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探偵の知識

「我々はみかんや機械を作ってるんじゃないんです! 夫婦を作っているんです!」

2025年11月19日

浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB

1980年代、学校が荒れ、校内暴力が社会現象になった当時、ドラマ『3年B組・金八先生』のこのセリフが話題になった。
「我々はみかんや機械を作ってるんじゃないんです。毎日人間を作っているんです。人間のふれあいの中で我々は生きているんです」
箱の中で腐ったみかんが1つあると、他も腐ってしまう。だから排除してしまう。クラスに不良がいたら退学させ、転校させてしまおうという「腐ったみかんの方程式」だ。夫の中に見た〝浮気性〟という、いわば腐ったみかんを、夫という人格の中で、どう処理しようか。また浮気夫という腐ったみかんにどう向き合うべきか、奥さんたちは悩む。それこそ、腐ったみかんの方程式で、夫を捨ててしまう奥さんもいるだろう。夫の浮気発覚=離婚となる夫婦も多い。
しかし〝待て〟。「我々はみかんや機械を作ってるんじゃないんです! 夫婦を作っているんです!」と、僕は言いたい。
うちにも鬼は、ただの鬼嫁とは違う。〝恐怖政治〟が必ずしもいい結果を生まないことをわかっていて、僕のことをほどよく泳がせる。そこがまた、鬼のように鬼。
「合コンか? バカな女にだけは引っかかんじゃねえぞ!」僕にそう言い放つ。
〝浮気心〟という腐ったみかんを全肯定せずに、存在は認めたうえで、「バカな女にだけは引っかかるな」と注意を促す。家庭を壊す女、仕事の邪魔する女、被害者ぶって金を要求してくる女。具体的には言わないが、きっと鬼の考える「バカな女」とは、夫にマイナスをもたらす、そんな〝さげまん〟のことを指すのだろう。
思うに、浮気には「ダメな浮気」と「かわいい浮気」があり、「ダメな浮気」は、バレた時の状況として、もはや逃げ場のない(言い訳のしようがない)浮気。一方「かわいい浮気」は、まだ逃げ場のある(解釈のしようがある)浮気だと思う。
大きな違いは、「場所」と「相手」だ。
芸能界にも「ダメな浮気」は多い。浮気が発覚した「場所」が自宅で、しかもクローゼットに浮気相手が隠れていたという衝撃不倫が話題になったが、あれは逃げ場がなさすぎる(なんでホテル代ケチるんだよ、稼いでるのに……と、浮気おじさんたちはワイドショーにツッコんだ。せめて「場所」が、自宅でなくシティホテルだったら、まだ打ち合わせ等という言い訳のしようもあったし、そもそもバレることもなかっただろう。
小倉優子さんの妊娠中に夫の浮気が発覚した時、その「相手」が、奥さんの事務所の後輩だったが、これも「ダメな浮気」(よりによってその女にいくかね! ほかがあるだろうに……と、浮気おじさんたちはネットニュースにツッコんだ)。
せめて「相手」が見知らぬ女だったら、まだ「魔がさした」と土下座すれば修復の道もありそう。だが、奥さんも顔見知りの後輩ではあまりに生々しく、「裏切られた感」「アメられた感」がハンパない。ショックの傷も深いだろう。
『ワイドナショー』(フジテレビ)で、不倫にまつわる厳しい風潮に対して松本人志さんが放ったコメントに、我々浮気おじさんたちは、大きくうなずき、拍手した。
「こんだけ不倫ダメダメって言われたらテンション下がるよね。男としてさ、生き生きしたいじゃない? もうこれだけ絶対ダメな雰囲気を出されたら〝英雄色を好む〟っていうのは死語になってる。〝色を好まないのが英雄〟というふうになってる」

当時、宮崎議員が自宅に不倫相手を連れ込んだ行為に対して松本さんは、「奥さんいるや旦那さんいる人が、家に連れ込んでっていうのは本当に信じられないですか? 人目も憚らない、鳥や犬が食べてるようなもん。全然スタイリッシュじゃない」と酷評。
下品極まりない。〝獣〟への譬え。
続けて、「彼はモテるわけじゃないんでしょうね。へたっぴなんですよ。本当にモテる人はもうちょっとうまく……。全然スタイリッシュじゃないわ」と語った。
さすが松本さんだ。色を好む賢い英雄はこんな初歩的なミスはしない。ルールあっての〝レジャー〟(浮気)。当然のことだが〝レジャー〟にはカネが要るし、何より「場所」と「相手」を間違えない「マナー」が必須なのだ。
それができない男は、ソープへ行け!(北方謙三先生風)。
我が家の鬼は、僕によくこんな殺し文句を言う。
「気をつけろ、お天道様がちゃんと見てるからな」
お天道様。
孫悟空が悪さをすると頭を締めつける金の輪っかのような鬼の殺し文句は、時々、猿のような僕の頭を締めつけ、ピリッとする。
しかし万が一、魔がさしてそんな時は、せめて「相手」と「場所」だけは気をつけようと思う。腐りきったみかんとして、捨てられないように。