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探偵の知識

中年の浮気は、冷蔵庫に大好きなアイスをキープしながら食べずにいる楽しみ

2025年11月19日

浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB

飲み屋で出会った50代の浮気おじさんは、白髪まじりの髪の毛を触りながら、ほろ酔いで僕にこう言った。
「20代30代の頃は女とメシ食ったらとにかくその日にヤリたくて必死だったけどさ、40歳を過ぎた頃からかな、デートして口説いてヤレそうであえてせず、ハグしてチューして送って帰るようになったんだよね。この余裕は何だ? どうした俺? って思うわけよ。歳のせいじゃないんだよ、EDじゃねえんだから。俺の大英帝国も〝ED離脱〟ってか?(笑)腹闇の力をあえて抜かずに忍ばせておく。あれはね、侍の余裕なんだよね」
そんな話を聞きながら、40代半ばを過ぎた僕は大きくうなずいた。
僕の股間の小刀は、素敵な女子といる合コン中、デート中、だいたいギンギン(テント張ると同義語)している。自らが身体でオスを感じている。オスである以上、牙の切れ味を試したいと思うのが野生の本能だ。

そう、昔、旭山動物園で見た狼のことを僕は忘れない。檻の中の狼は、飼いならされた犬とは明らかに違う野性の目をしていて。鋭い牙で、ガリガリと檻の中の生えている木を、まるで獲物の首根っこを喰わうようにかじっていた。日曜に思われる木の幹も、その木を支える添え木も、よく見ればどれも歯型でボロボロ。
本来、狼は、大自然の中でこそ獲物を仕留め、敵と戦いながら、自分の牙の切れ味を感じる。しかし檻の中ではそれはできない。そんなオス狼は、たとえ檻の中でも、「己の牙の切れ味を試すように木をかじり、いまだ現役な牙をオスと感じている。そうに違いない。
男だって野生の狼。牙を抜かれ、飼いならされたなんてなんかじゃない。「己の牙の切れ味を試したくなる。野生の本能のおもむくままに噛みついてみようか。
いや、もしも噛みつこうとして逃げられたら、もしも牙の切れ味がイマイチで仕留められなかったら、みっともない。目の前のウサギちゃんはもう少し遊ばれば仕留められそう。
動物は一般的に春、秋など時期があるがウサギは年中発情期。だからバニーちゃんはセクシー女性の象徴。でも待てよ、ガブリと仕留めたはいいが、帰宅後、鬼に猟銃で撃たれる危険もある。
我々浮気おじさんは、そんな葛藤に日々悩み続け、時に手痛い失敗もし、そしてある日、僕はこんな風な考えに至った。
できるかもしれないけどしない「冷蔵庫にキープしてある俺のアイス理論」――。
「できそうで挑んだ結果、できなかった」は明らかに敗戦であり読み違いだが、「できそうでできた、あえて挑まなかった」は引き分け。サッカーで言うなら「勝ち点1」である。ハグ程度で我慢し、勝ち点で帰るのは、「しようとしてできなかった」よりも、帰宅途中の気分も数段晴れやか。オスの狼としてガブリと本気で噛みついてはいないが、十分に牙の切れ味は試した。ウサギちゃんにハグして甘噛みだ。
「あの男は、すぐしようとする」という理由で嫌われるヤツはいるが、「あの男は、なんで今日してくれなかったんだろう」という理由で嫌われた男を僕は知らない。
揺れる胸を食えると確信しながら、あえて食わないという、ちょっとしたプレイだ。本当は食えないかもしれないのだが……。
コンビニでも好きなアイスを買って帰るも、その日は食えずに冷蔵庫にキープしておく感じ。いつでも食べられる楽しみにも似ている。

と揉めたりする女性もいるだろう。しかしそれは、野生の狼を檻に閉じ込め、かつ白樺の木にガリガリ噛みついたからといって白樺の木をすべて撤去するのと似ている。狼は精気を失っておかしくなってしまうだろう。せめて犬をガリガリするぐらい許していただきたい。
ちなみにアイスに賞味期限はない。いいつ食べてもいい。しかし、いつまでもキープ可能と思っていた、俺のお気に入りアイスが、ある日冷蔵庫を開けて探したら、なくなっていることも、ままあること。それはそれで仕方ない。いい歳して、アイスに名前を書いてしまっておくのも大人げないし。
なので、ずっと冷蔵庫にキープしながら、あえて食うべうとせず、とっくになくなってるかもしれないのに、「いつでも食うれる」と思っているこの気持ちこそが、贅沢なのかもしれない。
我々浮気おじさんの恋は、冷蔵庫に大好きなアイスをキープしながら食べずにいる楽しみ、なのである。