ホーム

探偵の知識

悪徳探偵がやりたい放題だった時代があった

2025年11月19日

事件はラブホで起きている
探偵小沢

あまり知られてはいないけど、日本には探偵の法律が存在する。
その名も……「探偵業の業務の適正化に関する法律」。
正式名称がちょっと長いので、探偵業界の人間は「探偵業法」と呼んでいる。
この探偵業法によって、探偵業が「正当業務行為」として初めて国に認められた。施行されたのが2007年(平成19)なので、実は「探偵」というのは、意外と比較的最近になってやっと明確に定義された職業だったりする。

当然、この法律ができる前からも、探偵業は存在していた。だけど、当時は探偵業の明確な定義やルールなどが存在していなかったせいで、悪徳探偵による契約内容をめぐるトラブル、違法な調査や犯罪行為、秘密を利用した恐喝などがあとを絶たなかった。文字通り「無法地帯」と化していたのだ。

ちなみに僕の探偵デビューは、この探偵業法ができたあとだったので、探偵業法制定以前のカオスな探偵業界を体験したことはない。だけど、先輩探偵の方々から当時の話を聞くかぎり、人の弱みにつけこんだ悪徳探偵がやりたい放題の時代だったらしい。
以下に例を挙げると……。

・契約して調査料金をもらったら、そのまま行方をくらますまず悪徳探偵。
・不法侵入や盗撮など、他人のプライバシーを侵害しまくりながら調査をする悪徳探偵。
・旦那さんの浮気調査をするも「シロ」だったので、女性のサクラを仕込んで人混みや電車内で旦那さんと寄り添う姿を撮影。それを依頼者に「警戒されて追えませんでしたが、追加の調査をすれば証拠がつかめると思います!」と報告して追加契約を迫る悪徳探偵。
・浮気調査で不貞の証拠撮影ができたら、「クロだった」という本物の調査報告書と、「シロだった」というニセの調査報告書を作成。そしてまずは、対象者である旦那さんに接触して本物の報告書を高額で買い取らせ、それから依頼者である奥さんには調査料金をもらったうえでニセの報告書を渡す。依頼者と対象者から二重取りをする悪徳探偵。

当時の探偵業界では、右に記したような不適正かつ悪質な営業活動が頻発していたらしい。
なかには、年間で10億円も稼いだ悪徳探偵社もあり、その不正の手口を自慢気に語っていたというし、探偵業という肩書が暴力団関係のビジネスの隠れ蓑になっていたと聞く。

もちろん、探偵業法制定前のすべての探偵業者が詐欺や恐喝を行なっていたわけではないし、真っ当に仕事をしていた探偵業者もちゃんと存在したはず。だけど、悪質な業界の状況に鑑み、探偵業法が立法化されたという背景があったのは紛れもない事実。
つまり、探偵業法は、悪質な探偵業者を〝規制〟するためにできた法律というわけ。
なので条文のほとんどが、「君たち探偵はあれやっちゃダメだよ、これもやっちゃダメだよ」というふうに、ガチガチに規制をかけるような建て付けになっている。

「法の不知はこれを許さず」という言葉があるように、僕はこの探偵業法については法の趣旨や解釈も含め熟知しているけど、別にこの本は探偵学校の教科書というわけじゃない。しかも、探偵業法は21条(2025年6月時点)もあるので、そのなかでも特に大事な条文をふたつピックアップしてご紹介しよう。