探偵の知識

完璧な作品

2025年11月19日

事件はラブホで起きている
探偵小沢

打ち合わせを終え、彼女は「じゃあ、よろしくお願いします」と一礼し、待ち合わせ場所へと向かった。待ち合わせ場所で不倫相手が現れた。ふむ、彼が男優だな。
そこからはすべてシナリオどおりだった……構図、動線、表情、すべてが完璧。だって、対象者の動きが事前にわかってるんだもん。こんなに撮りやすい浮気調査の現場はない。
クライマックスは、部屋に入る直前のキスシーンだ。台本どおりのタイミングで濃厚なキスを仕掛ける依頼者。よし! とっさのキスに少し驚きつつもそれに応える男優。いいぞ!
依頼者がカメラアングルを意識しているのがわかる。憎いぜ! 男優も女優の腰に腕を回す。いいアングルだ!
遠くから静かに撮影する僕。カコイイ! ふたりはそのまま部屋へと雪崩れ込んでいった。パーフェクト! 言い逃れできない〝作品〟が撮れた。
「はい! カットォ!」
僕は叫んだ。もちろん心の中で。もはや探偵というよりAV監督。不倫カップルの前戯は、すでにホテルに入る前から始まっているのだ……。

2週間後、彼女、いや、主演女優から連絡があった。
「小沢さん、ありがとうございました。おかげさまで無事、彼は穏便に別れることができました!」
よかった、よかった。探偵は、常に不倫された人の味方だと思われがちだけど、ときには不倫している人の味方になることもある。それがこの仕事の奥深さであり、罪深さでもある……。