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探偵の知識

男がルパンなら女は銭形警部であるべし。 〜トムとジェリー、仲良くケンカしな〜

2025年11月19日

浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB

鬼は、僕の〝浮気の尻尾〟をよくつかむ。
本当はデートだったのを「仕事の打ち合わせ」とウソついて酔って帰宅し、夜中に油断してリビングでテレビを見てると、鬼が来た。
「おい! お前、打ち合わせとか言って、デートだろ! 16時、マリコ、ドムス、って! 6時間もどこで何してたんだ? やっただろ!?」
鬼の手には、カバンから出した僕のスケジュール帳が。カード明細も財布から抜いた様子。ウソつくということはやましいことをしてる証拠だと詰め寄られる。
「バレてんだよ! 死ね!」とスケジュール帳を僕に投げつけ、終了。
そして僕は学ぶ。鬼が見たら疑う予定を、そうだと推測可能な言葉で書き込んではいけない。以来、見られて誤解を招く内容は、手帳でなくスマホにメモすることを学習した。

ほかにも、我々浮気おじさんは多くのことを学習する。
●女子とハグした帰りは、服にファンデーションがついてないかチェックして帰宅。
●女子からもらったプレゼントは、家に持ち帰ると怪しまれるので持ち帰らない。
●帰宅後すぐに風呂に入ると怪しまれるので、すぐには入らない。
●出かける前に入念な服選びをすると、「デートだろ」がバレだったりするので注意。
●急に珍しいアーティストの曲を聞き出すと「女が変わったか?」と突っ込まれる。
などなど、あらゆる角度から〝浮気の尻尾〟はつかまれ、危機管理能力を高めていくようになる。
しかしそれは完璧ではない。『ルパン三世』に似ている。
銭形警部がルパンの尻尾はつかんでも、手錠はかけても、なぜかまた、するりと逃してしまう。夫婦も同じ。完全に捕まえてしまったら、逃さなかったら、『ルパン三世』という物語は終わってしまうように、結婚生活は終了してしまう。
鬼に尻尾をつかまれ、「もう終わった」と思ったあの事件の時もそうだ。

あれは、鬼のママ友、Kさんの豪邸マンションで行われたホームパーティの時だった。
そこには、いつ決まってHしてるから、らしい)と呼ばれるバツイチのママが、
と朝・昼・晩、1日5回Hしてるから、らしい)と呼ばれるバツイチのママが、その日もいた。43歳のぽん子は、かつて長与千種選手の下だったらしく、いつもセクシーな衣装で現れ、酔っぱらうと男女かまわずやたらとスキンシップをする。
握手、ハグ、ボディタッチ……。
僕もスキンシップは大事だと思う。欧米並みに日本人も、もっとスキンシップを! と思い、スキンシップしてくれそうな女子に会うといつも、「僕、実はスキンシップを推奨する日本スキンシッパーズ協会の会長なんですけど、もし会員の方ですか?」と真顔で質問する。たんなるお触り好きを、立派な肩書きっぽく言ってるだけだが、カンとノリのいい女子だと、「あ、会長! 私もスキンシッパーズ協会に入りたいんですけど」と返してくれる。
こうして2人は協会の規定により(そんな協会も規定もないが)、スキンシップが公的に許される(いやどうだろう?)。会員の背後に回り、会長が肩揉みをしてあげながら、たまに右手が「あ、ごめん」と滑って胸に当たったりするが、会員同士なので、場は和む。

そして、Kさん邸ホームパーティの常連ぽん子もノリがよいスキンシッパーで、鬼の目を盗んでは、僕もぽん子とイチャイチャしていた。
宴もたけなわな頃、ぽん子がトイレに行くとあとを、僕もついていった。いわゆる合コンでいう「恋の連れション」(2人でトイレに行くと恋が芽生えやすい、合コンの鉄則)だ。
だが、あいにくトイレは使用中。ぽん子が気分悪く吐きそうだと言うので、2戸ぶち抜いた作りの広大なマンションの奥にある、もう1つのトイレに、僕はぽん子を案内した。
するとそこは誰もいない広いリビング。みんなといた部屋の喧騒とはうって変わって静かで、タワーマンションの大きな窓から広がる都会の美しい夜景を眺めながら、ぽん子と〝協会の規定〟を楽しんだ。
僕は女子を横に抱いているだけだ。介助して「抱く」と書いて介抱。だから抱いてもいい。吐きそうな人の口に、指を突っ込であげると気持ち良く吐けると言った。今、指でなく舌を突っ込んでしまっているが、ま、これもスキンシップの一環か。無理やり自分にそう言い聞かせながら、夢中になっていた。
すると、廊下から足音が聞こえ、慌ててハグ姿勢から背中をさする姿勢に変えた。
「何してんの!?」

鬼が来た。
「あ、なんか、気持ち悪いって言うから……」バカだろ! 私の友達の家で何して「人の目を盗んでイチャイチャしてんじゃねーよ!んだ?」
さっきまでリビングでイチャついてた〝会長と会員〟が、ここで何してたかは想像に難くない。ブチ切れた鬼に僕は首根っこをひっつかまれ、警察に連行されるように即帰宅することになった。
その後、僕にはある〝罰〟が下されたのだが、それにしても、あそこで本気で〝現行犯逮捕〟しようと思ったら、足音を立てず、そっと覗き込み、ことの現場をスマホで録画することもできた。僕を離婚調停に追い込み、鬼が有利になる証拠として叩きつけることだって可能。
しかし、銭形のとっつぁんのような鬼は、あえて、それをしない。逮捕できそうなのに、しない。手錠をかけても、するりと逃がしてしまう。逮捕してしまっては、「ルパン!」待て〜」という物語が終わってしまうからなのか。鬼は言う。「嫁もいる会であってことは、いないとこでどんだけ好き放題やってんだ、って話でさ……!」

たしかに、おっしゃる通り……いやいや、そうでなくて(笑)。
あれは、修学旅行の夜、先生の目を盗んで女子部屋へ忍び込むスリリングさ。子供だった僕が、だからこそ毎日、家の廊下やリビングで鬼とすれ違うたびに、今度は銭形で「峰不二子にせがむルパンのように、お尻をペロンと触り、そのたびに「触るな変態!」と怒鳴られる日々を送っている。はたから見たら、仲がいいんだか悪いんだか……。
ここにほどさように、夫婦というものは、ルパンと銭形警部や、〝トムとジェリー〟のように、「仲良く喧嘩しな」なのである。