探偵の知識

というわけで、密会場所である都内のシティホテルで彼女とアポを取った。密会の当日にね。まずはフロントで挨拶し、そのままチェックイン。そして彼女の部屋まで同行、高層階の眺めが素晴らしい〝スタイリッシュな部屋〟だった。そこで探偵としての重要事項説明をし、調査委任契約書にサインをもらう。
これまで僕は喫茶店、ファミレス、居酒屋、カラオケボックス、漫画喫茶、依頼者のご自宅や車の中……あらゆる場所で契約をしてきた。だけど、「これから依頼者がセックスすることになる部屋」で契約するのは初めてだった。
そのせいか、依頼者も少し気まずそうにしている。密室で人妻とふたりきり――僕は今、何をしているんだ？ つい聞いてしまった。
「依頼者さん、つまりこのあと……不倫相手とこの部屋に来て、あのベッドの上で……その、行なわれるわけですよね……？」

「はい。これが最後の情事になると思います」
頬を赤らめながら言う依頼者（人妻）。な、なんでセクシーなんだ！ そして、人妻が少し不安そうに尋ねてくる。
「シティホテルの出入りだけだと、不貞の証拠としては弱いと聞いたことがありますが、大丈夫でしょうか……？」
「おっしゃるとおりです。なので、肉体関係のある男女と推測できるような親密な様子も撮影しましょう」
撮影プランの打ち合わせに入る。
「不倫相手との待ち合わせはこのカフェです」「このレストランでランチをします」
「この角を曲がったら手をつなぎ始めます」「ホテルの部屋に入る直前の、この位置でキスをします」
……もはや、これは浮気調査ではない。完全なる〝シナリオのある不倫ドラマ〟だ。