不倫相手の号室の特定は重要なポイント
2025年11月19日
事件はラブホで起きている
探偵小沢
僕がまだ新人だったころの話。
当時、ある奥さんからの依頼で旦那さんの浮気調査をしていた。旦那さんの不倫相手はラウンジ嬢。すでにこの時点までの調査で、旦那さんとラウンジ嬢が一緒にラブホテルを出入りする証拠映像の撮影には成功しており、彼女が勤務する店舗も特定していた。
だけど、最後の詰め……自宅マンションの号室の割り出しが、どうしてもできなくて、僕は頭を悩ませていた。
ちなみに探偵に浮気調査の依頼をする依頼者さんからすれば、不倫相手の号室の特定は非常に重要なポイントとなる。なぜなら、号室がわからないと慰謝料請求の内容証明郵便を送ることができないからだ。
尾行で特定したラウンジ嬢が住んでいるマンションは、港区にある某タワーマンション。新築20階建ての大型物件で常駐の管理人がいること、監視カメラも多いことなどから、セキュリティは万全。もちろん、外部から各部屋の玄関のドアを見ることはできないし、不倫相手の女性と一緒にマンションの中に入れば、不法侵入になってしまうので、コンプライアンス的にもアウト。彼女が何号室に住んでいるかの割り出し作業は、困難を極めた。
「ふ〜ん。俺なら、号室割れるで」
「困ったなぁ……」
事務所で僕が頭を抱えていると、先輩Mさんがやってきた。
Mさんは関西出身で、性格的にはちょっといい加減な面もあるが、どこか憎めない人だ。
「小沢君、例のラウンジ嬢の案件、手こずってるみたいやん?」
「そうなんですよ、不貞の証拠は撮れて勤務先も判明して宅割りまでしたんですが、号室の割り出しがちょっと厳しくて……」
「ふ〜ん。俺なら、号室割れるで」
「え、マジですか!?」
「おう、まかせとき」
「え? でも、どうやって号室特定するんですか?」
「そんなもん、本人に直接聞いたらええやろ。ほな、今からその娘のお店に内偵調査いくから、小沢君もついてきい」
Mさんはとんでもないことを言い出す。
「まじっスか!? 直接聞くって、いったいどんな作戦でいくんですか?」
「あー、もう大丈夫大丈夫。全部俺にまかしとき。小沢君はいつもどおりでええから」
こうしてその日の夜、Mさんと僕は不倫相手である優子(仮名)の働いているラウンジに向かった。入店すると、Mさんは優子を指名、僕も他の女を適当に指名した。席に座って優子たちを待っている間、僕はドキドキしていた。
先週までの調査で何度も優子を尾行してきた僕が、まさか自分から姿を見せる日がくるなんて、想像もしていなかった。
探偵は、「常に影の人物であれ」というのが基本スタンス。調査対象者と直接会話をすることはタブーとされている。だけど、そんな探偵のセオリーなどまったく関係ないかのように、Mさんは椅子にドカッと深く座って堂々とタバコを吸っている。
(なんて大胆不敵な人なんだ……!)
「こんばんは〜」
優子たちが現れた。Mさんと優子、そして僕についた別のラウンジ嬢の4人で宝剣を飲みながら、話し始める。
関西弁で喋る、ちょっと胡散臭いキャラのMさんは、さすがに女の子を楽しませる術を心得ていて、ふたりの女の子ととんどん打ち解けていく。
当時の僕も新人探偵とはいえ、女の子とのトークには多少の自信があったので、負けじと場を盛り上げながら、ゆっくり時間をかけて彼女たちとの距離を縮めていった。
優子「Mさんも小沢君もおもしろい〜、楽しくてもうどっちが客さんだかわからないやぁ(笑)」
よし! 状況的にはいい感じだ。もはや僕たちの正体が内偵調査に来ている探偵だとは夢にも思ってしまい……だけど、ここからどうやって、優子が住んでいるマンションへ話を持って行って、かつ怪しまれることなく号室を聞き出すんだろう……?
「俺が独自に編み出した、めちゃくちゃ的中率の高い特殊な占い」
そんなことを考えていると、ついにMさんが仕掛けに出た。
Mさん「そういえば俺、占いできるんや」
女子「そうなんだ。生年月日とかで? 手相とかで?」
Mさん「あーちゃうちゃう。そんなありきたりな占いじゃなくてな。俺が独自に編み出した、めちゃくちゃ的中率の高い特殊な占いや」
優子「え〜、どんな占いなの?」
Mさんがドヤ顔でこう言った。
「号室占いや」
ちょっと……この人、天才かよ!
女子「何それ、変なの(笑)」
Mさん「でも、これが当たるんや。試しに言うてみ?」
女子「あたし、302号室やけど」
Mさん「あぁ〜302号室ね。ハイハイ……302号室に住んでる20代前半の女の子ってはな……」
適当なことを言うかと思いきや、先程までの会話で仕入れた彼女の性格や情報を踏まえたホットリーディング的な内容で、横で聞いていても普通の占いが言いそうな、〝それっぽい内容〟をMさんが話している……恐るべし、号室占い……!
女子「すごーい! けっこう当たってるかもー!」
Mさん「せやろ?」
優子「え、じゃあ、私も占って! 私は803号室!」
一瞬、Mさんと僕の目が合った。
(勝った……!)
それから僕は、ひとり雑談をして、僕らは店をあとにした。
こうしてMさんの活躍によって、依頼者さんには不貞の証拠に加えて、不倫相手の個人情報もバッチリ揃えて調査報告を終えることができた。
このMさんの必殺技「号室占い」は探偵仲間の中でも、いまだに伝説になっている。
そういえば、Mさんが優子に占いの鑑定結果を伝えたとき、最後にこんなことを言っていた。
「……あとは、近いうちに自分のしたことに対しての天罰が下る可能性が高いから要注意やで」
で、ラッキーアイテムは郵便物や
当時、ある奥さんからの依頼で旦那さんの浮気調査をしていた。旦那さんの不倫相手はラウンジ嬢。すでにこの時点までの調査で、旦那さんとラウンジ嬢が一緒にラブホテルを出入りする証拠映像の撮影には成功しており、彼女が勤務する店舗も特定していた。
だけど、最後の詰め……自宅マンションの号室の割り出しが、どうしてもできなくて、僕は頭を悩ませていた。
ちなみに探偵に浮気調査の依頼をする依頼者さんからすれば、不倫相手の号室の特定は非常に重要なポイントとなる。なぜなら、号室がわからないと慰謝料請求の内容証明郵便を送ることができないからだ。
尾行で特定したラウンジ嬢が住んでいるマンションは、港区にある某タワーマンション。新築20階建ての大型物件で常駐の管理人がいること、監視カメラも多いことなどから、セキュリティは万全。もちろん、外部から各部屋の玄関のドアを見ることはできないし、不倫相手の女性と一緒にマンションの中に入れば、不法侵入になってしまうので、コンプライアンス的にもアウト。彼女が何号室に住んでいるかの割り出し作業は、困難を極めた。
「ふ〜ん。俺なら、号室割れるで」
「困ったなぁ……」
事務所で僕が頭を抱えていると、先輩Mさんがやってきた。
Mさんは関西出身で、性格的にはちょっといい加減な面もあるが、どこか憎めない人だ。
「小沢君、例のラウンジ嬢の案件、手こずってるみたいやん?」
「そうなんですよ、不貞の証拠は撮れて勤務先も判明して宅割りまでしたんですが、号室の割り出しがちょっと厳しくて……」
「ふ〜ん。俺なら、号室割れるで」
「え、マジですか!?」
「おう、まかせとき」
「え? でも、どうやって号室特定するんですか?」
「そんなもん、本人に直接聞いたらええやろ。ほな、今からその娘のお店に内偵調査いくから、小沢君もついてきい」
Mさんはとんでもないことを言い出す。
「まじっスか!? 直接聞くって、いったいどんな作戦でいくんですか?」
「あー、もう大丈夫大丈夫。全部俺にまかしとき。小沢君はいつもどおりでええから」
こうしてその日の夜、Mさんと僕は不倫相手である優子(仮名)の働いているラウンジに向かった。入店すると、Mさんは優子を指名、僕も他の女を適当に指名した。席に座って優子たちを待っている間、僕はドキドキしていた。
先週までの調査で何度も優子を尾行してきた僕が、まさか自分から姿を見せる日がくるなんて、想像もしていなかった。
探偵は、「常に影の人物であれ」というのが基本スタンス。調査対象者と直接会話をすることはタブーとされている。だけど、そんな探偵のセオリーなどまったく関係ないかのように、Mさんは椅子にドカッと深く座って堂々とタバコを吸っている。
(なんて大胆不敵な人なんだ……!)
「こんばんは〜」
優子たちが現れた。Mさんと優子、そして僕についた別のラウンジ嬢の4人で宝剣を飲みながら、話し始める。
関西弁で喋る、ちょっと胡散臭いキャラのMさんは、さすがに女の子を楽しませる術を心得ていて、ふたりの女の子ととんどん打ち解けていく。
当時の僕も新人探偵とはいえ、女の子とのトークには多少の自信があったので、負けじと場を盛り上げながら、ゆっくり時間をかけて彼女たちとの距離を縮めていった。
優子「Mさんも小沢君もおもしろい〜、楽しくてもうどっちが客さんだかわからないやぁ(笑)」
よし! 状況的にはいい感じだ。もはや僕たちの正体が内偵調査に来ている探偵だとは夢にも思ってしまい……だけど、ここからどうやって、優子が住んでいるマンションへ話を持って行って、かつ怪しまれることなく号室を聞き出すんだろう……?
「俺が独自に編み出した、めちゃくちゃ的中率の高い特殊な占い」
そんなことを考えていると、ついにMさんが仕掛けに出た。
Mさん「そういえば俺、占いできるんや」
女子「そうなんだ。生年月日とかで? 手相とかで?」
Mさん「あーちゃうちゃう。そんなありきたりな占いじゃなくてな。俺が独自に編み出した、めちゃくちゃ的中率の高い特殊な占いや」
優子「え〜、どんな占いなの?」
Mさんがドヤ顔でこう言った。
「号室占いや」
ちょっと……この人、天才かよ!
女子「何それ、変なの(笑)」
Mさん「でも、これが当たるんや。試しに言うてみ?」
女子「あたし、302号室やけど」
Mさん「あぁ〜302号室ね。ハイハイ……302号室に住んでる20代前半の女の子ってはな……」
適当なことを言うかと思いきや、先程までの会話で仕入れた彼女の性格や情報を踏まえたホットリーディング的な内容で、横で聞いていても普通の占いが言いそうな、〝それっぽい内容〟をMさんが話している……恐るべし、号室占い……!
女子「すごーい! けっこう当たってるかもー!」
Mさん「せやろ?」
優子「え、じゃあ、私も占って! 私は803号室!」
一瞬、Mさんと僕の目が合った。
(勝った……!)
それから僕は、ひとり雑談をして、僕らは店をあとにした。
こうしてMさんの活躍によって、依頼者さんには不貞の証拠に加えて、不倫相手の個人情報もバッチリ揃えて調査報告を終えることができた。
このMさんの必殺技「号室占い」は探偵仲間の中でも、いまだに伝説になっている。
そういえば、Mさんが優子に占いの鑑定結果を伝えたとき、最後にこんなことを言っていた。
「……あとは、近いうちに自分のしたことに対しての天罰が下る可能性が高いから要注意やで」
で、ラッキーアイテムは郵便物や