探偵の知識

ある程度の規模を誇る探偵社のほとんどは、調査現場の業務を自社で完結させていない。つまり、多くの現場を小規模の探偵社や個人経営の探偵などに「外注」している……それも非常に安いギャラで。
探偵の外注業者は完全な実力主義で、優秀な探偵も多い。だけど、実力はあっても集客力が乏しい探偵は、どうしても安く買い叩かれる。そして、そこで生まれる差額は、探偵社の懐にまるっと利益として入る仕組み。なかには、調査員がひとりも在籍しておらず、すべてを外注でまかなっている探偵社すらある。
そして、安い金額で外注して得た調査結果を、いかにも「われわれが、がんばって調査しました」という顔で依頼者に提供している。
つまり、「探偵社」を名乗ってはいるけど、その実態は「いかに依頼をもぎ取るか」だけに全力を注ぐ営業会社みたいなもの。
下請けのさらに、孫請けにまで仕事を流している探偵社も存在する。こうなるともう、完全に〝中抜き商売〟。依頼者のその後の人生がかかっている大事な調査が、最終的には、細切れの情報しか渡されていない人間に任されている……しかもその現場には、ギャラをギリギリまで削られ、疲弊した探偵が立っている。
探偵だって慈善事業じゃないし、営利ビジネスである以上、業務を外注すること自体は何ら問題ない。ただ、「探偵」という仕事の性質を考えれば、やっぱり、この構造は健全じゃないと僕は思う。
ここまで読んでくれたあなたなら、もう理解できるよね。大手探偵社のビジネスモデルのカラクリが。
そう……探偵社というのは、多かれ少なかれ、依頼者からの調査料金を存分に搾取しなければ、どうしたって大手にはなれない構造なんだ。
立派な事務所の家賃も、フカフカの応接用ソファーも、何百万円単位の広告費も、すべて誰かが負担しているという現実がある。それを負担しているのは、この本を手にしなかった不運な依頼者たち、ということになる。
逆にいえば、依頼者にとって〝良い探偵社〟ほど、大手にはなれない。
価格設定は良心的、調査力もあって、一件一件の調査を誠実にやっている中小規模の探偵社もちゃんとあるんですよ。でも、そんな探偵社の代表を務める友人は、いつも「経営が厳しいw」とヒイヒイ言っている。なんとも、皮肉である。でもこれって〝闇〟というよりも、探偵業というビジネスモデルが必然的に抱える〝歪み〟だよね……。