聞き込みのテクニック
2025年11月19日
図解 秘探偵・調査マニュアル
渡邉 直美
信用調査、結婚調査、行方調査、雇用調査などをはじめ、多くの調査で必要となる聞き込み。張り込みなどと同様、探偵が刑事とは違う一般民間人でしかないことを痛感させられる仕事のひとつである。「こういう者ですが」と、名乗らずに情報を取り出すというのは、かなり骨の折れる作業なのである。しかし、人の口には戸は立てられない”というが、やりかたしだいでは大きな成果につながることもある。ちなみに私の場合は、困っているポーズや涙が得意。ま、これは女探偵ならではの武器なのではあるが..。
さて、聞き込みに行くときにも、張り込みや尾行のときの同様に、適切な服装というものがある。単に人目を忍ぶために目立たないかっこうをするのではなく、TPOを考えてコーディネートしなければならない。たとえば、空気のおいしい田園風景の広がっているような地域へ出向くのに、銀座辺りのホステスのようなかっこうをしているのは不適切。
探偵という身分を隠す以上、それに変わった身分を聞き込み相手に告げることになる。その点を考慮して服装を決めるわけだ。意外なテクニックとしては、なるべく重そうに見える荷物を持っていき、がんばっていることをアピールすること。その姿を見て相手が同情的になり、「まあ、ちょっと休んでいきなさい」などと展開することもある。それを聞き込み開始の糸口にしない手はない。
聞き込みにかけられる時間は、行方調査以外なら、1つの地域につき1~15日間。
というのも、同じ地域で何日間も聞き込みをしていると、「〇〇のことを聞き回っている人間がいる”という噂が立ってしまうからなのだ。それが対象者の耳に入ってしまうと、その後の調査に悪影響を及ぼすことが予測される。また、1つの地域で最低5軒は聞き込みをするのが鉄則。制限された時間内で、どれだけの情報を収集できるかはテクニックにかかっている。ただし行方調査の場合、同じ相手に2度、
3度と聞き込みをしてみる価値はある。1度目の聞き込みでは突然のことで思い出せなかったことも、回を重ねていくうちに思い出すことがあるからだ。
聞き込みをする相手の選定は、対象者と比較的遠い関係者から、徐々に身近な関係者へと移行していく。業界では、これを「渦巻きの法則」という。対象者の身近な関係者に聞き込みをすれば、調査をしていることが対象者の耳に入りやすいのはいうまでもない。
情報を効率よく引き出すためには、地域ごとに聞き込みをする場合なら、できるだけそこに長く住んでいる人間にあたってみる。居住年数ともっている情報量は、比例していることも少なくないからだ。隣近所との付き合いがあまりない都会のアパートやマンションでも同様で、長く住んでいる人ほど、そのフロアの管理人的な存在であることがある。とにかく、自分勝手な判断基準で諦めるのではなく、ダメ元であたってみるという地道な方法しかないのだ。
行方調査以外は、同じ相手に聞き込みをしてはいけない。つまり一発勝負だ。だから相手の忙しいときにいっても望みは薄い。相手の年齢、職業、地位などを考慮する。あくまでも、話を聞かせて”もらう"というスタンスを崩してはいけない。
強引なアプローチにより生活を邪魔された相手は不機嫌になり、なかなか情報を提供してくれなくなってしまうもの。主婦のおばちゃんたちは、噂好きでとても協力的なことが多いが、それも生活サイクルをある程度予測してから訪ねて行かねばならない。お昼の連ドラをはじめとするTVの人気番組を放映している時間帯などは避けたほうが得策だ。
噂好きなおばちゃんたちが協力的なのはありがたいが、必ずしも情報の確度が高いとはかぎらないのが注意点。話に尾ヒレがついていることも少なくないので、必ず裏を取る必要がある。同じ質問を最低3人にぶつけてみるというのもいい。また、噂好きなおばちゃんたちは、聞き込み後に、「〇〇の件について聞かれた"ことを
互いに話し合ったりもするので、同じ質問を複数の人間にしておくことにより、「話したのは私だけではない」という安心感を与えるという効果もある。
あまり協力的ではないことが多いが、男性の話を聞くことも必要。男性から得た情報というのは、多くの場合、尾ヒレがついていることがないからだ。女探偵の場合、こういうときに、困っているポーズ、涙、重そうな荷物を持ってがんばっている、といった武器を使うと効果的なのだ。
とはいうものの、探偵という身分を明かすことができない以上、どうすれば初対面の人間の口を軽くすることができるかというと、やはりそれなりの仕掛けは必要になる。「紳士録の事前調査”などと、ダミーのアンケートに応えてもらい、その雑談に見せかけて本来の聞き込みをするとか、銀行のローン審査(電話のほうが自然)に見せかけるとか、場合によっては、聞き込みをしやすい結婚調査とするなど、やりかたはいろいろ。聞き込みの具体的なノウハウに関しては、自分で考えることも仕事なのである。
話を聞く態度についても研究をしておくべきである。まず、常識的な点からいうと、礼儀正しくすることである。話を聞く前は礼儀正しく接していたのに、目的とする情報が得られなかったりすると、無礼者に早変わりして辞してしまうなんてことにならないように注意する。のんびりしていられる状況ではないから、気持ちはわからないでもないが、聞き込みで悪い評判を立ててしまうと、結局は自分が損をすることになる。話を聞いているときは、笑顔を絶やさず、相手に不快感を与えないように配慮する。間違っても、疑うような目つき、下から覗き込む、下を向いて話を聞く、などといった態度はとってはならない。必ず相手に悪い心証をあたえることになるからだ。話を聞くときには、必ず相手の正面に立ち、真剣な態度で接しておくことだ。
また、こちらが聞きたい話をいきなり切り出しても、相手に不審感を与えることになるので、まずは、聞き上手に徹して、相手に話をさせてやるのもコツである。
家のことなどをそれとなく褒めたりするのもテクニック。
「いいお家ですねぇ」とか「スゴいクルマですねぇ」などと、さり気なくめられたら、誰だって悪い気はしないもので、そこから突破口が開けることも少なくない。さらに冗談なども交えて世間話でもしているうちに舌が滑らかになってきたのを見届けたら、それとなく本題に入っていくのがスマートなやりかたというものだ。
話法についても常にソフトタッチを心掛ける。威圧的な態度で迫れば相手は引いてしまう。
具体的な内容は各調査によって千差万別だが、その聞き出し方については、常に
"5W1H"を念頭に入れておく。"いつ"”どこで”
誰が""なぜ""どんな
ふうに”といったことは、ひとつでも矢けてしまうと、有益な情報としては成り立たない。もちろん、相手を追及するような質問責めにならないように気をつけなければならないが。
そのためにも、事前に質問の流れを組み立てておく必要がある。事前の準備がしっかりしていないと聞き込みにも時間がかかってしまう。先述のとおり、聞き込みのできる時間は制限されているし、モタモタしていて対象者に待ち伏せされたなどというシャレにならない事態にもなりかねないのだ。
内容的に絶対にタブーな質問がある。それは対象者の子どもの話題だ。初対面の人間がやってきて、よその家庭の子どもの話題を持ち出してきたら、誘拐などの犯罪を連想しない人はいないだろう。同様に、"家族で旅行へ行くのか?”といった質問も、窃盗の下調べと誤解される。聞き込みをする際に、相手に悪い印象を与えたら、多くの場合、対象者の耳に入ると考えていい。もともと、私たちが聞き込みをしているのは、対象者と何らかの関係(付き合いはないけど近所に住んでいるなども含める)をもっている人たちなのだということを忘れてはいけない。
"5W1日”を重視するあまり、質問が誘導尋問のようになっていないかどうかも確認しておく。聞き込みという作業は、証言を取るのではなく、あくまでも事実を調査するために行うのだ。細かく限定された情報を得ようと焦って、「〇〇なんですね?」といった肯定質問や「XXではないですね?」といった否定質問のように、暗示、誘導になりそうな質問をしてしまいがち。だが、断定的な質問は、ときに、不確かな情報を引き出すことになる。不確かな情報を引き出しても、あとで苦労や失敗をするのは自分だということを肝に命じておかなければならない。
さて、聞き込みに行くときにも、張り込みや尾行のときの同様に、適切な服装というものがある。単に人目を忍ぶために目立たないかっこうをするのではなく、TPOを考えてコーディネートしなければならない。たとえば、空気のおいしい田園風景の広がっているような地域へ出向くのに、銀座辺りのホステスのようなかっこうをしているのは不適切。
探偵という身分を隠す以上、それに変わった身分を聞き込み相手に告げることになる。その点を考慮して服装を決めるわけだ。意外なテクニックとしては、なるべく重そうに見える荷物を持っていき、がんばっていることをアピールすること。その姿を見て相手が同情的になり、「まあ、ちょっと休んでいきなさい」などと展開することもある。それを聞き込み開始の糸口にしない手はない。
聞き込みにかけられる時間は、行方調査以外なら、1つの地域につき1~15日間。
というのも、同じ地域で何日間も聞き込みをしていると、「〇〇のことを聞き回っている人間がいる”という噂が立ってしまうからなのだ。それが対象者の耳に入ってしまうと、その後の調査に悪影響を及ぼすことが予測される。また、1つの地域で最低5軒は聞き込みをするのが鉄則。制限された時間内で、どれだけの情報を収集できるかはテクニックにかかっている。ただし行方調査の場合、同じ相手に2度、
3度と聞き込みをしてみる価値はある。1度目の聞き込みでは突然のことで思い出せなかったことも、回を重ねていくうちに思い出すことがあるからだ。
聞き込みをする相手の選定は、対象者と比較的遠い関係者から、徐々に身近な関係者へと移行していく。業界では、これを「渦巻きの法則」という。対象者の身近な関係者に聞き込みをすれば、調査をしていることが対象者の耳に入りやすいのはいうまでもない。
情報を効率よく引き出すためには、地域ごとに聞き込みをする場合なら、できるだけそこに長く住んでいる人間にあたってみる。居住年数ともっている情報量は、比例していることも少なくないからだ。隣近所との付き合いがあまりない都会のアパートやマンションでも同様で、長く住んでいる人ほど、そのフロアの管理人的な存在であることがある。とにかく、自分勝手な判断基準で諦めるのではなく、ダメ元であたってみるという地道な方法しかないのだ。
行方調査以外は、同じ相手に聞き込みをしてはいけない。つまり一発勝負だ。だから相手の忙しいときにいっても望みは薄い。相手の年齢、職業、地位などを考慮する。あくまでも、話を聞かせて”もらう"というスタンスを崩してはいけない。
強引なアプローチにより生活を邪魔された相手は不機嫌になり、なかなか情報を提供してくれなくなってしまうもの。主婦のおばちゃんたちは、噂好きでとても協力的なことが多いが、それも生活サイクルをある程度予測してから訪ねて行かねばならない。お昼の連ドラをはじめとするTVの人気番組を放映している時間帯などは避けたほうが得策だ。
噂好きなおばちゃんたちが協力的なのはありがたいが、必ずしも情報の確度が高いとはかぎらないのが注意点。話に尾ヒレがついていることも少なくないので、必ず裏を取る必要がある。同じ質問を最低3人にぶつけてみるというのもいい。また、噂好きなおばちゃんたちは、聞き込み後に、「〇〇の件について聞かれた"ことを
互いに話し合ったりもするので、同じ質問を複数の人間にしておくことにより、「話したのは私だけではない」という安心感を与えるという効果もある。
あまり協力的ではないことが多いが、男性の話を聞くことも必要。男性から得た情報というのは、多くの場合、尾ヒレがついていることがないからだ。女探偵の場合、こういうときに、困っているポーズ、涙、重そうな荷物を持ってがんばっている、といった武器を使うと効果的なのだ。
とはいうものの、探偵という身分を明かすことができない以上、どうすれば初対面の人間の口を軽くすることができるかというと、やはりそれなりの仕掛けは必要になる。「紳士録の事前調査”などと、ダミーのアンケートに応えてもらい、その雑談に見せかけて本来の聞き込みをするとか、銀行のローン審査(電話のほうが自然)に見せかけるとか、場合によっては、聞き込みをしやすい結婚調査とするなど、やりかたはいろいろ。聞き込みの具体的なノウハウに関しては、自分で考えることも仕事なのである。
話を聞く態度についても研究をしておくべきである。まず、常識的な点からいうと、礼儀正しくすることである。話を聞く前は礼儀正しく接していたのに、目的とする情報が得られなかったりすると、無礼者に早変わりして辞してしまうなんてことにならないように注意する。のんびりしていられる状況ではないから、気持ちはわからないでもないが、聞き込みで悪い評判を立ててしまうと、結局は自分が損をすることになる。話を聞いているときは、笑顔を絶やさず、相手に不快感を与えないように配慮する。間違っても、疑うような目つき、下から覗き込む、下を向いて話を聞く、などといった態度はとってはならない。必ず相手に悪い心証をあたえることになるからだ。話を聞くときには、必ず相手の正面に立ち、真剣な態度で接しておくことだ。
また、こちらが聞きたい話をいきなり切り出しても、相手に不審感を与えることになるので、まずは、聞き上手に徹して、相手に話をさせてやるのもコツである。
家のことなどをそれとなく褒めたりするのもテクニック。
「いいお家ですねぇ」とか「スゴいクルマですねぇ」などと、さり気なくめられたら、誰だって悪い気はしないもので、そこから突破口が開けることも少なくない。さらに冗談なども交えて世間話でもしているうちに舌が滑らかになってきたのを見届けたら、それとなく本題に入っていくのがスマートなやりかたというものだ。
話法についても常にソフトタッチを心掛ける。威圧的な態度で迫れば相手は引いてしまう。
具体的な内容は各調査によって千差万別だが、その聞き出し方については、常に
"5W1H"を念頭に入れておく。"いつ"”どこで”
誰が""なぜ""どんな
ふうに”といったことは、ひとつでも矢けてしまうと、有益な情報としては成り立たない。もちろん、相手を追及するような質問責めにならないように気をつけなければならないが。
そのためにも、事前に質問の流れを組み立てておく必要がある。事前の準備がしっかりしていないと聞き込みにも時間がかかってしまう。先述のとおり、聞き込みのできる時間は制限されているし、モタモタしていて対象者に待ち伏せされたなどというシャレにならない事態にもなりかねないのだ。
内容的に絶対にタブーな質問がある。それは対象者の子どもの話題だ。初対面の人間がやってきて、よその家庭の子どもの話題を持ち出してきたら、誘拐などの犯罪を連想しない人はいないだろう。同様に、"家族で旅行へ行くのか?”といった質問も、窃盗の下調べと誤解される。聞き込みをする際に、相手に悪い印象を与えたら、多くの場合、対象者の耳に入ると考えていい。もともと、私たちが聞き込みをしているのは、対象者と何らかの関係(付き合いはないけど近所に住んでいるなども含める)をもっている人たちなのだということを忘れてはいけない。
"5W1日”を重視するあまり、質問が誘導尋問のようになっていないかどうかも確認しておく。聞き込みという作業は、証言を取るのではなく、あくまでも事実を調査するために行うのだ。細かく限定された情報を得ようと焦って、「〇〇なんですね?」といった肯定質問や「XXではないですね?」といった否定質問のように、暗示、誘導になりそうな質問をしてしまいがち。だが、断定的な質問は、ときに、不確かな情報を引き出すことになる。不確かな情報を引き出しても、あとで苦労や失敗をするのは自分だということを肝に命じておかなければならない。