男が結婚を決める理由のひとつ──「追い込み」
2025年11月19日
浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB
林修先生は、奥さんとの結婚を決めた理由について問われ、こう答えていた。
「顔はまったく趣味じゃない。顔の好みは面長の顔ですからね。嫁は真ん丸。結婚した決め手は頭。僕が会ったすべての女性の中で一番優秀だと思いました」
雑誌『an・an』の「男が結婚を決める理由」特集の200人アンケートを見ても、「性格が合う」(44人)、「価値観」(35人)、「料理上手」(26人)、「家事が得意」「趣味が合う」(19人)、「見た目」(17人)、「SEXの相性」(10人)、「こちらの家族とうまくやれる」(8人)、「仕事ができる」(5人)など、男が結婚を決めた理由は人によって様々だ。
そして、僕がもし鬼との結婚を決めた理由は? と聞かれたら、これだ。
「追い込まれて、僕が逃げなかったから」
ここで、恥ずかしながら告白しておくと、鬼との出会いは僕からのナンパだ。当時、早
稲田の学生(24歳)で、僕は先輩のコネにより、テレビ業界で放送作家見習いのバイトをしていた。その後、局のプロデューサーに連れられ、渋谷の居酒屋で飲んでいた。たまたま隣の席にいた女子2人組をナンパし、電話番号を(ヌードルアドレスもアカウントもIDも存在してない時代、笑)交換したのが鬼と知り合ったキッカケだ。
当時は、7万円のワンルームマンションでハゲ犬を飼っていた。その写真を見せたら「かわいい」と食いつき、「徹夜で仕事とか多いんでしょ? 故わんちゃん預かってあげようか? 散歩してあげる」というので、これ幸いと部屋の合鍵を渡した。付き合ってるわけでも好きでもなく、超犬好きの25歳OL、1つ年上のしっかり者、という印象。
90年代当時、テレビ業界はまだバブルで、僕はタクシーチケットを自由に使えた。それ目当てとあとで知ったのだが、鬼が友達と渋谷で遊んでると、仕事終わりの僕が呼び出され、「犬の世話してあげてるんだから」とタクシーで鬼の家(世田谷の経堂)を経由させられることが増えていった。
ある日、西荻窪の僕のマンションに、鬼が犬の世話をしに来たついでに泊まることになり、おそらく酔った勢いでそんな関係になっていた。本来はペット禁止のマンション。犬の散歩の鬼は、何度も管理人に見つかって注意され、引っ越さないとまずい雰囲気になっていた。
付き合い始めて3年。大学も留年し、親からの仕送りも止まったうえに学費を自分で払わなくてはならず、貧乏な僕は鬼にごちそうになることも増えていた。
犬のこともあるし、一緒に住んだほうが経済的。物件を探すと、今の2人の家賃の合計より安い、ペットOKの1LDKが見つかり、急いで手付金を払った。
鬼は、実家(長野県)の厳格なお義父さんから「13万円の家賃は何だ? 誰と住むんだ?」とつっこまれ、その場をごまかそうと「結婚を前提に付き合ってる人と暮らす」とウソをついた。僕と結婚の話など一度もしたことないのに……。
とりあえず口裏を合わせて、と鬼から受話器を渡され、お義父さんと初めて話した。すると「正月にでも長野に遊びに来なさい」と言われたので、「はい、ぜひ」と答えるしかなく、遊びに行った。
山と田んぼだらけの静かな村。古い日本家屋の広い座敷に、親戚一同が大挙して集まり、僕はまだそんなつもりもないのに、「ユミコのお婿さんになる人が来てくれました」とみんなに紹介された。
「いえ、そんなつもりじゃ……」などと答える空気ではなく、親戚のおじさん、おばさんたちから「頼むね」とビールを注がれた。
僕は、トイレに行くフリをして廊下に鬼を引っ張り出した。
「おい! これどういうこと?」
「いやあ、私もびっくり。お父さん、気が早くて……」
お義父さんは、その勢いでカレンダーを用意し、両家が会う日程を決め、結納の日や、結婚式の⽬取りまで、そこで決まってしまった。
僕は27歳、まだ売れてない駆け出し放送作家、もっと売れてから30歳すぎに結婚したいと思っていた。逃げようと思えば逃げられたかもしれない。しかし、追い込まれて、逃げなかった。それが僕の結婚を決めた理由だと思っている。
「性格が合う」とか、「料理が上手い」とか、実はどうでもいい。「実は料理が下手だった」「ぐうたらで人はだらしない」と思うから。
鬼に「結婚前提に付き合ってるテイで口裏合わせて」と受話器を渡された時、電話に出ないという「逃げ」の手もあったが、逃げなかった。お義父さんに「長野に遊びに来なさい」と言われて、行った。「この日取りで」と言われて、従った。
プロポーズとかロマンチックな物語も素敵。けれど僕は、結婚なんて、気づいたら3年付き合っていて、気づいたら追い込まれ、断る理由もないので従う、そんなものでいいと思う。うちらは違うが、デキ婚=「妊娠した」というのも1つの「男が追い込まれた時」になるように。
だから、彼と結婚したい女性は、かつて伝説のバラエティ『電波少年』で芸人が目隠しされて現場まで連れて行かれ、T部長に「やりますか? やりませんか?」と形のうえでは判断を本人に委ねながら「やりません」という答えはほぼできなかったように、彼を追い込めばいい。追い込んでみて「いろいろ準備が整ったらプロポーズするから」と逃げるような男は、おそらく待ったところでプロポーズしてくれない男だと思う。
追い込まれて、逃げない……それも1つの「男が結婚を決める理由」だし、結婚できる相手かどうかを女性が見極める方法だと、僕は思う。
大事なのは、結婚の環境が整うことよりも、タイミングよりも、信念だ。
今、あなたが結婚したいと強く思っただけで、昨日より一歩、結婚に近づいたと思う。
ちなみに、僕の兄は24歳という若さで結婚したのだが、僕が「まだ稼げてないのに結婚なんて……」と言った時、こう言った。
「男は、一人前になったから結婚できるんじゃない。結婚することによって自分を追い込んで一人前になるよう頑張る、という考えもあるぞ」と。
僕が、結婚して数年、幸い、僕の仕事が増えて、周囲から〝売れっ子放送作家〟と呼ばれるようになると、鬼はドヤ顔でこう言った。
「お前は、誰のおかげで売れたと思ってんだ?」
鬼の追い込みは、しぶとく、恐ろしい。
「顔はまったく趣味じゃない。顔の好みは面長の顔ですからね。嫁は真ん丸。結婚した決め手は頭。僕が会ったすべての女性の中で一番優秀だと思いました」
雑誌『an・an』の「男が結婚を決める理由」特集の200人アンケートを見ても、「性格が合う」(44人)、「価値観」(35人)、「料理上手」(26人)、「家事が得意」「趣味が合う」(19人)、「見た目」(17人)、「SEXの相性」(10人)、「こちらの家族とうまくやれる」(8人)、「仕事ができる」(5人)など、男が結婚を決めた理由は人によって様々だ。
そして、僕がもし鬼との結婚を決めた理由は? と聞かれたら、これだ。
「追い込まれて、僕が逃げなかったから」
ここで、恥ずかしながら告白しておくと、鬼との出会いは僕からのナンパだ。当時、早
稲田の学生(24歳)で、僕は先輩のコネにより、テレビ業界で放送作家見習いのバイトをしていた。その後、局のプロデューサーに連れられ、渋谷の居酒屋で飲んでいた。たまたま隣の席にいた女子2人組をナンパし、電話番号を(ヌードルアドレスもアカウントもIDも存在してない時代、笑)交換したのが鬼と知り合ったキッカケだ。
当時は、7万円のワンルームマンションでハゲ犬を飼っていた。その写真を見せたら「かわいい」と食いつき、「徹夜で仕事とか多いんでしょ? 故わんちゃん預かってあげようか? 散歩してあげる」というので、これ幸いと部屋の合鍵を渡した。付き合ってるわけでも好きでもなく、超犬好きの25歳OL、1つ年上のしっかり者、という印象。
90年代当時、テレビ業界はまだバブルで、僕はタクシーチケットを自由に使えた。それ目当てとあとで知ったのだが、鬼が友達と渋谷で遊んでると、仕事終わりの僕が呼び出され、「犬の世話してあげてるんだから」とタクシーで鬼の家(世田谷の経堂)を経由させられることが増えていった。
ある日、西荻窪の僕のマンションに、鬼が犬の世話をしに来たついでに泊まることになり、おそらく酔った勢いでそんな関係になっていた。本来はペット禁止のマンション。犬の散歩の鬼は、何度も管理人に見つかって注意され、引っ越さないとまずい雰囲気になっていた。
付き合い始めて3年。大学も留年し、親からの仕送りも止まったうえに学費を自分で払わなくてはならず、貧乏な僕は鬼にごちそうになることも増えていた。
犬のこともあるし、一緒に住んだほうが経済的。物件を探すと、今の2人の家賃の合計より安い、ペットOKの1LDKが見つかり、急いで手付金を払った。
鬼は、実家(長野県)の厳格なお義父さんから「13万円の家賃は何だ? 誰と住むんだ?」とつっこまれ、その場をごまかそうと「結婚を前提に付き合ってる人と暮らす」とウソをついた。僕と結婚の話など一度もしたことないのに……。
とりあえず口裏を合わせて、と鬼から受話器を渡され、お義父さんと初めて話した。すると「正月にでも長野に遊びに来なさい」と言われたので、「はい、ぜひ」と答えるしかなく、遊びに行った。
山と田んぼだらけの静かな村。古い日本家屋の広い座敷に、親戚一同が大挙して集まり、僕はまだそんなつもりもないのに、「ユミコのお婿さんになる人が来てくれました」とみんなに紹介された。
「いえ、そんなつもりじゃ……」などと答える空気ではなく、親戚のおじさん、おばさんたちから「頼むね」とビールを注がれた。
僕は、トイレに行くフリをして廊下に鬼を引っ張り出した。
「おい! これどういうこと?」
「いやあ、私もびっくり。お父さん、気が早くて……」
お義父さんは、その勢いでカレンダーを用意し、両家が会う日程を決め、結納の日や、結婚式の⽬取りまで、そこで決まってしまった。
僕は27歳、まだ売れてない駆け出し放送作家、もっと売れてから30歳すぎに結婚したいと思っていた。逃げようと思えば逃げられたかもしれない。しかし、追い込まれて、逃げなかった。それが僕の結婚を決めた理由だと思っている。
「性格が合う」とか、「料理が上手い」とか、実はどうでもいい。「実は料理が下手だった」「ぐうたらで人はだらしない」と思うから。
鬼に「結婚前提に付き合ってるテイで口裏合わせて」と受話器を渡された時、電話に出ないという「逃げ」の手もあったが、逃げなかった。お義父さんに「長野に遊びに来なさい」と言われて、行った。「この日取りで」と言われて、従った。
プロポーズとかロマンチックな物語も素敵。けれど僕は、結婚なんて、気づいたら3年付き合っていて、気づいたら追い込まれ、断る理由もないので従う、そんなものでいいと思う。うちらは違うが、デキ婚=「妊娠した」というのも1つの「男が追い込まれた時」になるように。
だから、彼と結婚したい女性は、かつて伝説のバラエティ『電波少年』で芸人が目隠しされて現場まで連れて行かれ、T部長に「やりますか? やりませんか?」と形のうえでは判断を本人に委ねながら「やりません」という答えはほぼできなかったように、彼を追い込めばいい。追い込んでみて「いろいろ準備が整ったらプロポーズするから」と逃げるような男は、おそらく待ったところでプロポーズしてくれない男だと思う。
追い込まれて、逃げない……それも1つの「男が結婚を決める理由」だし、結婚できる相手かどうかを女性が見極める方法だと、僕は思う。
大事なのは、結婚の環境が整うことよりも、タイミングよりも、信念だ。
今、あなたが結婚したいと強く思っただけで、昨日より一歩、結婚に近づいたと思う。
ちなみに、僕の兄は24歳という若さで結婚したのだが、僕が「まだ稼げてないのに結婚なんて……」と言った時、こう言った。
「男は、一人前になったから結婚できるんじゃない。結婚することによって自分を追い込んで一人前になるよう頑張る、という考えもあるぞ」と。
僕が、結婚して数年、幸い、僕の仕事が増えて、周囲から〝売れっ子放送作家〟と呼ばれるようになると、鬼はドヤ顔でこう言った。
「お前は、誰のおかげで売れたと思ってんだ?」
鬼の追い込みは、しぶとく、恐ろしい。