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探偵の知識

「理想の結婚」とは「離婚しない」結婚である

2025年11月19日

浮気とは「午前4時の赤信号」である。
すずきB

僕が尊敬する、女医でタレントの西川史子先生が離婚した。離婚の理由について彼女は、「私が結婚生活のハードルを上げてしまったから」と言っていた。曰く、「妻は家で料理を作り、夫は帰宅しそれを食べるもの」など、結婚の理想像を描き、期待しすぎ、それにハマらなかったことに腹が立った。
結婚したら夫婦はこうあるべき、こうありたい、という理想と、実際結婚してみたら、なかなかそうはいかない現実。誰もが一度は、結婚してからその狭間で、悩む。
あんなにやさしかったのに、冷たくなった。
あんなに誠実だったのに、ウソをつくようになった。
あんなに私に一途だったのに、女の影が……。
あんなにラブラブだったのに、ちっとも私を抱いてくれなくなった。
あんなにカップル良かったのに、太ってハゲて、見る影もない。

なんだそれ、である。結婚なんて、そんなもんだよと言いたい。そんなマイナス要素も受け入れながら進んでいくのが結婚なんだと思う。「理想」という言葉を調べると「現実の対話として生まれた」とある。つまり、現実じゃないから理想とも言える。
芸能人がよく言う離婚の理由に「性格の不一致」というのがあるが、そもそも「性格」が一致してるものだと思って結婚したことが、また、その期待感が、間違っている。男と女は他人同士。性格がピッタリ一致してる男女なんてているわけがない。「性の不一致」のほうが、まだわかる(笑)。「私たち、エッチの趣味が違いすぎて……」。そんな会見聞いたことないが、まだそのほうが素直だと思う。
結婚はそもそも性格が一致しない赤の他人同士でするもの、という前提のほうが健全だ。
ロマンチックじゃないけど、そう思ったほうが離婚しにくい。ロマンも大事だが、結婚においてはロマン溢れる結婚よりも、離婚しない結婚のほうが偉い。離婚前提の結婚なんて、あってはいいはずないのだから。
僕の考えは、おそらく古い。それは、僕の母親、ヒデコ(でぶ)の教えのせいだ。
ヒデコは遠州弁(僕の故郷である静岡県西部の方言)で、よく言っていた。

「離婚しちゃー終わりだでね。離婚だけはしちゃいかん。離婚は遺伝だで、お父さんは離婚の家系だで」と。
離婚は遺伝!? 離婚の家系!?
カミさんや近眼は遺伝が原因の一つというが、そこにはおそらく医学的根拠がある。
家系というのもわかる。だが離婚が遺伝と家系とか、ヒデコ(でぶ)は、自分の旦那をつかまえて何を言ってるんだと思った。
しかしよくよく聞くと合点がいった。ヒデコ曰く、僕の父マサユキ(ハゲ)の親戚は、離婚してる家系ばかり。マサユキの兄弟は、ほぼ全員、離婚してるか別居してる。マサユキの姉の家なんて、親も離婚して娘も姉妹揃って離婚してる。
一方、ヒデコ家系は、離婚してる家がない。離婚は遺伝……。もし、嫁いだ我が娘が「離婚したい」と言い出した時、離婚した親だと、「もう少し我慢しなさい」とか「こうしたらどう?」と娘をいさめにくい。アドバイスも説得力に欠ける。止めに入ったところで、娘に「お母さんたちだって離婚してるじゃん」と言われるのがオチだろう。
また、離婚してる家が親戚にあると、「あの家だって離婚してるし」と、なんだか離婚が普通に感じてしまうというのもあり、その家族の中では離婚に抵抗がなくなる、しやすくなる。それをヒデコ的に言うと「離婚は遺伝」「離婚の家系」ということになるのだと、あとで理解した。

離婚するとどれだけ大変かをヒデコに聞かされ育った。マサユキ側の「離婚家系」の血を引いてはならぬ、離婚はしちゃいけないとヒデコに叩きこまれた。
もちろん実際、世の中には、離婚したことによって逆に幸せになる人もいるし、離婚しないことで不幸から逃れられずに苦しんでる人もいるから、一概に「離婚=悪いこと」とは言えないことも、十分理解はしている。
ただそれで僕らは、「理想の結婚って何ですか?」と聞かれたら、「離婚しない結婚」と答えてしまう。なぜなら、理想の結婚、理想の相手なんて、結果論でしか言えない。つまり、どんなに似合いの夫婦でも、どんなに相性が良くて理想的なカップルでも、離婚した瞬間、理想のカップルじゃなかったことになる。
一方、周囲からは仲悪く見えていても、なんだかんだ言って続いていて、離婚せずに添い遂げられたら、それは結果的に理想の結婚、理想の相手だったと言える。ゆえに「理想の結婚」は「離婚しない結婚」なんだと思う。

僕の両親は、いつもケンカばかりしている。しかし「別れない」といつだけでは実は仲良し、理想の結婚なのだと思える。ヒデコはカツ丼を食べながら僕によく言った。
「夫婦喧嘩も栄養だでね……」
栄養? 僕はそれを聞いて、こう解釈している。
そもそも夫婦は、もともとまったく違う土地の、まったく違う土。結婚というのは、それを混ぜて1つの土壌にしていく作業。違う土地の違う土なのだから、成分がぶつかり合って当然。夫婦喧嘩や、ズレ、ぶつかり合いの摩擦こそが、バクテリアが栄養を生む瞬間。養分があっての肥沃な畑。そこに芽が出て、花が咲き、2人だけの果実が成る。だから、結婚とは「土と土を混ぜていく作業」なのかなと。
結婚は「する」ものでなく「育てる」もの。「すれば幸せ」というものでなく、結婚した時点では未完結、まだ“ゼロ”。夫婦で土壌を耕し、育んでいくものだと思う。
そういえば西川史子先生は、離婚の理由を「夫が浮気したとかではない」とも発言していたが、世の中では「浮気」が原因で離婚する夫婦も多い。理想の結婚を目指すなら「浮気しない男」を探すのでなく、「夫の浮気」と付き合っていく方法を心得ておくといい。そのほうが「離婚しない結婚」=「理想の結婚」をつかむことになるのだと思う。