされています(戸籍法86②)。
(2)相続の開始と相続税の関係
① 相続税の申告期限
相続税の申告期限は、「相続の開始があったことを知った日」の翌日から10 か月以内です。そして、「相続の開始があったことを知った日」とは、自己の ために相続の開始があったことを知った日をいいます(相基通27-4)。通常, 相続人は被相続人の死亡の日に連絡を受けることになると思いますので、「亡くなった日」が「相続の開始があったことを知った日」となることが一般的です。
なお、相続人以外の人が遺贈によって財産を取得した場合には、「相続の開始があったことを知った日」は、「自己のためにその遺贈のあったことを知った日」とされる(相基通27-4(8)) など、一般的に「亡くなった日」とされる「相続の開始があったことを知った日」と「自己のためにその遺贈のあったことを知った日」が相違することがあります(相基通27-4)。この場合、申 告期限に影響しますので、適正な判断を要します。
② 相続財産の評価との関係
相続税申告を行う場合の相続財産の評価は、原則として相続開始日の時価となります。 被相続人が病院で亡くなった場合は、「死亡診断書」が発行されますが、孤独死の場合や事件性がある場合などは、医師による死因や死後経過時 間の判断を経て「死体検案書」が発行されます。「死亡診断書」又は「死体検 案書」とともに「死亡届」を自治体に提出すると、戸籍謄本に亡くなった日が 記載されますから、その記載された日にちに基づき相続開始日を判断します。 なお、孤独死などの場合には、「○月○日から○月○日までの間」といったように一定の期間を定めて死亡の記載がされることがあります。この場合の相続開始日は、その時期の終期と考えることが一般的です。
③ その他の相続手続との関係
民法上の相続放棄や限定承認を行う場合、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った日」から起算して3か月以内に行わなければなりません。この期間を過ぎると、相続人は単純承認したものとみなされますから、債務超過が確実と見込まれる場合には、この期間内に相続放棄を行う旨のアドバイスが必要といえます。
(3)本事例における相続の開始があったことを知った日等
本事例の場合は、相談者が兄のDNA鑑定結果について警察から連絡を受け た日が、「相続の開始があったことを知った日」となります。また、相続財産の評価時点は、兄の相続開始日ですから、戸籍謄本を確認し、「○月○日から○月○日までの間」といったような記載がある場合には、その最終日を相続開始日とします。
A:相続税の申告期限は、「相続の開始があったことを知った日」の翌日か ら10か月以内とされています(相法27①)。あなたの場合、警察のDNA鑑定が行われるとのことですので、その鑑定結果により、亡くなった方があなたのお兄様と確定した日が相続の開始があったことを知った日となります。
また、相続税の申告の際に行う相続財産の評価は、原則として被相続人が亡くなった日の時価で行います。したがって、相続人に相続税の申告義務があると判断される場合は、「相続の開始があったことを知った日」のほか、戸籍法上の「相続の開始日」を確認しなければなりません。
解説:「亡くなった日」は、戸籍謄本に記載された日にちに基づき判定します。 単身高齢者の増加とともに、誰からも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような「孤独死」の事例が度々報道されています。孤独死は、亡くなってから期間が経過しているケースも多く、亡くなった日の特定ができず、戸籍上一定の期間内に亡くなった旨の記載がされる場合もあります。
(1)相続の開始
現行民法では、死亡を唯一の相続開始原因としています。人の死亡には、自然死のほか、脳死,生死不明の者に対して法律上死亡したものとみなす失踪宣 告(民法30) や災害などを原因とする認定死亡 (戸籍法89) があります。
人が死亡したときは、原則として、戸籍法の定める届出義務者(戸籍法87) が、死亡の事実を知った日から7日以内に死亡の届出をしなければならない とされています(戸籍法86①)。また、死亡の届出には、死亡の年月日時分及 び場所などを記載し、診断書又は検案書を添付しなければならないとされています(戸籍法86②)。
(2)相続の開始と相続税の関係
① 相続税の申告期限
相続税の申告期限は、「相続の開始があったことを知った日」の翌日から10 か月以内です。そして、「相続の開始があったことを知った日」とは、自己の ために相続の開始があったことを知った日をいいます(相基通27-4)。通常, 相続人は被相続人の死亡の日に連絡を受けることになると思いますので、「亡くなった日」が「相続の開始があったことを知った日」となることが一般的です。
なお、相続人以外の人が遺贈によって財産を取得した場合には、「相続の開始があったことを知った日」は、「自己のためにその遺贈のあったことを知った日」とされる(相基通27-4(8)) など、一般的に「亡くなった日」とされる「相続の開始があったことを知った日」と「自己のためにその遺贈のあったことを知った日」が相違することがあります(相基通27-4)。この場合、申 告期限に影響しますので、適正な判断を要します。
② 相続財産の評価との関係
相続税申告を行う場合の相続財産の評価は、原則として相続開始日の時価となります。 被相続人が病院で亡くなった場合は、「死亡診断書」が発行されますが、孤独死の場合や事件性がある場合などは、医師による死因や死後経過時 間の判断を経て「死体検案書」が発行されます。「死亡診断書」又は「死体検 案書」とともに「死亡届」を自治体に提出すると、戸籍謄本に亡くなった日が 記載されますから、その記載された日にちに基づき相続開始日を判断します。 なお、孤独死などの場合には、「○月○日から○月○日までの間」といったように一定の期間を定めて死亡の記載がされることがあります。この場合の相続開始日は、その時期の終期と考えることが一般的です。
③ その他の相続手続との関係
民法上の相続放棄や限定承認を行う場合、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った日」から起算して3か月以内に行わなければなりません。この期間を過ぎると、相続人は単純承認したものとみなされますから、債務超過が確実と見込まれる場合には、この期間内に相続放棄を行う旨のアドバイスが必要といえます。
(3)本事例における相続の開始があったことを知った日等
本事例の場合は、相談者が兄のDNA鑑定結果について警察から連絡を受け た日が、「相続の開始があったことを知った日」となります。また、相続財産の評価時点は、兄の相続開始日ですから、戸籍謄本を確認し、「○月○日から○月○日までの間」といったような記載がある場合には、その最終日を相続開始日とします。