探偵の知識

実在!ストーカー母親

2025年11月19日

図解 秘探偵・調査マニュアル
渡邉 直美

自分の子供の動向を調べてほしい、という依頼が急増中ということはすでに述べた。しかし、そのほとんどは女の子の調査で、男の子の調査というのはほとんどない。だからこそ、たまに舞い込んでくる男の子の調査は、意外な展開を見せることが多い。
山形県に住むお母さんから電話で依頼された"東京で大学に通っている息子と連絡がつかなくなってしまったので、どこにいるのか調べてほしい”という件もそうだった。詳しく話しを聞いたところ、手紙は届いているらしい(戻ってこないから)のだが返事は来ず、電話も通じなくなってしまった。しかも、盆暮れ正月にもまったく帰ってこないという。
早速、私は郵便の送り先の住所へ向かった。しかし、そこに対象者は住んでいなかった。では、なぜ手紙が届くのか?私はここに住んでいる男性が、対象者と友人であると見当をつけ、張り込みを開始した。数日後、思ったとおり彼は大学で対象者と接触。何なく対象者の居場所を掴むことができた。彼は同級生の女性と同棲していた。
私は早速、山形で連絡を待つ母親に調査結果を報告をしたのだった。数日後、くだんの母親から手紙が届いた。そこには、丁重なお礼とともに"息子に直接渡して、目の前で封を開けて読むのを見届けてほしい”と書かれており、息子さん宛ての封筒が入っていた。
通常このような状況で対象者に接触はしないのだが、手紙を渡すくらいなら…....という軽い気持ちで私は彼の元を訊ねた。
「あの1つ、私、山形のお母さんの知人でして、この手紙をあなたに届けるように頼まれたんです」私がこういうと、彼はあからさまにイヤな顔をし、「そんなもん受け取れません」と言った。
私は、「受け取ってもらえないと帰れないんです。お願いですから受け取って読んでください」と彼にお願いした。十分ほどの押し問答の末、彼は折れてくれしぶしぶ手紙を読みはじめた。手紙を読み進むうちに彼の顔色はみるある血の気を失っていき、読み終わるのと同時に彼は土下座をし「お願いですから助けてください。
見逃してください!!」と私に懇願しはじめた。いったいどういうことなのだかわからず、私はその手紙を読ませてもらった。するとそこには”今、あなたの目の前にいるのは探偵さんですよ。あなたがどこへ逃げてもその探偵さんに探し出してもらいますからね”と鬼気迫る字で書かれていた。
彼の話しによると、山形のお母さんは子供の
頃から異常なほど彼を溺愛、束縛し、身の危険を感じたこともあるほどだったという。東京の大学に合格したことを口実に、なんとか母親の元を飛び出してきたとのこと。母親から逃れるために、下宿先を友人と交換し、電話も取り外すという、まるで時効を待つ犯罪者のような生活を送ってきたらしい。
私は、探偵にはあるまじき行為とわかっていたものの、彼のあまりにも真剣な懇願に心を打たれ、彼の逃亡を助けるべく寝返ってしまった。むろん、調査費用はすべて母親に返済し、申し訳ないがこれ以上はご協力し兼ねるという内容の手紙も送った。
ほどなく、私の元に差し出し人不明の郵便が届いた。恐る恐る封を切り、中に入っていた1枚の便箋を開いてみると、そこにはたった1行”あなたまで息子の味方をするのね”と書かれてあった......。
ちなみに、彼は無事姿を隠しとおすことができており、来年大学卒業の予定だ。