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探偵の知識

カレの浮気を知った日。それは2人の「結束力選手権」スタートの日

2025年11月19日

浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB

浮気した帰り、世のおじさんたちは、奥さんに疑われないよう、いろんな工夫をする。
ある浮気おじさんは、女子を送ったあと、家に帰る前に必ず1人でバーに寄る。バーに寄って、ふだん吸いもしないタバコを買い、煙で女子のニオイを消す。そして必ずクレジットカードで支払う。すると帰宅後「タバコくさっ!」とは言われても「香水のニオイ、女といたでしょ?」とは言われない。そして万が一「女の家でしょ!」と疑われても、カード明細を見れば時間が印字されているし、その店に電話されても1人で来たことは証明される。
たとえそれが隠す必要もない飲み会の帰りだとしても、浮気じゃなくて合コンだとしても、下手に疑われないよう、家族に心配させないよう、心のシートベルトをし、安全運転で帰宅するのが、我々、40歳を過ぎた、ベテラン浮気ドライバーだ。

結婚1年目を迎え、我が家の「浮気疑惑」の歴史を振り返ってみると、それは、こすればこするほど硬くなる足裏の角質のように、「浮気疑惑」という〝確執〟が〝角質〟を生んで夫婦の絆を硬く強化して来たような気がしてならない。
僕はこれまで、何度となく鬼に浮気を疑われ、時には謝り、時には否定する、セーフとアウトの境界線確認作業の日々だった。
あの事件が起きたのは、忘れもしない、結婚して7年目のゴールデンウィークのことだった。もちろん、僕の出張の浮わついた行動が招いたできごとなのだが、僕がまったく悪いことをしてない、浮気などしてないのに、「完全に浮気した! 認めないと許さない!」と濡れ衣を着せられ、それが原因で区役所に離婚届を取りに行くという事態にまで発展した事件だった。
鬼は長野に帰省し、僕は仕事があるので東京で過ごした。その中の1日、仕事がない休みができたので、ずっと行きたかった箱根の人気フレンチ「オーベルジュ・オー・ミラドー」のランチを予約し、1人で車を飛ばして行った。鬼に内緒で。ついでに、併設されている「コロニアル・ミラドー」の温泉つきエステも予約し、ランチ前にエステに寄って、汗を流したあとに食事という流れを、1人で楽しく過ごした。

すると数日後……。
家にいると、鬼のような剣幕で、鬼が来た! 僕を床に正座させると、どこで見つけたのか、その時のランチのメニューをテーブルに叩きつけ、「正直に言え。女と行ったのはバレてんだよ! オーベルジュだか何だか、その女とヤったんだろ?」
誤解だ。1名分の料金のカード控えを見せ、店に確認するように言っても、どうせ店と口裏合わせてるだろうし、女の分は現金払いだろと疑う。いや、絶対そうだと断言する。
「なんで? 何を根拠に言ってるの?」
曰く、その日、鬼の女友達がたまたま箱根にいて、「コロニアル・ミラドー」から「オー・ミラドー」へ続く遊歩道を歩く僕の姿を見かけ、横にいたので「旦那さん見たけど、ミちゃん?」とメールがきたという(ホント、女子というのは余計なことをするもんだ)。
あ、鬼の名前はユミコ。
オー・ミラドーというのは宿泊できるレストランだが、泊まってないし、隣りにいたのはエステのおばさん。オー・ミラドーまでの50メートルほどを道案内してくれただけなのに、完全に濡れ衣だ。「それでも僕はやってない」状態。
激しい口論が続き、あまりに鬼が譲らないので、僕は言った。「100%浮気した。ヤったって、決めつけるんだな?」
「もちろん。こっちは目撃者がいるんだよ!」
「俺を疑って、友達失信じるんだ? だったらもう無理……離婚だ!」
とブチ切れて、区役所に離婚届を取りに行った。本気で別れようとは思ってなかったが、身の潔白を証明するにはこうするしかないと、勝負に出た。
怒りに震えながら離婚届にサインし、叩きつけようとしたその時、鬼は、さすがに真っ青なことをにじり、謝ってきた。内心ホッとし、と思いながら、こわばる表情を緩めず、ハンを押す。
その手を見は止めようとしながら、どうしたら許してくれるのか? なんでも聞くから許してほしいと泣きながら懇願してきたので言ってやった。
「ヤってないのにヤったと思われるぐらいなら、ヤっといたほうがマシ。でもヤってない。だから、ヤったと決めつけたお詫びとして、浮気していいチケット1回分、用意しろ。そしたら許してやる」
冷静に考えたら、僕の言い分はめちゃくちゃだ。しかしその流れで鬼も言いくるめられて、それを了承。チケットをくれた。
この時、僕は思った。鬼はエライと。鬼のように怖いけど、鬼のように懐が深いヤツだなと、改めて見直し、夫婦の結束力が強まったと確信した。
夫やカレの浮気発覚……。
「ピンチはチャンス」とか、「雨降って地固まる」とか、言い古されたフレーズを出すまでもなく、足裏のかかとのよう、こすればこするほど、絆という角質は強固になる。そう、確執によって角質は硬くなるのだ。
ならば、浮気が発覚した日は、2人の結束力選手権スタートの日と考えるべし。
ちなみに、僕の浮気していいチケットはまだ使ってない。いつか本当にバレて、逃げ場を失った時に使おうと、ずっとキープしてある。