探偵の知識

依頼を受けて、調査の目的、範囲、報告期日、料金などが決定したら（依頼者の話を上手に聞くのも腕のうち）、いきなり尾行や張り込みなどの調査活動をするのではなく、どのような調査を行うかを決定するために、いくつかチェックしておかなければならないことがある。それが「予備調査」というものだ。これにより、その後、何をどう調査するのかという方針を明らかにすることができる。
人並みはずれた行動力というのは、探偵業に必要不可々なものであるが、ただガムシャラに動き回っても意味がない。たとえば尾行をするにしても、何のデータもない対象者と行動パターンを把握している対象者とでは、成功率も調査の質も雲泥
の差だ。
ある程度は、依頼者から対象者のデータが提供される。だが、それだけでは対象者を知るのに不十分なことも多い（そもそも依頼者が対象者を熟知しているのなら、調査など依頼するわけがない）。そんな場合は、電話帳、航空地図などのさまざまな資料にあたって、住所や電話番号などを調べておくデスクワークも必要になる。
とはいうものの、予備調査の中心になるのは、やはり、張り込みや尾行をする場所など、現場の下見ということになる。
実際に現場へ足を運んでみることにより、本調査の役に立つ情報をいくつも入手することができる。「どんな服装がマッチするか」「張り込みのポイントをどこにす
るか」「対象者はクルマを所有している」
「所有しているなら、車種と色は」「駐車場の位置は」等々。微に入り細を穿つように、これらの諸要因を確認してお
く。
また、マンションによっては、監視カメラが設置されていることもあるので、その有無も確認しなければならない。監視カメラが設置されているマンションの多くは、住人以外の不審な人物が映されると、管理人が現れるというシステムになっているので要注意だ。
予備調査の大きな目的のひとつは対象者の確認。業界用語でいう”面取り”というものだ。依頼者から対象者の写真を入手していても、必ず、実物を確認しておかなければならない。というのも、写真が古かったりすると、実物のほうが老けていたり、体型が変わっていたりすることもあるからだ。また女性の場合は、すっぴんだとまったくの別人になってしまうことも多い。実際に尾行などの調査をするのに、対象者の顔がわからないのではお話にならない。
対象者の実物を確認したら、依頼者から得た情報も確認。対象者の1日の行動スケジュールにあわせて、立ち回り先などもチェックしておかなければならない。対象者にとっては地の利のある場所ばかりなのだから、こちらも土地勘を養っておくというわけだ。
対象者の多くは、浮気などの後ろめたいことをしていると、醬戒心から人目のつかないような行動パターンをとる。対象者の立ち回り先の建物の構造（出入口のチエックが中心）を把握するのは重要な作業なのだ。また、建物や土地勘だけではなく、周辺のバス停、駅、空港、飲食店などにもチェックを入れておく必要がある。
自分が対象者だった場合、このあたりで尾行に気づいたら、どうやってマくだろうか？/ということを常に念頭に入れながら行うことが肝心だ。
依頼が用調査だったりすると、予備調査の内容も多少変わってくる。法務局で土地登記簿謄本を取得して資産調査をしたり、課税証明書を取得して所得額や税額を調べたり、住民票や戸籍勝本を入手するなど、関係書類の収集を充実させなければならない。そこで注意したいのが、対象者のプライバシーを侵害しないようにすること。住民票や戸籍勝本を入手するときは、依頼者に有資格者である弁護士に相談してもらい、自らはタッチしなことが好ましい。違法行為を侵さないようにくれぐれも気をつけなければならない。
調査を成功させる上で重要な予備調査ではあるが、あくまでも予備”であって、あまり時間を割くことはできない。ズバリ、1日間ですべてを済ませなければならない。その限られた時間のなかで、しっかりとした予備調査が望まれる。予備調査で手を抜けば、後の本調査での無駄や失敗につながる可能性は大である。