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探偵の知識

つかむべき袋は「胃袋」より「タマ袋」より「ご祝儀袋」

2025年11月19日

浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB

映画『極道の妻たち』に、こんなセリフがある。
「ええか、わてらの惚れたはれたはタマの取り合いやで。あんたも極道の女やったら、腹くくって物言いや」
一度でいいから美女に自らのタマキンを奪い合ってもらいたい。と思っていたのだが、ここでいう「タマの取り合い」のタマは、睾丸ではなく、命(たましい)。命を取るか取られるか、極道は恋愛も命がけ、という意味だとあとで知って恥ずかしかった。
ついでに言うと「あいつはそんなタマじゃない」と言うときのタマは、「あいつはそんなでかい器じゃない」という意味のタマではない。その人の器、度量のこと。
僕の母ヒデコ(でぶ)も、なかなかのタマで、「男なんて、タマ袋と胃袋さえつかんどきゃー、給料袋もつかめるでね」と下品なことを言う。

たしかに僕の両親(ヒデコとマサユキ)は、よく喧嘩もしていたが、マサユキは完全に、ヒデコに「胃袋」も「給料袋」もつかまれていた。
ヒデコは、料理を作るのも食べるのも得意で、家族が料理を作りたがりでチョイチョイつまみ食いしているせいか、僕ら家族と、一緒に食卓に座って食べるのを見た記憶がない。ずっと台所に立ち、できたら運び、次々と、揚げたて、焼きたて、炊きたてが出てきた。
マサユキもヒデコの美味しい手料理が楽しみだったのだろう。仕事が終わればまっすぐ家に帰り、お酒が大好きなのに、外で飲んで帰ってくることなどなかった。
マサユキは「胃袋」だけでなく「タマ袋」も、それなりにつかまれていたようで、浮いた話などなく、今の僕とは、顔はそっくりなのに性格は真逆だなと、鬼(僕の妻)によく言われる。
さて、そんな両親を見て育った僕は、鬼に「タマ袋」も「胃袋」もつかまれず、ただただ「給料袋」だけをつかまれ、それでもなぜか、気づけば結婚して19年近く続いているのはなぜだろう?
結婚式のスピーチの定番「3つの袋」の話。「胃袋」はたしかに大事。もし結婚したい相手ができたら、まずは胃袋をつかむのが近道だとよく言われる。

文句を言うと、「うちは食い意地じゃありません!」と怒られ、泣きながら僕は一人コンビニに福神漬けとらっきょうを買いに行く。一度腐るものじゃないから買うておいてよ、と言っても、「お前しか食べないから腐るし、お前は決めた家に妻でご飯を食べないだろ」といって、鬼の言い分で、買い置きをしておいてくれない。福神漬けとらっきょうごときを。
料理を、僕の好みにしてくれない。「胃袋」も「タマ袋」もつかまれずして「堪忍袋」が鍛えられる日々。しかしながら、それもまた現実、それもまた結婚。
そういえば、先日、知り合いの結婚式があった。
朝起きると、それ用のスーツやネクタイと一緒に、ご祝儀袋が新札を入れた状態で用意されていた。鬼は字が上手く、宛て名なども書いてあった。もし独身だったら、朝、慌ててスーツを探しながらつかつかからず、コンビニに行ってご祝儀袋と筆ペンを買って、銀行に寄ってお金をおろしと、大騒ぎだっただろう。
お葬式の時も、朝、喪服と香典袋が用意されている。結婚すると祝儀や香典の「袋」を用意する場面が何度もある。そのたびに思う。「袋」の表の字が上手いと頭が良さそう。「袋」を、昔は何も知らなかったが徐々に慣れて持っていくとデキる大人に見られる。あと、「袋」に入れる金額の相場がわかっていると大変助かる。それらはすべて鬼が教えてくれた。

た。こういう時、悔しいけど「つかまれてるな」と思ってしまう。
そんな鬼は、ヒデコの誕生日に、毎年、僕に断りもせず勝手に「豚の味噌漬け」を送っている。「豚の共食いだな」とへらへら笑いながら。やはり、鬼は鬼で僕の「お袋」の「胃袋」をつかんでいる。
結婚において、様々な「袋」をつかむのは、たしかに大事なことなのかもしれない。だから、お嫁さんから、お袋さんになっていくのか。
「ええか、わてらの惚れたはれたはタマの取り合いやで。あんたも極道の女やったら、腹くくって物言いや」