調査現場の闇
2025年11月19日
事件はラブホで起きている
探偵小沢
探偵業界において、僕が個人的に最も根深いと感じていること……それは、調査現場。
必ずしもすべての現場の調査員が「浮気の証拠を撮りたい」と思っているわけではない。探偵社には、真面目で優秀な調査員もいれば、完全にやる気ゼロの給料泥棒みたいな調査員もいる。前にも書いたけど、探偵って、当たりハズレが激しい。
かつて僕がいた某大手探偵社では、全調査員の3分の1が、まともに調査をしていなかった。
例えば、不倫カップルがラブホテルに入ると、「しばらくは出てこないだろう」と勝手に判断して、昼寝をする調査員がいた。パチンコを打ちに行ったり、飲食店でゆっくり食事をする調査員もいた。当然、数回に一度は、不倫カップルが予想外に早くラブホテルから出てきてしまい、証拠の撮影に失敗していた。
自分の落ち度で失尾したのに、会社から怒られるのが嫌で「対象者が急に警戒し始めたので、やむを得ず尾行を中止した」とか、「急に対象者がタクシーに乗ってしまったため追えなかった」なんて嘘の報告をする調査員もいた。対象者に尾行がバレて発覚しているにもかかわらず、会社には黙っている調査員なんかもいた。
なかには、「今日はどうしても参加したい飲み会があるから」という理由で、わざと失尾して早上がりをする奴もいたな……。
呆れる話ばかりなんだけど、これだけじゃ終わらない……さらに悪質なケースでいえば、完全に見張りを放棄している調査員もいた。
早朝に対象者の自宅前へ行き、まず家の外観を撮影。次にビデオカメラの時刻設定を8時間後に変更してもう一度撮影。そして、自宅に帰って昼寝をしたあとに「今日は空振りでした」と報告し、時間操作をした映像データを会社に提出。対象者と別居している依頼者も真偽を確かめる術がないのをいいことに、調査費用はそのまま請求されていた。しかもこうしたケースって、一件や二件の話じゃないんだよね。
ある調査チームでは、こうした〝隠蔽のテクニック〟が、先輩から後輩へとまるで秘儀のように伝授・継承され、幾年にもわたって組織ぐるみの隠蔽工作が常態化していた。こうした事実はのちに会社側にも発覚することになるんだけど、驚くべきことに会社は隠蔽工作の事実を知りながらも、依頼者には告げずに、すべてを闇に葬った……これは、もう立派な詐欺行為。
なぜか惜しいところで失尾した調査……なぜかラブホの証拠を取り損ねた調査……なぜか空振りが多い調査(当たり前だよ、見てないんだもんw)……こうした調査結果に対して、依頼者たちは何百万円ものお金を払っていたというわけ。
まあ、そんなことをやっていたせいもあってか、うちの会社ではクレーム率がまさかの70%。もはや「証拠を撮る」よりもいかに依頼者を泣き寝入りさせるか」が会社の主な業務内容と化していた。実際、クレーム担当がいちばん高い給料をもらっていたし、消費者センターへ定期的に挨拶まわりをする担当者がいたほど。
探偵業って、ズルをしようと思えばいくらでもズルができちゃう仕事。
張り込みをしていなくても「していた」と捏造することもできるし、尾行に失敗しても「全力は尽くしました」と言い張ることもできる。依頼者側も自分が探偵を雇ったことを配偶者に知られたくない立場がある手前、表立って声を上げづらい。つまり、探偵社にとって悪評が表に出づらいという、ありがたい構造がある。しかも、探偵社にはリピーターなんて存在しないから、たった「すべては依頼者様のためです!」とメディアで話した社長でさえ、役員の前では「依頼者は会社の財布です」とメディアでは絶対に見せない顔を見せていた。だから、依頼者よりも会社の利益を優先する考え方が心の底に染み付いていた。
現場で必死に働いている調査員に対しても「お前たちは使い捨てだ」と吐き捨てる始末だったから、優秀でまともな人間から辞めていって、社長の靴を舐めることができる者だけが残っていた。
この会社から学ぶことはもう何もないな……4年目にして、僕は会社を辞めた。
当時は「こんなにヒドイのって、うちだけかな?」とも思っていたけど、他社の友人探偵たちからも似たような話を聞いて、「ああ、それでこそ探偵業界だよなぁw」と無駄に安心したことを覚えている。だって、「この業界で、真っ当にやれば、それだけで勝てる」ということを意味するから。
さて、ここまで探偵業界について好き勝手書いてきたけど、最後に誤解のないように言っておきたいことがある。
僕が嫌いなのは、探偵業界の経営気質だ。なかでも、依頼者の気持ちも現場の調査員のことも考えずに、金の計算だけしている経営者たちが大ッ嫌いだし、探偵を名乗ってほしくないと心底思っている。
だけどその一方で、プライドを持って今日も現場に立っている調査員のことを、僕は心からリスペクトしている。自分自身もかつてはそうした調査員のひとりだったから、その苦労も喜びも葛藤も経営者への疑念も理解しているつもり。だから、もしこの本を読んで共感してくれた調査員の方がいれば、気軽に連絡をしてきてほしい。何か一緒にできることがあるかもしれないからね。
今後の探偵業界は、間違いなく〝属人性〟が物を言う世界になっていくと思うし、会社の看板ではなく、「誰にその調査を託したいか」で選ばれるようになっていきます。
広告、会社の規模、見かけの安心感……そんな、時代はもうすぐ終わる。
探偵業界の夜明けは、もうそこまで来ている。
必ずしもすべての現場の調査員が「浮気の証拠を撮りたい」と思っているわけではない。探偵社には、真面目で優秀な調査員もいれば、完全にやる気ゼロの給料泥棒みたいな調査員もいる。前にも書いたけど、探偵って、当たりハズレが激しい。
かつて僕がいた某大手探偵社では、全調査員の3分の1が、まともに調査をしていなかった。
例えば、不倫カップルがラブホテルに入ると、「しばらくは出てこないだろう」と勝手に判断して、昼寝をする調査員がいた。パチンコを打ちに行ったり、飲食店でゆっくり食事をする調査員もいた。当然、数回に一度は、不倫カップルが予想外に早くラブホテルから出てきてしまい、証拠の撮影に失敗していた。
自分の落ち度で失尾したのに、会社から怒られるのが嫌で「対象者が急に警戒し始めたので、やむを得ず尾行を中止した」とか、「急に対象者がタクシーに乗ってしまったため追えなかった」なんて嘘の報告をする調査員もいた。対象者に尾行がバレて発覚しているにもかかわらず、会社には黙っている調査員なんかもいた。
なかには、「今日はどうしても参加したい飲み会があるから」という理由で、わざと失尾して早上がりをする奴もいたな……。
呆れる話ばかりなんだけど、これだけじゃ終わらない……さらに悪質なケースでいえば、完全に見張りを放棄している調査員もいた。
早朝に対象者の自宅前へ行き、まず家の外観を撮影。次にビデオカメラの時刻設定を8時間後に変更してもう一度撮影。そして、自宅に帰って昼寝をしたあとに「今日は空振りでした」と報告し、時間操作をした映像データを会社に提出。対象者と別居している依頼者も真偽を確かめる術がないのをいいことに、調査費用はそのまま請求されていた。しかもこうしたケースって、一件や二件の話じゃないんだよね。
ある調査チームでは、こうした〝隠蔽のテクニック〟が、先輩から後輩へとまるで秘儀のように伝授・継承され、幾年にもわたって組織ぐるみの隠蔽工作が常態化していた。こうした事実はのちに会社側にも発覚することになるんだけど、驚くべきことに会社は隠蔽工作の事実を知りながらも、依頼者には告げずに、すべてを闇に葬った……これは、もう立派な詐欺行為。
なぜか惜しいところで失尾した調査……なぜかラブホの証拠を取り損ねた調査……なぜか空振りが多い調査(当たり前だよ、見てないんだもんw)……こうした調査結果に対して、依頼者たちは何百万円ものお金を払っていたというわけ。
まあ、そんなことをやっていたせいもあってか、うちの会社ではクレーム率がまさかの70%。もはや「証拠を撮る」よりもいかに依頼者を泣き寝入りさせるか」が会社の主な業務内容と化していた。実際、クレーム担当がいちばん高い給料をもらっていたし、消費者センターへ定期的に挨拶まわりをする担当者がいたほど。
探偵業って、ズルをしようと思えばいくらでもズルができちゃう仕事。
張り込みをしていなくても「していた」と捏造することもできるし、尾行に失敗しても「全力は尽くしました」と言い張ることもできる。依頼者側も自分が探偵を雇ったことを配偶者に知られたくない立場がある手前、表立って声を上げづらい。つまり、探偵社にとって悪評が表に出づらいという、ありがたい構造がある。しかも、探偵社にはリピーターなんて存在しないから、たった「すべては依頼者様のためです!」とメディアで話した社長でさえ、役員の前では「依頼者は会社の財布です」とメディアでは絶対に見せない顔を見せていた。だから、依頼者よりも会社の利益を優先する考え方が心の底に染み付いていた。
現場で必死に働いている調査員に対しても「お前たちは使い捨てだ」と吐き捨てる始末だったから、優秀でまともな人間から辞めていって、社長の靴を舐めることができる者だけが残っていた。
この会社から学ぶことはもう何もないな……4年目にして、僕は会社を辞めた。
当時は「こんなにヒドイのって、うちだけかな?」とも思っていたけど、他社の友人探偵たちからも似たような話を聞いて、「ああ、それでこそ探偵業界だよなぁw」と無駄に安心したことを覚えている。だって、「この業界で、真っ当にやれば、それだけで勝てる」ということを意味するから。
さて、ここまで探偵業界について好き勝手書いてきたけど、最後に誤解のないように言っておきたいことがある。
僕が嫌いなのは、探偵業界の経営気質だ。なかでも、依頼者の気持ちも現場の調査員のことも考えずに、金の計算だけしている経営者たちが大ッ嫌いだし、探偵を名乗ってほしくないと心底思っている。
だけどその一方で、プライドを持って今日も現場に立っている調査員のことを、僕は心からリスペクトしている。自分自身もかつてはそうした調査員のひとりだったから、その苦労も喜びも葛藤も経営者への疑念も理解しているつもり。だから、もしこの本を読んで共感してくれた調査員の方がいれば、気軽に連絡をしてきてほしい。何か一緒にできることがあるかもしれないからね。
今後の探偵業界は、間違いなく〝属人性〟が物を言う世界になっていくと思うし、会社の看板ではなく、「誰にその調査を託したいか」で選ばれるようになっていきます。
広告、会社の規模、見かけの安心感……そんな、時代はもうすぐ終わる。
探偵業界の夜明けは、もうそこまで来ている。