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探偵の知識

浮気という「安い肉」も、温度と湿度を保てばやがて「熟成肉」に

2025年11月19日

浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB

先日、鬼はポロッとこんなことを言った。
「それにしても、ある意味、オレ(鬼は自分をオレと呼ぶ)は鼻毛(僕のこと)の彼女たちに感謝だな。こんな鼻毛みたいな、粗チンのちんちくりんな男を相手してくれるおかげでオレが鼻毛の相手しなくて済んでるんだから……」
僕に彼女がいるかどうかは別として、いたとしたら彼女に失礼だろうと思いつつ、鬼という、実にトゲトゲしていたワインの角が取れ、まろやかになってるということなのか。
世は空前の肉ブーム。
「レッドロック」のローストビーフ丼に行列し、「六花界」の立ち焼肉で男女が出会い、インスタでは〝フォトジェ肉〟なる言葉が生まれ、美味しそうな肉の写真に「いいね!」が集まる。〝肉食女子〟や〝ホルモンヌ〟(ホルモン好き女子)も増えている。

そんな中、熟成肉がブームに拍車をかけるように人気上昇中。ワインセラーのような熟成庫で、一定の温度と湿度を保ちながら、風を当て続けると、水分が飛んで旨味が凝縮し、肉がやわらかくなる。
ワインやチーズ同様、「熟成」すると肉に付加価値が生まれる。しかしご存知だろうか、そもそも「熟成肉」というのは、元は堅くて使えなかったホルスタイン(乳牛)の肉を美味しく食べるようにするための、ダメ肉の有効利用術だったことを。
我が家にも「夫の浮気問題」という、どうしようもない〝肉〟がある。
結婚して18年以上、なかなか消えない。まさに〝骨肉〟の争い。
しかし、そんなダメ肉も、夫婦戦という乾いた会話で、〝温度と湿度〟を保ち、鬼の小言やイヤミという〝風〟を当てながらじっくり寝かせて熟成してきた結果、そのダメ肉に、冒頭の鬼のコメントのように、最近とても旨味が出てきた気がする。
鬼は昔から、何の予告もなく、抜き打ちで帰省したり旅行に出かけたりする。いつ帰ってくるかも教えてくれない。
天災は忘れた頃にやってくる。

ある夜、帰宅したら家族が誰もいない。その前日、娘の部屋に、隠すように旅行用の大きなスーツケースが2つ用意してあったのを覚えている。その時は娘の部活の合宿かなとも思ったが、今考えると2つはおかしい。鬼に「家出?」「どこへ行ったのやら。
鬼の言い分はいつもこうだ。
「お前に、いつからいつまで留守にすると教えると、背中に羽が生えて合コン・浮気しほうだいだろ。教えてたまるか!」(※「しほーけ」は「し放題」の意=鬼用語)
たしかに僕は、鬼が帰省している留守中、〝鬼の居ぬ間に洗濯〟とフラフラ飲み歩いた。羽を伸ばして朝帰りした。するとケータイでなく家の電話にパトロール電話が入り、ケータイのテレビ電話にも連絡がきた。こちらも家に電話がきそうな時間にいっぺん帰宅してまた出かけて飲んだり、テレビ電話は拒否したり、なんともマヌケな攻防戦だった。
しかし最近では、そんな攻防すら、ロールプレイングゲームを攻略していく感じで楽しんでいる。いつなどき、どんなボスキャラが出てくるかはわからない、先の読めないロールプレイングゲーム。この攻略本は、きっと自分しか作れないだろう。そんなことを思いながら、あらゆる攻撃から身を守り、そして攻め込む策を練ることを楽しむ。

以前は「家族で出かけます」という鬼の置き手紙に、「俺は家族じゃないのかよ!」とキレていたが、最近は、そんな扱われ方にも、〝抜き打ち家出〟にも、もう慣れた。
はいはい、きましたね、今年も恒例のヤツが」といった感じ。
昔なら「さあ今がチャンス!」とばかりに、慌てて飲める女子を探し、急遽、遊ぶ約束を入れたが、もう特に慌てず、のんびり家で一人暮らしを楽しんでいる。普段しない、読書をしたり映画を見たり。仕事もはかどる。
だが、ふと、「とはいえ、何か攻撃しないとつまらないのでは?」と、頭をよぎる。家に電話がきたら、あえて無視して、朝帰りのフリしてみたり。
そんな、茶番な夫婦プロレス。
温度と湿度を保ちながら風を当て続けると、水分が飛んで旨味が凝縮し、やわらかくなる熟成肉。
結婚18年、我が家のダメな肉が、少しずつ熟成している気がした。
ちなみに一週間後、日に焼けた赤鬼と子供たちが〝抜き打ち帰国〟していた。