探偵の知識

②観察と想像力

2025年11月19日

事件はラブホで起きている
探偵小沢

安定した尾行を行なうには、対象者を観察し、想像力を働かせる必要がある。
ところで、人間の動きには「予備動作」というものが必ず存在する。予備動作とは人間が何か行動を起こす前に行なう準備の動き「予兆」のようなものである。目線、歩く速度、身体の重心、姿勢などをしっかりと観察することで、対象者の行動をある程度、事前に察することができる。
例えば、対象者が急に後ろを振り返ることがたまにあるが、その振り返りにも予備動作として、歩幅の変化や頭の動きなど、わずかな予兆がある。それさえ見逃さなければ、こちらも対象者の急な動きにスムーズに対応することができる。
たまにネット上の探偵記事などで、「探偵は対象者と目が合わないように、対象者の靴を見ながら尾行します」などと、ドヤ顔で書いてあったりするんだけど、そんな尾行をしているのは新人探偵だけ。しっかり対象者を観察しなければ、決定的な証拠を押さえることはできない。
かの大探偵の探偵、シャーロック・ホームズも、こう言っておられる――。
「ただ見るんじゃない、観察しろ」
想像力も大事。ちょっと想像してほしい。
対象者がいきなり小走りになったら?
頻繁にスマホをいじりだしたら?
道路わきでキョロキョロしだしたら?
対象者がこうした行動を取るには、必ず何かしらの理由がある。その理由を導き出すためには、想像力を働かせる必要がある。
対象者の様子はもちろんのこと、周りの状況、時間帯、シチュエーション、依頼者から提供された事前情報などからも、推測できるかもしれない。「もし自分が対象者の立場だったら……」というふうに想像力を働かせることで、対象者の動きが読めてくるし、尾行の安定度が爆上がりする。想像力は、「常識力」とか「共感力」と言い換えることもできると思う。探偵という職業は、尾行や張り込みといった、世間一般的な常識や日常とはかけ離れた行動が多いため、「社会不適合者」のする仕事みたいな印象を持たれ傾向がある。だけど、実際に探偵の仕事には常識や共感力といったバランス感覚が不可欠となる。だから、探偵は社会不適合者や、他人の気持ちが想像できないサイコパスには務まらない仕事だったりする。