ホーム

探偵の知識

実は尾行よりも難易度が高い「張り込み」

2025年11月19日

事件はラブホで起きている
探偵小沢

張り込みは、対象者を追いかけ続ける尾行に比べて、対象者をただひたすら待っていればいいだけだから、忍耐力さえあれば素人でもある程度はできそうみたいに思われがちだが、まったくそんなことはない。実は張り込みのほうが、尾行よりも難しいのだ。
浮気調査中の尾行と張り込みは、実働時間の割合でいえば、「尾行2:張り込み8」程度の割合だ。
尾行よりも張り込みをしている時間のほうが圧倒的に長いため、地味な張り込みは探偵にとってスキルに差が出やすいことも特徴。
そもそも張り込みが下手だと、調査の本番である尾行自体をスタートさせることができない。
つまり、どんなに尾行が上手い探偵でも、この張り込みが苦手だと、「ゲームオーバー」になってしまう。
にもかかわらず、比較的派手な印象がある尾行に比べると張り込みは超地味であるため、依頼者さんからも「素晴らしい尾行ですね」とはよく褒められるけど、「素晴らしい張り込みですね」と褒められることは、ほぼない。
だけど、張り込みがうまくいったからこそ、成功した浮気調査の現場は数知れない。
張り込みは、辛いのよ……。いつ出てくるかわからない対象者を、見逃すことがないように集中して監視し続けなきゃいけないから、想像以上に過酷だし、忍耐力が必要なのよ。
通常、張り込みは劣悪な環境下で行なわれることが多い。
ドラマやアニメに登場する探偵は、車の中から張り込んだり、喫茶店の中からガラス越しに張り込んだり、向かいのビルの屋上から双眼鏡を使って張り込んだりしているけど、現実世界の探偵である僕から言わせてもらえば、「いやいや、そんな恵まれた環境でヌクヌクと張り込めることなんて、めったにないだろw」と言わざるを得ない。
そうそう都合よく、長時間怪しい車が止まっていても不審に思われない場所や、喫茶店の向かいに都合よく張り込む場所があるケースのほうが少ないし、ビルの屋上は不法侵入エリアだからね。だから、だいたい、の場合は立って張り込むことになる。
晴れの日だろうが、雨の日だろうが、台風の日だろうが、雪の日だろうが、早朝だろうが、深夜だろうが、都会だろうが、田舎だろうが、真夏の猛暑のなかだろうが、真冬の極寒のなかだろうが、張り込まなければいけない。喉が渇こうが、お腹が空こうが、睡眠不足だろうが、疲れていようが、蚊が多い場所でフルボッコに刺されようが、張り込まなければいけない。
どうしても女子高の横からでなければ監視が見えない場合、女子高生の朝の登校時間から下校時間まで、ずっと立って張り込みを続けなきゃいけない。当然、「ガチロリ不審者」を見るような目に睨まれるリスクも覚悟の上である。
加えて、肉体的な問題だけでなく、精神的な問題も襲いかかってくる。本当に長時間張り込み続けていると、極度の疲労から「俺って、なんでこんな場所でこんなに辛いことをやっているんだろう……」と感じてしまうことだってある。延々と張り込みをしていると、どうしても「油断」や「怠慢」が出てくるものなのだ。中堅の探偵以上になってくると、さらに「過信」なんかも芽生えてくる。
張り込みは己の精神との戦いでもあるのだ。

そして、なぜ張り込みが尾行よりも難しいかというと、尾行はバレてはいけない相手が対象者に限定されるけど、張り込みは周囲の人間に対してもバレないようにしなければならないからだ。
間違ってもトレンチコートを羽織りながら、電柱の陰でアンパンと牛乳を手に張り込むなんて、論外だ。