探偵の知識

浮気調查で拉致監禁

2025年11月19日

図解 秘探偵・調査マニュアル
渡邉 直美

10年も探偵稼業をやっていると、失敗だってすることがある。その中でも最大の失敗というと、やはり対象者に拉致されてしまったことではないだろうか。
それは、私が探偵になってまだ数年も経っていないときのことだった。仕事はいたって簡単な浮気調査だった。女性から電話で「主人が浮気をしているらしいので、1週間ほど尾行してしらべてほしい」という依頼が入り、私は男性の先輩と一緒に調査を開始した。
対象者は金融関係の会社の社長。会社の入っているビルの出入り口はひとつ、そして行動も徒歩圏内といたって簡単な尾行だった。
数日後、この仕事に高をくくった私は1人で尾
行をすることにした。対象者が路地にスッと入っていった。失尾しないよう私は早足でその路地へ入っていった。すると、そこには対象者がこちらを向いて立っているではないか!!彼は私の腕を掴まえてこう言った。
「あんた、何日か前からずっとオレのことつけているようだけど、誰に頼まれたんだ!」私はあまりにも驚いたため、声が出なかった。
しかし、彼はそうは思わなかった。
「しゃべりたくないんなら、オレの事務所へ行こうか」私は、こうして腕を掴まれたまま、対象者の事務所へと連れて行かれてしまった。そこには、ちょっとガラの悪い社員達の詰問が待っていた。「どこのヤツに頼まれたんだ」「あんた、いったい誰だ!」等々。私は調査が失敗した落胆と拉致されたショックであいかわらず声がでないままだった。
しばらくすると、社員の1人が私の持ち物の中から携帯電話を見つけ出し、リダイヤルボタンを押した。拉致される寸前、私は事務所に定時連絡を入れていたため、電話は事務所へかかってしまった。
「あんた誰だか知らないが、あんたのところの女、預かっているから引き取りにきな」事務員から電話をひったくり、社長はこう言った。
ほどなく、上司が私のことを迎えに来てくれた。
むろん、対象者たちはどこの依頼で調査しているのか執拗に聞いてきた。しかし、我々(私はあいかわらず無言状態)は「依頼者のことは何も言えない。知りたいなら弁護士に連絡してください」と突っぱね、件の事務所を後にした。
数日後、依頼者が事務所にやってきた。彼女は、事の次第をご主人(対象者)から聞いて、調査をお願いしたのは自分だと白状してしまったのだそうだ。当時、対象者はかなりきわどい仕事をしていたらしく、それで必要以上に神経質になっていたらしい。奥さんが、浮気の調査をしてもらっていたと白状したところ、対象者は怒るどころかホッと胸をなで下ろしていたという。
どんなに簡単そうに見える調査でも、高をくくってはいけないと痛切に感じた一件だった。