上司からの電話
2025年11月19日
事件はラブホで起きている
探偵小沢
翌朝――電話の呼び出し音で目を覚ました。上司からの電話だった。
「あのさー小沢君、昨日の案件でちょっと聞きたいことがあるんだけどさ……」
上司はそう言って、少し低めの声で奥件を切りだし始めた。その瞬間、僕はすべてを察した。
(あぁ……やっちまったか……)
上司が少しダルそうなテンションで電話をかけてくるときは、決まって僕が前日にやった尾行に何かしらの落ち度があったケースがほとんど。浮気調査って、その日の尾行は上手くいったように思えても、実は対象者に尾行がバレちゃってて、わざと気づかないフリをして帰宅していた……なんてことが実際あったりする。これも〝探偵あるある〟で、おそらく今これを読んでいる同業者の方も、激しく頷いて首がちぎれてると思うw
今回のケースでいえば、昨夜奥さんが帰宅したあとに依頼者である旦那さんに対して「あんた、私を探偵で付けたでしょ! 尾行されてたのわかってんだからね!」「みたいな連絡が入った可能性がある。そして今朝になって、依頼者から探偵会社の営業担当に「おたくの探偵の尾行が妻にバレちゃってるじゃないですか! どうしてくれるんですか!」みたいなクレームが入った……営業担当から調査部の上司に連絡がいき、上司から尾行を失敗した僕が怒られる……なんてことが、たまにある。
「あ……えっと、昨日の奥さんの件ですよね……すみません、もしかして……僕の尾行バレちゃってましたか……?」
恐る恐る上司に確認する。
「いやぁさ、小沢に言ってもらったあの奥さん、昨夜、別居先で自殺しちゃったんだよね。昨夜尾行してるときに、なんか変わった様子ってあったりした? あと警察が〝参考にしたいから自殺直前の映像が欲しい〟って言っているんだけど、撮影データー早めに納品してもらうことってできる?」
状況が飲み込めなかった。
(オイオイオイオイ、待て待て。だって昨夜、奥さんに変な様子なんて何もなかったぞ……? とてもこれから自殺するような人間の動きには見えなかったし、同僚と来週の仕事についての話もしてたし……ってか、今夜自殺する人間がヒートテックなんて買うか……? じゃあ、最後の晩餐がプリンだったってこと? ええ? マジで?)
上司や依頼者からは詳しい話は聞けなかったらしいが、今朝になって奥さんがあの別居先で首を吊っているのが発見されたというのだ。
驚きをあまり一瞬で目が覚めた僕は、昨夜の映像を確認する。だけど、やっぱり変わった様子は何もないかった。もちろん僕の尾行に感づいている様子もまったくない。調査終了時に撮った別居先の部屋の明かりもしっかりと映っていた。
(このときは奥さんはまだ……いや、それとも、もうすでに……)
ドラマや小説などのフィクションの世界では、物語の最後に必ずトリックの種明かしや、胸のすくような伏線の回収がされ、最終的にはすべての謎探偵によって解明される。だけど、リアルな探偵の世界では、「結局、あれは何だったんだ?」というオチも種明かしも用意されていないようなケースは多い。
結局、この案件は昨夜が最初で最後の調査となった。そして、生前の奥さんの姿を見届けた最後の人間は、僕だったのかもしれない。
「あのさー小沢君、昨日の案件でちょっと聞きたいことがあるんだけどさ……」
上司はそう言って、少し低めの声で奥件を切りだし始めた。その瞬間、僕はすべてを察した。
(あぁ……やっちまったか……)
上司が少しダルそうなテンションで電話をかけてくるときは、決まって僕が前日にやった尾行に何かしらの落ち度があったケースがほとんど。浮気調査って、その日の尾行は上手くいったように思えても、実は対象者に尾行がバレちゃってて、わざと気づかないフリをして帰宅していた……なんてことが実際あったりする。これも〝探偵あるある〟で、おそらく今これを読んでいる同業者の方も、激しく頷いて首がちぎれてると思うw
今回のケースでいえば、昨夜奥さんが帰宅したあとに依頼者である旦那さんに対して「あんた、私を探偵で付けたでしょ! 尾行されてたのわかってんだからね!」「みたいな連絡が入った可能性がある。そして今朝になって、依頼者から探偵会社の営業担当に「おたくの探偵の尾行が妻にバレちゃってるじゃないですか! どうしてくれるんですか!」みたいなクレームが入った……営業担当から調査部の上司に連絡がいき、上司から尾行を失敗した僕が怒られる……なんてことが、たまにある。
「あ……えっと、昨日の奥さんの件ですよね……すみません、もしかして……僕の尾行バレちゃってましたか……?」
恐る恐る上司に確認する。
「いやぁさ、小沢に言ってもらったあの奥さん、昨夜、別居先で自殺しちゃったんだよね。昨夜尾行してるときに、なんか変わった様子ってあったりした? あと警察が〝参考にしたいから自殺直前の映像が欲しい〟って言っているんだけど、撮影データー早めに納品してもらうことってできる?」
状況が飲み込めなかった。
(オイオイオイオイ、待て待て。だって昨夜、奥さんに変な様子なんて何もなかったぞ……? とてもこれから自殺するような人間の動きには見えなかったし、同僚と来週の仕事についての話もしてたし……ってか、今夜自殺する人間がヒートテックなんて買うか……? じゃあ、最後の晩餐がプリンだったってこと? ええ? マジで?)
上司や依頼者からは詳しい話は聞けなかったらしいが、今朝になって奥さんがあの別居先で首を吊っているのが発見されたというのだ。
驚きをあまり一瞬で目が覚めた僕は、昨夜の映像を確認する。だけど、やっぱり変わった様子は何もないかった。もちろん僕の尾行に感づいている様子もまったくない。調査終了時に撮った別居先の部屋の明かりもしっかりと映っていた。
(このときは奥さんはまだ……いや、それとも、もうすでに……)
ドラマや小説などのフィクションの世界では、物語の最後に必ずトリックの種明かしや、胸のすくような伏線の回収がされ、最終的にはすべての謎探偵によって解明される。だけど、リアルな探偵の世界では、「結局、あれは何だったんだ?」というオチも種明かしも用意されていないようなケースは多い。
結局、この案件は昨夜が最初で最後の調査となった。そして、生前の奥さんの姿を見届けた最後の人間は、僕だったのかもしれない。